ENDLESS MYTH第3話ー11

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「どこまで飛ばされちまったんだよ」
 少年ぽい口調が不機嫌に、黒雲の下に響いた。
 彼を含め【繭の盾】もまた、この世界へ飛ばされていたのだ。
「 ちょっと どこなのよここは。草だらけじゃないのよ」
 あいかわらずの口調で アジア人の男に向かって 不機嫌に言うのは、やはりジェイミー であった。
 言われるほうの大男、イ・ヴェンスにとっては迷惑なことである。
 彼らが飛ばされた場所もやはり、無数の草に覆われていた。植物は彼らの知っている大きさではなく、近くにはビルをはるかに凌駕する巨木の森があった。周囲には植物以外には何もなく、広大な大自然がどこまでも続いていた。
 岩場に立つ彼らの影は、大自然の中では昆虫 ほど小さくちっぽけな存在に思えた。
 けれども本物の昆虫の姿はまるでなく、生物の気配は一切なかった。
「メシアを探さなければ」
 ピンク色の皮膚に緑色の渦巻き模様を施したニャコソフフ人は、うるさく口を動かす2人にはめもくれず、本来の目的である救世主の保護を第一として考えた。
「アニラ・サビオヴァが彼と一緒のはずだけど」
 ニャコソフフ人の姿をした、もう1人の人物、誰か他人に擬人する種族デンコーホンのバスケス・ドルッサが、メシアと行動を共にしているはずのトチス人のことを口にした。
「気配は確かにある。わたしにもそれは分かるが、どこにいるかまでは」
 サイラントイランの特徴である、蜘蛛のような額の出っ張りを、降り出した雨に濡れさせ、サンテグラ・ロードは周囲に眼を配った。
 全員がそれは感じていた。同じ宿命を背負った者どうし、気配で近くにいるのは感じられる。が、距離が遠ければ遠いほど、気配は薄れてしまう。
 アニラはそうしたギリギリの距離にいるようなのだ。
「とにかくこうしていても始まらない。この時のためにわたしたちは産まれたのだ。これから我らの本番なのだから、救世主を探しに行こう」
 イヴェトゥデーションの本拠で、ファン・ロッペンの能力を受けたニノラ・ペンダースは、痛む肩に軽く手を添えた。
「あなた達の運命はここで終わりよ」
 と、雨と共に中空から降ってきた声に、全員が身構えた。
 空は分厚い黒雲が今にも落下してくるほどに垂れ込めていた。
 その下に稲妻に照らされた人の形をした人物の皮膚は、触手のように垂れ、薄い緑色の皮膚を覆う衣服は、妙に色気を香っていた。
 岩場に居た全員が身構えた刹那、ミサイルラン人のミンチェは腕を振り下ろした。
 すると岩場の周囲が突如、地面が抜けたように重力を失うと、岩場に居た全員の身体が落下したように感覚に陥った。
 いけない! と中空に飛翔した人影が居る一方で、そのまま口をポッカリ広げた地面の穴に落下していった者たちの姿もあった。
 中空に立っていたのはイ・ヴェンス、ジェイミー・スパヒッチ、マキナ・アナズ、ニノラ・ペンダースだけである。残りの6人の姿は完全に地面に呑まれ、そのポッカリと開いた穴はすでにふさがっていた。
「あら、しぶといネズミが4匹も居るのね。こういうの、テラだとドブネズミっていうのかしら」
 イヴェトゥデーションの施設で見た彼女の印象とはずいぶんと異なった口調であった。
 イ・ヴェンスが手のかざし空間に爆発を引き起こそうとしたその一瞬、彼らの背後に再び別の殺気が立ち上がった。
 大男の腕がそのまま背後へ振り向き、中空で大爆発を引き起こした。
 が、どうしたことだろうか、彼の能力の爆発は、まるで小さな花火が爆発したかのような、さほども爆発を引き起こさなかったのだ。
 掌ほどの爆発が発生したその後ろに立つのは、身体が透けて背後の風景が見えているラーフォヌヌ人のドヴォルだ。性別すら分からない、不可思議な種族である。
「爆発とは空気。炎とは酸素。爆発周辺の酸素を二酸化炭素へ変換してしまえば、爆発が広がることはありません。貴方の能力は、わたしの前では無意味なわけです」
 そう冷静に言い放った時、透明な眼球がギョロリと開いたように見えた。するとその場に居た4人は突然として息苦しさを感じた。
 それどころか空気を吸うという基本的な行為すらできない。
 空の上で彼ら4人は窒息したのだ。

 ENDLESS MYTH第3話ー12へ続く。
 

 

ENDLESS MYTH第3話ー11

ENDLESS MYTH第3話ー11

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-05

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