IN THE BED FIRST STORY
IN THE BED FIRST STORY
羊は意気揚々と、手に持った網を片手に工場の中を進んでいく。
後を追うようにして僕は辺りを見渡していた。
「この先に何がいるの?」と聞こうとしたけれど質問したらきっと「黙ってついてくれば分かる」って言われそうだから黙ってた。
進めど進めど特に変わりは無かった。
工場はきちんと工場だし
作業員はきちんと作業員だし
僕はいてもたってもいられなくなって聞いてみた。
「ねえ?この先に何がいるの?」
すると羊はむっとした顔をして
「黙ってついてくれば分かる」と言った。
思わず僕は「やっぱり言った」と零すと聞こえてたのか羊は軽く睨むと、ぷいっとして少し早歩きに先に進んでいった。
しばらく歩いただろうか。
薄暗い機械だけの置いてある部屋に着いた。羊はちょっと悪そうな笑顔を見せると「やっぱりここか」と軽くため息をついた。
僕の目には特に何も映らない。
ただ暗い部屋の中に、機械が所狭しと置いてあるだけだ。
羊はそれを察したのか、持っていたランプにろうそくを置くとそっと部屋のドアを開けた。
中はただただ暗くて、どうにも涼しかった。電子音が妙に気持ち悪かった。
部屋の中央辺りまで来ると羊は僕に「扉を閉めてきてくれ。くれぐれも音は立てないでくれよ、気づかれたら逃げられてしまうからね。」と頼んだ。
分からない時はわかる人の言うことを聞け。お母さんから言われたのを思い出して、僕は可能な限り音を立てないでドアを閉めた。
羊はその手に持っていたランプのろうそくにマッチで火を付けた。
そしてあたり一面を照らすようにかざして見せた。
「さあ、出てくるんだ!」
ガサガサ、シュッ
部屋の片隅で何かが動いた!
目で追える速さではない、それが小さいのか大きいのかも、何色なのかも、何も分からない。
ただ1つ、きっとそれが羊の言ってたヤツなんだってことは分かって僕は少しだけ怖くなった。
暗闇は人を怖くする、だからかもしれない、でも怖い。
僕は思わず逃げようとドアに向かって走り出そうとした。
すると羊がその手を掴んで叫んだ。
「あの子の夢を壊す気か!」
僕は羊の目を見た。
羊は声とは裏腹に凄く優しい目をしてた。優しくて冷静で、とても心強い目だった。
その目を見ていたらなんだか落ち着いた。
大きく深呼吸をして首を横に振ると羊はほっとしたのかため息をもう1度つくと、辺りをぐるりと見渡した。
そして僕のポケットを指さして「渡したお菓子を出してくれ」と言った。
僕はポケットの中に入れていたお菓子を羊に渡した。
羊が包み紙を開けた途端部屋中に甘い匂いが広がった。それはまるで甘いガスのようだった。
羊はその匂いの中すーっと目を細めると1点を集中して見ていた。
聞いてる暇もなかったけれど、多分そこにヤツがいるって事が分かって僕もそこをぐっと目を開いて見ていた。
すると機械の後ろから叫び声にも似た何かの鳴き声?うめき声?がした。
どことなくオオカミにも似てるけど、鳥の様な甲高い声をしてる、そして不思議な位に不愉快な声だ。
それは僕の視界に現れるまでそう時間はかからなかった。
細長い目をした、ヨダレをだらしなく垂らした五本足の生き物だった。
一本の足はバネのようなものがついていてほかの4本より短い、多分ジャンプする時に使うのだろう。
なににせよ気持ち悪かった。
それはノロノロとお菓子に釣られるように近寄ってきた。
僕と羊の距離まであと少しの所まで近づいた時、羊が小さな声で言った。
「今だ。ヤツの頭を思い切り棒で叩いてくれ。」
僕は持っていた棒の持ち手を握ると力いっぱい振り下ろした。
バコン!
ぐぉっ!
ヤツの頭は驚くほど硬くって
叩いた手がじんじんして痺れていた。
羊はそれを見て「君はなかなかどうにも加減を知らないね、初めて見たよ、ヤツを一発でのす人なんて」と腹を抱えて笑った。
羊はヤツに近づくと網を取り出してその中に押し込んで口をしっかりと閉じた。
「これでよし」
羊の言葉に僕はようやく夢の中の夢みたいな出来事から
夢の中の現実に帰って、ペタンと座り込んだ。
何はともあれ、初仕事?は無事終わったのだ。
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