色音乃物語(四)
case 4 あるがままのふたりは
「――働くの?あきらくん」
「えっ。……なんで……?」
「ん。机の上に置いてあったあれ。税務署宛ての」
「……見ましたか」
「はい」
「……」
「あ。だめだった?ごめん」
「いや。大丈夫」
「無理せずに出来そうかい?」
「んー。なるべく精神の健康を損ねることなく続けられる様な、仕事っぽくない仕事の在り様を目指しているよ」
「ほー。よさそうだね」
「うん。なんとか。やってみるよ」
「後ろ盾はあるから心配しなさんな」
「しのたん」
「ん」
「ありがとう」
「公園でも行くかー。天気いいし。私お弁当作るよ」
「……」
「どうしたの」
「帰りにさ。ちょっと寄りたいところがあって」
「うん。どこ」
「あのほら、しのたんと初めて……」
「あそこまだやってるの?」
「やってる。この前調べたの」
「はー。てっきり、つ……。そうかーやってるのかー」
「いい?」
「うんっ。私も行きたい」
吹いては枯れる、公園の緑の循環を、ふたりは幾度も傍で見ている。
木漏れ日と葉の揺れる音。頬を撫でる風が心地よく、後の予定を思い出す頃には、陽の弧が山に落ちていた。
色音乃物語(四)