心は逃げる。身体は進む。
三題話
お題
「手をつなぐ」
「感触」
「ずっと」
手を繋いだときに感じたぬくもり。身体に染みついた貴方の感触。
私の手を優しく包み込む大きな手、心を温めてくれる大きな手、愛する貴方の大きな手。
ずっとずっと感じていたい。
そう思っていた。ついさっきまでは……。
◇
例えば彼氏が自分以外の人と手を繋いで歩いていたら、どうすればいいのだろうか。
それが彼の姉や妹なら、まあ許容範囲内か。ギリギリだけど。
それが家族でもない女だったら、彼氏に怒りを向けたりその女を罵倒したり、もしくは自分の至らなさを嘆くことが出来る。
でもその相手が、男だった場合はどうすればいいのだろう。
男だった場合。男だった場合だ。
何に対して怒れば良い?
誰に対して怒れば良い?
私の存在って、一体何なの?
とまあこんな感じで自問自答を繰り返すこと五分と四十三秒。その間も二人――私の彼氏と知らない男を見失わないように、彼らに気付かれないように尾行していた。
コンビニから手を繋いだまま出て来たところを見かけて、声を掛けることが出来ないまま後を付いて歩いている。
二人が周りを窺いながらある建物へと入っていったところで、私の微かな希望は完全に打ち砕かれて一片も残らずに消滅した。
ああ、私とは一度も行ったことないのに……。
いやいや、まさか同性でそんなことはね、何もないよね。というか私の勘違いだよね。
だっていつもすごく優しくしてくれるし。
まさかそんな彼が、ね。私だけだよね。
昨日もいーっぱいちゅうしたりいちゃいちゃしたもん。だから大丈夫。
とまあこんな感じで現実逃避を繰り返すこと二時間と五十分と三十七秒。その間彼らが入って行った建物の出口が見えるところでじっとしていた。電信柱の裏に隠れながら。
そして出て来た二人。
周りに人がいないことを確認してから、ちゅ。
ばかやろう! これでもまだ希望を持ってたのに!
私はスマートフォンを取り出して、カメラを起動して、見つめ合っている二人をパシャリ。並んで歩く二人をパシャリ。
これを戒めとするように、撮った写真を待ち受け画面として登録する。心がズキズキと痛むのはなぜだろう。
そのまま家へ帰り、ご飯も食べないまま布団にくるまって泣き通して、何時間か経過した。
泣き止んでから一度顔を洗いに洗面所へ行って、私は親友へ電話を掛けた。
十回以上コールして、親友はようやく電話に出てくれた。
『んあ、どうしたの? まだ外は真っ暗だよー……』
眠そうな親友の声を聞いて少し申し訳ない気持ちになったけど、私は続けた。
「あのね、少し話を聞いてほしいの」
心は逃げる。身体は進む。