時を越える推理 第二章 2
「え?」
陽の事はよく知っている。
本名、野村谷 陽(のむらだに よう)は公の三個下の実の弟だ。
性格は社交的で、目上の人を敬うタイプで、公の目から見たら、なかなかできた弟、という印象が強い。
職もその性格を生かして小学校の教師という職柄に就いていた。現に学校の生徒からも同僚の教師からも好かれていたようだ。
その陽が死んだというのだ。しかも、話を進めていくと「殺し」だったというのだ。
「明日、関係者を集めて捜査会議が開かれるんだ。輝も俺の知人だし、陽の事もよく知っているって事だからお前も来ることになってる。明日の朝、十時からだからいつもみたいに遅れんなよ。」
最後の「遅れんなよ」にはいつもの説教みたいな口調ではなく生気が抜けた感じだった。
普段なら、少なくとも三十分くらい話しているのだが、今日は二人揃ってから五分も話さずいよいよ解散となった。
それにしても滑稽な話である。
いつも、百五十年も時効期間は要らないだとか、代々捜査権を引き継ぐ必要はないだとか色々な文句を喋っていたが、まさかその野次馬の一人が文句を飛ばしていた物の対象になってしまうとは・・・。
帰り、公は、行きの時と同じようにとぼとぼと歩いていった。
公のすんでいる家と待ち合わせの喫茶店は結構近い。
大人では普通に歩いても、十分かかるかどうか。幼い子供でも二十分もかからないだろう。
だが、公は三十分もかかってしまった。
その様子は、途方に暮れたリストラされたサラリーマンのよう。
公は家路につくと真っ先に自分の寝床に横になった。
外は既に雨雲が立ち込め今にも本降りになりそうだ。
今日は曇りだ。
時計の刻も五時を回れば、あっという間に夜となる。
公は泣きはしなかった。
悲しみより悔しさ、そして陽をころした犯人に対する憎悪の方が大きいのだ。これでは泣くにもなけまい。
公は、心中で強く思った。
それは、事件を起こした犯人に対する言葉なのか事件を防げなかった自分に対するものなのか・・・。
「ちくしょお!」
外は雨が降り始めていた・・・。
時を越える推理 第二章 2