別府忠夫
1
バルコニーの上から夕闇に包まれた街並みを眺めていると、時がたつのを忘れてしまう。冷たい夜風が入り込んできて、薄着だった別府忠夫は、
「びやくしょん」
とくしゃみをした。
その時に、鼻水が出たので、テーブルの上にあるスコッティというティッシュで拭くと、丸めてゴミ箱に投げたのであるが、外れてしまった。
「チェッ」
というと、忠夫は床を歩く。すると、
「ピンポーン」
とドアホンが鳴る。
忠夫はティッシュをゴミ箱の中にちゃんと入れると、玄関に行く。すると、バルコニーの方から強い風が吹いて、窓際に置いてある観葉植物のガジュマルの木が倒れてきた。
忠夫は慌てて立てかけると、またドアホンが鳴る。
「ちょっと待っててくださいね」
というと忠夫は、窓を閉めることに成功するが、急いだあまりに、足がゴミ箱にぶつかってしまい、ゴミ箱の中身が床の上に散乱した。
「くそっ」
と吐き捨てるように言うと、忠夫は、ゴミクズをゴミ箱に戻そうとするが、そうすると、今度は立てかけられていたと思っていたカジュマルだかガジュマルだかカジュマロが、また倒れ掛かってきた。
「いやああ」
忠夫はそれを支えるとまたドアホンが鳴った。
「ドアは鍵かかってないから。
入ってきて。
今、それどこじゃないから」
というと、また鼻がムズムズして
「びやくしょん」
とくしゃみをすると、盛大に鼻水が出てきたのであった。
忠夫は、木を支えたまま、何とか手を伸ばして、テーブルの上にあるティッシュをとるとすると、足を延ばしすぎたために、床を滑って、忠夫は鼻から下をビシャビシャになったまま、木の下敷きになってしまった。
「ぎゃあああ」
と叫ぶとまた
「ピンポーン」
とドアホンが鳴った。
忠夫は寝転びながら
「うぎやあああ」
と絶叫した。
別府忠夫