夜を呼ぶ男

 どこかは知らないのだけれど世界のどこかには夜を呼ぶ男がいて、彼がキャンドルの火を吹き消すと夜がやって来るの。
あなたが住むところにも、私が住むところにも。
 キャンドルの火が消されると、太陽が目を閉じて空の裏に隠れていた月が現れる。夜は音もなくやって来るから、私はいつも月と星の楽しそうな囁きが聞こえるまで夜になったことに気が付かない。それくらい夜は静かにやって来るの。
 もし、夜を呼ぶ男が夜を呼ぶのが下手だったら、夜はこんなに静かにやって来ないかもしれない。星と星がぶつかり合ってにぎやかな音を立てながらやって来るかもしれない。だからきっと夜を呼ぶ男は夜を呼ぶのがとても上手で、星たちにもぶつからないようにって言っているんだわ。
 窓を開けて耳をすませると小さな囁きが聴こえる。明かりが少なくなった街を月の光がすべり、向こうにある丘まで照らしているのが見える。
 今日も静かに夜を運んでくれたどこかのあなたへ、きっと今夜もたくさんの愛が風に乗って届くことだわ。
 私はそう羨ましく思いながら朝を呼ぶ準備をした。

夜を呼ぶ男

夜を呼ぶ男

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-28

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