蛍光灯に太陽を見る
原風景
排気ガスのにおいを嗅ぐと、懐かしい気持ちになる。
日差しを浴びて、自転車を漕ぐ。
車に追い越される。
鼻にかおる排気ガスのにおいが、
ランドセルや制服を思い出させる。
僕は、平成うまれ。
都会ではないけど、田舎と言い張れるほどでもない場所で育った。
でも、そのどちらも、僕に何か関係している気はしない。
口をぱくぱくと、する。
大きなボストンバッグに入って、父に運ばれる。
ファスナーの開く音までは覚えてない。
真っ暗な中揺れた後に、光が漏れ出す。
かばんから出ると、さっきとは違う場所。
そんなことをぼんやりと覚えている。
醜
すれ違った、車いすの人。
僕はきっと、三歳だった。
彼/彼女の、麻痺した顔面に、
ひどく救われた気になった。
永遠の裁き
何とか思い出すぼんやりとした昔。
確かに彼も僕だけど、確かにこれも僕なのに……。
僕たちは、子どもに対応する。
子どもたちも僕たちになるのに、それを無視して、
僕たちはまるで、ある日突然大人で生まれてきたような気持ちで……。
僕はかつての僕を思い出す。
彼もまた、自分が大人になることを想像できず、
回りの大人が、違う生き物に見えながら、彼らと付き合う。
彼はいつか、僕になった。
僕は考える。どこで間違えた?
一つの可能性を考える。
もう、生まれる前から?
テレビの「お酒」や「合コン」の話題がピンとこなかった。
仲間はずれだったあの頃はもう過ぎたけど。
あの頃に戻りたいわけじゃない。
あれはあれで、確かに辛い日々だったから。
思い切って死ぬ勇気もない。
責任感がないから。
作ったものや記録を消して、
空になったような気持ちで生まれ変わるだけ。
消えきらなかった記憶を何とか思い出す。
いつか思い出せなくなったその日、
僕はいなかったことになる。きっと。
一日残らず思い出せるわけじゃないのに、年は取ってる。
不思議だ。
私私私私私
世界中の苦しみを足したって、僕の辛さには敵わないんだって、堂々と言いたかった。
不幸比べに混ざるつもりはなかった。
自分の昔話をする人も、世界情勢を語る人も嫌いだった。
僕はタイムマシンに乗って、いつかの僕に会いに行くんだ。
「君は確かに、この世界で一番辛い思いしてる」って、言いに行くために。
そしたら僕は救われただろうか。
今の僕は消えてなくなっただろうか。
僕が出会った何人もの人の、たった一人にそんな人がいても、
僕は気づくことが出来ただろうか。
蛍光灯に太陽を見る