アイス

杏子目線のお話です。

  あー、涼しい。
 夏休み真っ盛りの八月。

バイトから帰ってきてこの炎天下の中、自転車を漕いでやっとの思いで家に帰ってきた。
リビングに入るやすぐに、エアコンのリモコンへ向かう。
設定温度からピピピピピピピピと八度下げ、次は洗面所へ行き顔を洗う。冷たい水が出るのを待つ。
はやく、はやく冷たい水でろ・・・
 真夏はキンキンに冷えた水が出てくるのが遅い。お湯からだんだん冷水に変わり切らないうちに顔を洗った。
水が冷たくなっても尚バシャバシャと洗い続けた。顔の汗を流してほてりをとるだけで大分涼しくなった。

リビングに戻るとすこし部屋が冷たくなっている。次に冷蔵庫に向かい麦茶をとってコップに注いだ。
さやかとお揃いのグラスだ。夏らしく風鈴が描かれた色違いのグラス。アウトレットでさやかが買ってきたけど、二人ともとてもお気に入りだ。
勢いよく飲んだ。喉が音をたてている。次の瞬間むせた。
「っ!!ゲホっ!ゲホッゲホッ!」冷や汗をかいてしまった。せっかくすっきりしたってのに。
 落ち着いた頃やっとソファーに座り、直にエアコンの空気を浴びる。
体に悪いだろうなと思いつつもやめられない。暑くてイライラする。でも風邪ひいたらさやかに怒られるんだろうな、と思いつつも変わらずエアコンの真下で涼んでいた。

「ただいまぁ〜あづ〜い死んじゃーう、杏子~いるならこの荷物一緒に運んでよー」
 私の居候している家主が買い物から帰ってきた。

「只今、杏子は留守にしております、御用の方はまた次回どうぞ」
 元気よく、カタコトな表現で言ってみせた。

「いるじゃん!もう!ケチ!」
 いつも思う。アタシらっていつ素直になれるのかなって。心の片隅ではそう思ってるんだけどなんかできない。素直じゃないのがもうデフォルトになってる。

「あ!この部屋涼しい!帰るの早かったの?」
「いやぁ?ついさっきバイトから帰ってきてやっとの思いでエアコンつけたからね。やっとクールダウンされてきたところにあのクソあっつい玄関に行けるかっての」
「じゃあ、もうエアコンの効いた部屋なんだから荷物しまうの手伝ってよ・・・」
 いじけるさやかをみて、あーもうこいつかわいいな、くそ。と思いながらさやかの元へ行き、しまう作業くらい手伝ってやろうと思った。
「これは冷蔵庫で、これが引き出しで……てか、相変わらず質素なもんばっかり買ってくるよな〜ちっとはお菓子とかアイスとかコンビニの唐揚げとか買ってくんねーのかよ!」
「あんまり食べると太るし、体にわるいよ、そーゆもの」
「アタシは気にしないよ!第一、この若さで健康やらなんやらいってられるか。ていうかつい数年前まではジャンクフードとお菓子しかたべてなかったし、まあよくてコンビニ弁当?だけど体もそんな不調になる感じはなかったぞ」
「……。昔の体と同じにしてどーすんのさ…」
 あ、ちょっと空気がやばくなった。と杏子が焦りだした瞬間

「第一、そんなに食べたいなら自分で買ってきてよね!」
 あー。あたしには見える。見えるぞ。さやかの『怒りボルテージ』が急上昇しているのが。
このままMAXになって喧嘩っぽくなるのはいやだ。
「あー…悪かったよ…さやかだってこんな熱い中買い物してくれたんだもんな…」
「いや、それをいうなら杏子だってバイトわたしより働いてくれてるし…ごめん、すぐカッとなっちゃって…」
 そのあと無言で作業する二人。部屋はもう快適すぎるというか寒いくらいだ。そういう面では楽だがやっぱりちょっと空気が重くなった。

「ねえ杏子、エアコン何度に設定してあるの?少し寒くない?まだ帰ってきて間もないのに寒気を感じるよ…?」
 ギクッ。また冷や汗。
「ははあ~ん。さては。設定温度下げたでしょ。」
「あ、アタシはいじってねえ!あ、あれじゃねえの、妖精さんが暑くて暑くてたまらなくなったので設定温度をすこぉーし下げたんじゃ…」
 自分の口から『妖精』なんてものがでてくるなんて、相当焦ってるなアタシ。

「下げたんだね。もう。節約しよっていったじゃん!」
 さやかがエアコンの設定を見る。
「なにこれ!!!十八度!?そりゃ寒いよ!いくらなんでも下げすぎ!」
 ちょっと予想以上に怒られた。ピピピピピピピピと設定温度に戻される。

「まったく、八度も下げるとか何考えてんのよ!あのね、知ってる?外気温との差が五度以上になると体の温度調節機能がおかしくなって…」
「ああごめん!わるかった!アタシが下げた!妖精なんかいない!妖精は嘘だぁっ!」
「妖精が嘘なのは最初からわかってるよ…」
「どーしても暑くてはやく冷えてほしくてさ…つい…」
「もう、そんな子にはアイスあげません」
「え、アイスあるのか!」
心が躍った。
「私も食べたくってさ。この暑さじゃアイスぜったいおいしいだろうなあ~って。
杏子と食べたらもうそれは最高なんだろうな~って思ったけど、杏子はエアコンでいいんだもんね、私一人でアイス食べるからいいよーだ」
「さやか~あたしがわるかったよ~我慢できなくてごめんよ!だからアイスくれーー!」
「とれるものならとってみなさい!」
 さやかが窓際に逃げた。
すかさず追いかけて、まるで小学生が家に遊びに来てるかのようなにぎやかさになった。

「あははっ!!たのしい!はやくつかまえないとアイスとけちゃうよーん!」
 さやかの機嫌はもう直ったみたいだ。
「よーし、アイスが溶ける前に…本気出させてもらうよ!」
 ソファの上から大の字でさやか目がけて大ジャンプ!!!
「ちょ、杏子あぶなっ…」

バタン!!ゴンッ。

二人とも床に倒れこんだ。
「…ねえ、馬鹿なの…頭と肘ぶつけて痛いんだけど…」
「いってええええ!!!あれ、アタシそうでもないかも。」
「私が下敷きになったからでしょーーーー!!もう!ほんとにアイス上げないんだから!杏子の分まで食べてやるんだから!!」
 よくみたら、一袋に2つ入ってて二つに割って食べるタイプのアイスだった。アタシの好きなアイス。
さやかの手から強引に奪い取り、二つ同時に食べ始めた。

「ちょ…!!!!あんたね!!」
 どや顔でさやかにまたがって食べるアイスはなんておいしいんだろう。
 さやかは、もういいよ、と言わんばかりに深いため息をついた。
さやかの隙をみた。あともうちょっといじわるしてやろう。
 アイスをもう一回口に入れ、あきれ顔のさやかに口移しでアイスを食べさせた。
「!?んん!?んんんー!??!」
さやかは驚いてるけど御構い無し。
お互いの体温と、冷たいアイスと溶けたアイスがまざり合い気持ちいい。
気づいたらお互いアイスを忘れて深く、長いキスを続けていた。

呼吸が苦しくなってきて、ちょっと離してやるとさやかの目が潤んでた。
ちょっと目が合った。
しばらくの沈黙のあと
「私たち、フローリングに寝っ転がってなにしてるんだろうね」
「別にいいじゃん。」

こんな会話をして、さやかの隣にぺたっと移動した。
隣り合わせで二人で見つめ合うような体制だったが、さやかが上を向いたので同じく上を向いた。

なんか、アタシにこんな幸せな生活が来るなんて思ってもみなかったなあ。としみじみしていると、
「あああああああ!!」
さやかが突然叫びだした。
「ど、どうした!」
飛び起きると、さっき口の空けたアイスが床に垂れ流しだ。

「あああああああああアタシのアイス!!!!」
「べとべとになっちゃう!雑巾!ティッシュ!?なんでもいいから拭かなきゃ!」
「あ、あれ、雑巾はたしかこの辺だったような…」
「もう!杏子のせいだよ!!」
「なんでだよ!さやかだって同罪だろ!!」

 さやかが黙った。ほっぺが赤い。

 アタシたちって、女同士だけどこんなことしていいのかな…
 さやかも、同じこと思ってるのだろうか・・・

 二人とも無言で床の掃除をしていた。

アイス

アイス

まどまぎ杏子×さやかの二次創作です。ほんとに魔法少女の「ま」もない生活をこの二人にさせたいという願望から生まれました()

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-07-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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