ENDLESS MYTH第3話ー12

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 空気を操作する。これがラーフォヌヌ人のドヴォルの能力。
 急激にニノラたちの周囲の空気中の酸素を瞬間的に二酸化炭素へ変化させ、彼らを窒息に追い込んだのである。
 他愛もない。
 そう言いたげな嘲笑で見下された4人。
 すると体内の酸素が不足し始めたのか、意識が薄れる4人。
 しかしそうした中で自分がこうした状況に置かれたことへ対するイラ立ちを、歪む表情へ乗せたジェイミーは、掌を透明な異星人の方向へ向ける。
 と、ドヴォル、ミンチェの周囲に白い靄が発生し、それは急加速度的に濃度を増して、またたく間に2人の視界を奪った。
 雲だ。ジェイミーの能力で発生した水蒸気の塊である雲が、2人の周囲にだけど限定的に発現した。
 舌打ちをしたミンチェが雲を突っ切り、高速で前方へ飛行して、視野の確保をしたのだが、その場に4人が居るはずもなく、姿をかんぜんに見失ってしまった。
「何処に隠れようと、命はいただくわよ」
 そう余裕の笑みをたたえた刹那、自分の周りの空気の温度が上昇していることに気づいた彼女は、慌て雲からゆっくりと顔を出した、透明なスライム状の人型生命体へ視線を向けた。そしてその場から自分だけが飛翔して逃げたのだ。
 皮膚が垂れた女性が何を意図して飛行したのかすぐに察したドヴォルは、周囲の空気を二酸化炭素へ変化させたのだが、一拍の時が足りず、熱エネルギーを利用した爆発に巻き込まれた。
 この時、地上では天に向けて掌をかざすイ・ヴェンスの姿が凛然と仁王立ちでそこにあった。
 仕留めたか!
 眼を剥くアジア人。
 だがしかし彼の身体は突如として異変をきたした。
 視野が狭くなり、分厚く大きな筋肉は痙攣を始めた、息苦しくなり、激しい吐き気に襲われ、胸部の痛みまで襲ってきた。
 なんだ、どういった攻撃だ。
 アジア人は、苔の産した大地に突っ伏して薄れる意識の中でつぶやく。
「酸素とは生物には必要不可欠な物質。ところがそれが有毒であることを、無知なる人は知らないのです」
 黒煙が消え姿を現したドヴォルは、平然と高みから、苦悶するイ・ヴェンスの巨体を見下す。
 爆発に巻き込まれる瞬間、酸素変換能力から、念力シールドの展開へと方針を変えたことによる、無傷であった。
「貴方の周囲の酸素濃度、酸素分圧を変更しました。貴方は急激な酸素中毒に陥ったのですよ」
 と、お得意の嘲笑をするのであった。
 丁寧に自らが行った能力の作用を説明するところが、イ・ヴェンスには逆に腹立たしかった。
 薄れる意識の中で、しかし身体の動かないアジア人にはどうすることもできない。熱エネルギーによる爆発を引き起こそうとしても、四肢が痙攣した状態では、能力を発揮することもできなかった。
「まずは1匹、害虫駆除というやつですな」
 透明な腕を伸ばして更にドヴォルは酸素の数値を変動させ、大男を酸素中毒という地獄へと追いやっていった。
 と、急激に地上から上昇してくる大きな殺意を感じたドヴォルは、意識をアジア人からそらした一刹那、凄まじい衝撃を脇腹に受けると、そのまま中空から落下、地面の岩場が砕けるほどに地面へと叩き付けられた。
 黒人青年、ニノラ・ペンダースが中空めがけ飛翔したのだが、その腕が顕著に変化していた。右腕の肘から先が大きく肥大し、黒い剛毛に覆われた熊の腕となっていなのだ。見た目ばかりではなく、怪力は拳を受けたドヴォルの姿が物語っていた。
 酸素中毒の呪縛が未だ肉体に残るイ・ヴェンス。けれども常人ではすでに致死となっているところを、驚異的な快復力で苔の上に脚を立て、筋肉を大きく広げて立ち上がっていたのだ。
 これを苦く見ていたのは、緑色の皮膚を垂らしているミサイルラン人である。今ならば自らの能力から逃れられまい。そう考え腕を踏み上げようとした。が、背後で思わぬ出来事が発生した。

ENDLESS MYTH第3話ー13へ続く

ENDLESS MYTH第3話ー12

ENDLESS MYTH第3話ー12

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-06

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