会話
「やあ君、元気してたかい?」
ふと誰かに呼びかけられて辺りを見渡す。
しかし誰もいない。
「下だよ下。」
そう言われるがままに下に目線を変えると、容姿は誰から見ても中学生、よくて高校一年生な小さな人物が立っていた。
「…今失礼な事思ってたでしょ」
「なんでわかるんですか…」
「そりゃ何年かは君と一緒だったからね、昔は全然わからなかったが今では表情を見るだけでわかっちゃうからね。」
「そうですか。」
僕は半分諦めたようにそう言うと今さっき生まれた疑問を解消する事にした。
「先輩、帰ってきてたんですね。」
「あぁ、昨夜帰ってきたばかりだよ。」
そう、この人は僕の先輩、詳しく言うと僕が今通っている大学の四年生、つまり最高学年だ。ちなみに僕はこの人より一つ下である。
何故こういう風に仲良くしてもらっているのは、同じサークルに所属している仲間だからということもあるが、そんな事はどうでもいい。
「一人旅はどうでしたか?」
「あぁ、だいぶ満足したよ。」
一人旅、というのは先輩は休みを見つけてはちょくちょく遠出をする事が多い。しかもほぼ手ぶらの状態で旅をするのだ。一回だけ何故何も持たないかと聞いたら、「現地に行った時に邪魔になるから」と返された。
ただ単に面倒なだけなのかと思ったが、野暮だと思い、思考をストップさせる。
「僕も一人で行ってみようかな…」
「君も旅に?旅はいいものだよ、心が安らぐ。」
「へぇ…」
無意識に呟いてたことに反応されて少々戸惑ったが、すぐに冷静になり相槌を打った。
「でも僕は一人じゃ無理そうです。」
「ははは、君らしいね。」
「先輩と行ってみたいですね。」
「…君らしくないね…それは…」
「そうでしょうか。」
「そうだよ。」
「そうですかね。」
「まぁでも…君らしくない時の君も私は好きだよ。」
「“も”ってなんですか、“も”って…」
「言葉通りだよ。」
そう言ってふふふっと先輩は僕の困惑した顔を見ながら笑う。
忘れかけていたが、先輩はこんな風に僕を困惑させるのが好きらしい。
「まぁいつもの先輩で安心しましたよ。」
「そうかい。」
「そうですよ。」
いつもはこんな他愛もない会話はしないのだが…この先輩とだと自然とこうなる。改めて疑問に思うこともあるが、それはたぶん僕がこんな他愛もない会話をするのが好きなのだと思う。
「君とだったら記念に海外のどこかにでも行きたいな。」
「……海外は勘弁してください…」
会話