いつつの鐘 レインメイカー ①

その①

『 行っちゃったね… 』

そう 和美が呟く

今、万智・和美・萌の3人は
空港に来ている

コウが英国(イギリス)にある
星空学園の姉妹校に交換留学生として
選ばれる名誉を受けたのだ。

コウの家は茶道の家元。

【イギリス】といえば【紅茶】

お茶繋がりなのか?

その為所(せい)かどうかは
選考委員会のみが知るところではあるが

そもそもコウ自身が留学を
強く熱望していた為
我念願叶ったり、といった感じで
意気揚々と旅立っていった。

真夏だというのに【着物】を
着込んでいったのが
なんとも不安な所ではあるが。



万智達3人はその見送りに
やってきたのだ。


まあ、留学といっても約1ヶ月

すぐ帰ってくるだろう。

『さっそくやらかしてるね・・』
万智が呆れた様に和美にそう話し掛ける

『着物にブーツっていうのはすこしね…』
和美も少しため息をつき、そう返す

萌は二人のその意見に
何故か【おどおど】している

実はあのコーディネートは
萌がコウに強く勧めたものだ。

そのコーデは自信満々であったのだが・・

いや、ファッションの国イギリスでは
きっと評価される!

そう願い
自らに思い込ませていた。


その萌の格好はと言えば
【フリル満載のワンピース】に
足袋を合わせ
ポックリを履いている。

その驚異のファッションを目にし
はじめ息を呑んだものの
万智と和美が突っ込む事は無かった。

友人(ひと)に優しく

萌と少し距離を置き
二人ともただ【ガンバレ】と
心の中で言ってやるのが精一杯

『じゃ、帰りますか』
万智はこの後もアルバイトが
控えているのだ。


いつまでも
アイドルを夢見る奇天烈な格好を
している奴には
付き合ってられない

『じゃ、和美ちゃん!歌いに行こうよ♪』

そう、萌のカラオケへのお誘いが
和美に向けられる

『う~ん、うん!行こっか』
和美が苦笑いしながら
萌の誘いに応じる

・・・・ジャイ子リサイタル?
万智の脳裏には
ジャイアンのあの歌が
流れていた


そして空港出口へと歩いていく3人




そんな3人から少し離れ
金髪碧眼の美しい少女が歩いていく


━━━━━━━━翌日━━━━━

教室【朝のHR】

『コウさんと入れ違いで
イギリスから留学に来られた
【アリス】さんです』

そう、担任が少女を紹介する

『 アリス=アルビストンです』

教室にいるクラスメイトを右から左へ
チェックする様にグルリと一瞥すると
響きの良い流暢な日本語でそう
静かに発する美少女

まさしく【金髪碧眼】ではあるが
眼が一切笑っていない

━━此所には【在庫】は無いようだ━━

アリスはクラスを一瞥すると
そう微かに呟いていた


透き通るほどの白い肌に紅い唇が
やけに印象に残る

『ああ、私は私でやるべき事がありますので
貴方たちは私に聞かれた事のみ答えれば結構、
あまりそちらから話し掛けないよう・・・』

片手を開き
真っ直ぐに突き出すと
そう宣言したのだ。

その言葉に絶句する
担任と生徒一同

担任
『 ア、アリスさん?!』

アリス
『そもそも来日自体【留学】ではありません
(とど)まり(まな)ぶ・・・?
私がこの地で学ぶ・・?なにを?』

フフン、とアリスが微笑をみせる

その後
担任による注意があったものの
アリスにそれを
真摯に受け止めている様子は一切ない

万智はこの一件を目にし
驚きと共にゾッとしていた。

クラスメイト全員も
ただ呆気にとられている。

だが、
万智が戦慄していたのは
【アリスの態度】に、ついて では無い

その突き出されていた片手

その【手相】を垣間見て、だ。

━━━━あの【相】は・・!?━━

万智が隣席の和美にソッと告げる
『あの()には…【絶対】に!
近寄っちゃ駄目だよ!』


『きっと日本に着いたばかりで…
ちょっと疲れて
ピリピリしちゃってるんじゃないかな?
本当はきっと良い人だよ』

そんなノンビリした和美に
『とにかくダメ!』
と、念を押す万智



そんな中、
教室の扉が突然ガラリ!と
勢い良く開く

『ホントに!まいどスミマセ~ン♪』

現れたのは遅刻常習犯【ツグミ】だ。

微妙になっているクラスの空気のなど
どこ吹く風の笑顔

そして
目の前の【アリス】に
ようやく気付くと

いきなりその手を握り締める

『あ!コウの代わりの人でしょ!?
ここのクラスに入ったんだ♪
コウが隣だし、
てっきり隣のクラスかと思ってたけど!
とにかく、よろしく!』

そう捲し立てると
握り締めたアリスの手をぶんぶんと
上下に振り回している。


・・・・だが、不思議なのはアリスだ。

この無礼ともいえる
ツグミの行為に全く怒っていない。

それどころか・・
うっすらと
微笑みさえ浮かべている

━━━在庫ひとつ━━━━


そのアリスの呟きに
気付いた者は誰も居なかった。


そして朝のHRは終わった。


その後
午前中の授業で
アリスの【非凡さ】を
教師陣と生徒達は
目の当たりにする。


全ての科目で
明らかに【レベル】が違っている

なんと現国、そして古文でさえ
教師陣以上の知識を有しているのだ。

たじろぐ教師陣を横目に
アリスは
涼しい顔をしている。


そして午後になり体育の授業となった

本日は格技・柔道である

やはりこの
体育でさえも
アリスの能力は突出していた。

━━━━━格技場━━━━━

『Judo?ああ、【ホームズ】の・・』

そう体育教師に呟くと

『意味がありませんので私はけっこう』

そう宣言したのだ。

その言葉に
━━━━どういうつもりなのッ!

と顔を赤くし、興奮気味に詰め寄る教師

『 護身術なら、こんな
【オママゴト】
ではなく、もう身に合うモノを
本国(イギリス)で修めてありますので。』

またもや涼しい顔でそう
フフン、といい放つアリス

『・・なんなら、試してみますか?』

その一言に
教師がキレてしまった。

対戦相手には
やはり【萌】が選ばれた。

萌は先日行われた
柔道の県大会・しかも重量級にて
【ダントツ】で優勝している。


アリスが来日する
ほんの少し前

その優勝の栄誉は
全校集会にて讃えられ
その優勝旗は誇らしく
校舎正面玄関を入ってすぐの
ガラスケースに飾られている

そして来る全国大会を前に
コンディションも絶好調と
いったところだ。


その【萌】と対峙する【アリス】

体育の授業前、用意された柔道着を
拒否したアリスは
自前の【黒一色】の運動着に
身を包んでいる

『手加減は一切無用です、化け物。』

身長160㎝ほどのアリスが
180㎝近い巨体の萌を前に
躊躇せず
そう ニヤリ、と挑発する

普段は気が弱く優しい萌では
あるが
さすがにこの言葉には
カチンと来たようだ。

一瞬で終わらせる!

その萌の巨体から
アリスの襟元へと
唸りをあげ掴みかかっていく豪腕

・・・・えっ!

この対戦を注目していた一同は
我が目を疑う

萌の右腕が掴んだ筈のアリスを通り抜けて行く
それでも流石と言おうか

一瞬、たじろいだものの
萌は諦めることなく
右!左!と詰め寄りながら
萌の両腕が高速で
アリスに連続攻撃を仕掛けていく

しかしその全てがアリスを
通り抜ける

まるで
アリスの実体の無い3D
【立体映像】を
相手にでもしているようだ。



そして



━━━パンッッ!

一瞬
風船が割れた様な【破裂音】が轟くと同時に

萌の豪腕が跳ね上がる

アリスの姿勢・立ち位置は最初から一切
変わっていない

いや、よく観ると
いつ着用したのか
【薄い革の黒手袋】がアリスの
両手に嵌められている。

そして【破裂音】の直後、パパパンッッと
今度はまるで【爆竹】の様な連続音が響く

一瞬の間を置き

崩れ落ちる萌

まるで【魔法】のようだ。

いったい何が起こっているのか

この場でアリスを除けば
1人だけ

・・・そう、1人だけ
その内容を
ハッキリと、…では無いが
なんとか把握していた者がいた。


【万智】だ。

━━━━━

・・・・あれは・・・
【 ボクシング 】?
いや、似ているが違う!
しかもアリスの攻撃が明らかに
《萌の攻撃の暫く後》に
繰り出されている

とてつもない動体視力
【スピード・反射神経】

萌の【組手争い】のスピードは遅くない
むしろ超高校級だ。

その【後の先】を余裕で取っている
アリスが異常なのだ。

防御にしても完全に眼で確認してから
ギリギリの距離で躱している。
おそらく【ミリ単位】で!
その直後にはもう(たい)
驚異的なスピードで戻している

だからまるで
【すり抜けている】様に見えるのだ

あのスタイルをボクシングと仮定するならば
【悪魔王子】とも呼ばれた
不世出の天才ボクサー
【ナジーム】をも彷彿とさせる

しかし、・・・わからないのは
あのパンチだ。

あの連打はいわゆる【1-2《ワンツー》】ではない。

完全に同時に繰り出されているし
あの体勢ではウェイトも載らないはず

ボクシングならば
あり得ない攻撃方法だ。


それでいて、あの連打速度
あの威力

ーーーあれはいったい・・


━━━━━━━━━━━━━━━━

その後、保健室に運ばれた萌に
外傷は一切無かった。

完全に
【意識のみ】を瞬時に
吹き飛ばされたのだ。

アリスの技を彼女の言う通り
【護身術】とするならば

たしかに【授業レベルの柔道】などは
比べるべくもなく
遥かに上を行っている

柔道の道徳
【みち】に関しての《教育観念》は
兎も角として。


しかも、
対象となる相手には
外傷のひとつ
さえない。


体育教師もアリスの態度に
納得は出来ないものの
その口をつぐむ事を選択した様だ。



・・・・中編へ続く

いつつの鐘 レインメイカー ①

いつつの鐘 レインメイカー ①

全四話です。その①

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-08

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted