Boss

硝煙の臭いが立ち込める。
「悪かったですよ、ボス」
銃撃戦が行われているであろう場所から平然と歩いてくる影が2つ。
1人は長身で金髪の男。もう1人は、赤いスーツを着こなした少女だった。
赤いスーツの彼女は不機嫌だった。もともと、口数も多い方ではないが、今日は特にこの男の言葉を無視していた。
「あ〜もう、聞いてくださいよ………」
かれこれ、このやり取りを何回したか分からない。
彼女は、とりあえず、男の話に耳をかたむけているが聞いている様子はまるでない。というか、聞く気はないといった態度だ。
これは話題を変えるしかなさそうだと判断した男は、先ほどの軽い調子を捨てて、今、起きている銃撃戦の詳細に話を切り替えた。
「裏切り者の勢力は、ほぼ潰しました。1人捕まえて拷問したところ、首謀者は………」
「分かっている。あの男の野心は昔から見ている。」
無機質な声に、男はキョトンとした後、すぐにヘラッと笑っていった。
「なんだ、知ってたんですか。」
「私はまだ若造だからな。それを気にくわない輩も多いだろう。」
「いや、あんた以外に、ここのボスは務まりませんって。」
幾ら、若くしてボスになった少女が気にくわなくても、彼女以上に組織をまとめ上げられるだけのカリスマ性はない。だが、そう思わない輩が後を絶たないもの現状としてある。
「毎回毎回よくやりますよね〜。あ、ほら、居ましたよ。あそこ。」
彼女たちが、銃撃戦の中を歩いていたのには理由があった。それは、今回の首謀者である男を始末するためだ。組織に反した物は、例え誰であろうと容赦はしない。
足を撃たれたのだろう。立てない男が、ガタガタを震えながら悶えていた。
「やぁ、元気ですか?裏切り者さん。」
そう言って男が声をかけると、裏切り者の彼は更に顔を青ざめた。
そんなに震えてしまうくらいなら反旗など翻さなかったらよかったのに。バカな男だとボスの隣でため息をついた。
「スカルラット………ヴィオーラ………」
「残念だ。貴様の優秀さを買っていたのに。」
そうボスが言うと、
「お前などの下で働く気はない!スカルラット、幾らボスの娘で、その権力でボスの地位についたといっても所詮は子どもで女だ!このコローレのボスが務まるはずもない!」
と吠えた。
そして、ニヤついた厭な笑みを浮かべる。
「だから、反旗を翻す者が後を絶たないだろう?お前など、どこか別のマフィアの嫁になっている方がまだ価値があったと…………ぎゃぁぁ、!!!」
ヴィオーラは、裏切り者の足に銃弾を撃ち込んだ。
一発では足りなかったのか、何発も撃ち込む。
「………紫(ゆかり)、やめろ。」
スカルラットが止めるまでヴィオーラは、銃弾を撃ち込んだ。すでに裏切り者の男は、声にならない声で足を抑え呻いている。
「部下がすまないな。………だが、裏切り者には制裁を加えなければならない。」
本当に残念だよ。とスカルラットは言葉を零すと、何の躊躇もなく引き金を引いた。
ドォンと音がすると、男はドサッと地面に崩れ落ち、それを見届け、彼女は部下に声をかける。
「行くぞ。1つの勢力がなくなった。しばらくは他の者も大人しくなるだろう。」
「すみません、ボス。ついカッとなって………。」
彼女は首を緩やかに横に振る。
「あ、でも、任務中に名前で呼ぶのはダメですよ。」
何とも切り替えの早い男である。
「呼ばなかったら止まらなかっただろう。」
「そんなことないです。そうそう、
それと、準備が終わったら、香港に向かってくださいね。」
「お前、それ、本当に………」
「はい、そうですよ?ちゃんと言ったじゃないですか。この抗争が終わったら、商談やるって。」
あっけらかんに言うが、これは商談でも何でもない。
「ただの見合い話だろう!私は受けないと何度も………」
「ダメですよ?」
ヴィオーラの声のトーンが落ちる。
「向こうは由緒正しい格式あるマフィア。こっちはまだまだ新進気鋭の成り上がりのマフィアです。規模が違います。断りでもして向こうの機嫌を損ねたら、ウチの連中だってただじゃ済まないんですよ。」
仲間や部下のことをいわれて、スカルラットは言葉に詰まる。
分かっている、分かってはいるのだが。
「向こうだって、ボスと結婚したいとかじゃないんですよ。1つは牽制、もう1つはどれくらいの器量か見てみたいんでしょ。」
女性でマフィアのボスをやってる人なんて中々居ないでしょうからね。というヴィオーラの顔は生き生きしている。
楽しんでるのが丸わかりだ。
これ以上、この男に何を言っても無駄だと理解したスカルラットは1つため息をつくと家に向かって歩き出した。
それから数時間後ー………………。
ヴィオーラに見送られ、スカルラットは香港についていた。
「私1人では、荷が重いぞ、紫………。」
などとブツブツ呟きながら、香港の街の中を歩いていた。
彼女が今日、不機嫌だった理由はこれで、冒頭でヴィオーラが謝っていたのもこの商談が理由である。
もちろん、彼女に断るという選択肢はないのだが、それでも行きたくないのは事実であり、今も頭の中では、どうボイコットしようか考えている最中である。
まぁ、そんなことを考えても、コローレのみんなも後から来ることになっていて、逃げられない。他の国で仕事をしている幹部もいるので、そちらが着いてから香港に来る予定だ。
仮にもコローレのボスを1人で香港に送ったのは、今日の商談相手でもあり、お見合い相手でもある龍王(ルンワン)の息がかかった地域なら安全だろうとヴィオーラが判断したからだ。
スカルラットは、香港の街並みを見ながら、イタリアとは、全然違う雰囲気だなと素直に楽しんでいた。
そんな時だった。わずかに含んだ殺気に気づいたのは。
私を狙っている輩がいる、?
それも1つではない。複数だ。スカルラットの素性を知っていて、尚且つ殺気を向けてくるもの。どう考えても堅気の人間ではないし敵だと判断する。
街中にいては、一般人も巻き込み兼ねないので、ゆるりとした動作で裏路地へと入る。
後からヴィオーラたちが荷物を持ってきてくれる話になっていたから、スカルラットが身につけているものは、財布とケータイとパスポート、そして、二丁の拳銃だった。
懐に手を忍ばせ、拳銃を握ると、誘いに乗った敵の動向を伺う。動き出した敵を撃ち殺そうとトリガーに指をかけると、ドンッと音がして、ぎゃっ………と聞こえた声とともに1人、息絶えた。
緩慢な動きで後ろを振り返ると、そこには男が立っていた。
ボサボサな黒髪で、黒のスーツ姿。顔は端整な顔つきで、ヴィオーラと変わらないくらいの長身だった。
「お前が、龍王のボスか。」
スカルラットとそう歳も変わらないだろう。だが、圧倒的だった。端整な顔つきだけでも人を惹きつける魅力があった。しかし、それよりも瞳だ。あの鋭い瞳に惹きこまれたら逃げられない。
「そういうお前は、コローレのボスだな。」
そういうと龍王のボスは、スカルラットに尋ねた。
「なぜ、車を待っていなかった?気配を消して街に出られては、部下では気づかない。」
少し非難も混じっているようだ。
「香港の街並みを見てみたかった。」
本当はボイコットしたくて、しばらく行方をくらませたかっただけなのだが、街並みを見たかったのも本当だし嘘は言ってない。
「俺が案内する予定だったんだが。」
「すまない。自分の目で確かめたかった。」
そういうと、彼は、はぁとため息をついて、1発だけ発砲した。
そして、殺気と闘争心を剥き出しにする。
「構ってられない。失せろ。」
スカルラットは驚きもせずに受け流しているが、そこにいた敵の男たちは全員逃げ出した。
「お前も少しは怖がれよ………」
呆れと感心が混じった声で彼はこっちをみる。
「これくらい受け流せないようでは、コローレのボスは務まらないのでな。」
彼はもう1度ため息をつくと、自分の名を名乗った。
「蔡黎明(レオン・ツァイ)。お前は?」
「ヒイロ・フォンターナだ。普段はスカルラット・フォンターナと名乗っている。好きな方で呼んでくれ。」
「わかった。んで、ヒイロ。」
「なんだ、レオン。」
「申し訳ないが、ヒイロの部下が来る前に、ヒイロの存在を知った奴らが、ひと騒動起こそうとしている。」
だから、迎えの車に乗ってほしかったんだがなといいながら、レオンは周りへの警戒を緩めない。
「すまないな。迷惑をかけているようだ。」
「いや、こちらの揉め事で巻き込んでいるんだ。謝るのは俺の方。それで、だ。俺の家に招待する前に、少し喧嘩していくハメになるんだが、構わないか?」
抗争のことを、喧嘩の一言で片付けてしまうレオンは流石、古くからこの街を守るマフィアだ。こういった事態も慣れているんだろう。
「構わない。食事前のいい運動になる。」
そして、こちらも流石である。抗争ごとに対しては、毎度毎度、仕掛けてくる輩がいたので、慣れっこだった。
お互い若くしてボスになっている為、度胸もあり肝も座っている。
レオンはヒイロからの同意が取れたことにホッとし、改めて目の前にいるヒイロをみた。
イタリアでの新勢力の器量が知りたいという気持ちと、ほぼ同じ歳の女がボスに就任したと聞いて、無理やり商談を持ちかけた。
大したことがなければ、適当にあしらって帰ってもらおうと思っていたが、嬉しい誤算だった。
素直にこの女が欲しいと思った。
もし、ヒイロがマフィアのボスという立場でなければ、すぐにでも自分の伴侶として迎え入れているところだ。
まぁ、今は無理でもいずれは。と考えつつ、家に最短で帰れるルートを頭の中で描く。
「こっちだ。」
彼女に案内しながら、敵も同時に沈めていく。
ヒイロもヒイロで、レオンのサポートをしながら、敵を殲滅する。
他の追随を許さないほどの暴力で、若きボスの2人は敵を圧倒し息を乱すこともなく、龍王の本拠地へと到着した。
「大きいな………」
迷いそうだと呟いている彼女にレオンは、
「俺が案内するし、何か用があれば、俺の部下を遠慮なく使え。」
といった。
「さすがにそれは申し訳ないだろう。」
とヒイロは渋い顔をする。
たわいのない話をしながら、大部屋に向かう。ドアを開けると、ヴィオーラたちがいた。
こちらをみたヴィオーラが焦った表情をした後に何事もなかったをみて理解したのか安堵した表情を見せた。
「びっくりしましたよ。ボス2人が行方が分からなくて、反勢力が抗争を始めたとか聞いたから………」
「悪かった。お前のボスを巻き込んだ。」
レオンが頭を下げるのをみて、ヴィオーラは慌てて首を振った。
その様子がおかしくて、少し笑う。
「ボスが笑った………」
もう1人の幹部、リーノが呆然とする。
「私だって、面白い時くらい笑う」
むすっとした表情で答えれば、今度はレオンが笑い始めた。
その様子に今度は龍王の人たちが驚くものだから、ヒイロもレオンもおかしくなって、声を立てて笑い始める。
そこで、コローレも龍王も、この2人意外とお似合いなんじゃ………と思ったのは内緒である。

そんなこんなで、商談は無事に成功し、今では、コローレと龍王は同盟関係にある。
お互いの国を行き来したり抗争に巻き込まれたりと色々あるが、関係は良好だ。

「久しぶりだな。」
「本当に。レオンも元気そうで何よりだ。」
「ヒイロもな。」
お互い、背中合わせで声を掛け合う。
「そして、なんで、こんなことになっているんだ?」
ヒイロが問いかけるとレオンは不敵な笑みを浮かべた。
「喧嘩を売った。」
「なるほど、程々にな。」
そんな返しが返ってくるとは思わず、レオンは吹き出した。ヒイロはわけが分からず首を傾げている。
敵に囲まれ、どちらかと言えば、危うい状況にいるのに、どちらのボスも余裕そうだった。
「なぁ、ヒイロ。」
「ん?なんだ?」
「ここを切り抜けたら、聞いて欲しいことがあるんだが、いいか?」
「構わないが、重要なことなのか?」
「ああ、すごく。」
「わかった。」
お互い、そんなに喋る方でもなく、会話は短いが、大事なことだと伝わったようだ。会話が終わり、あとは目の前にいる者を暴力でねじ伏せるだけ。
2人の雰囲気が変わり、マフィアのボスとしての顔になる。
「沈める。」
お互い一言呟くと、背中は任せ、圧倒的な力で目の前の敵をねじ伏せにいった。

そのあと、軽々と敵をねじ伏せ、また新たにコローレと龍王の名を世界に轟かすことになる。

Boss

マフィアものは書きたかったです。香港マフィアってかっこいい。
今回は、イタリアと香港のマフィアの話で、名前を決めるのが難しかった。
広東語って全然分からなくてしんどかったです。
でも、楽しかったです!銃ってかっこいいね!ボスってすごいね!
と興奮冷めません。

Boss

イタリアンマフィアと香港マフィアの若きボスたちのお話

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-08

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