コルク瓶にたまったもの

小学生のとある男女のお話


「みーすずちゃんっ!おはよっ!」

女の子のようなかわいらしい顔と声で笑顔で話しかけてきたのは、ゆうくん。
小学校1年生から小学校3年生までここ3年間、偶然にもずっと同じクラス。
毎年、クラス替えのたびに同じクラスで名前を呼ばれているからそのたびに二人で顔を見合わせて笑うのが毎年恒例なのだ。

「ゆうくん、おはよ~」

「みすずちゃん、算数の宿題やってきた?!
僕、今日やってなくて・・・よかったら見せてもらってもいいかな・・・?」

「あっうんうん!!全然、見せるよ~っ」

「ありがとうっみすずちゃんっ」

こんな風に、男の子と話せるようになったのはゆうくんのおかげだった。
小さい頃から男の子と話すのが苦手だった私は、小学校に入学してからも苦手なのは全く変わらなかった。
そんな私に真っ先に話しかけてきた男の子が、ゆうくんなのだ。

ゆうくんと話すようになってから、ほかの男の子にも話しかけてもらえて
私はみんなと話せる様になった。

だから、すごく感謝してる。
私の数学の宿題を見ながら、わたわたと宿題を映している彼の背中に
小声でこっそりと「ありがとう。」と声をかけた。

お昼休み、給食が終わった後にクラスで一番仲良しのひなちゃんと話していた時だった。

「みすずちゃん、宿題見せてくれてありがとう!
これ、手紙書いたからあとで読んでおいてね~っじゃあサッカーしてくる!」

「おっえあっいってらしゃい!!」

いきなり、ゆうくんがやってきて私に手紙を渡していったのだ。
初めて男子からもらったお手紙に加えておいて行かれた私は戸惑う。
どうしたらいいのかわからず、ひなちゃんを見るとびっくりするくらいにやにやしていた。

「みすずちゃーんっ!!もしかして、もしかして!!ゆうくんからラブレターもらったの!?」

ひなちゃんの発言に反応して私の顔が一気に真っ赤になる。
そして、ひなちゃんの声が大きいものだからクラスのみんなが私とひなちゃんを見たのが分かった。

「ひっひなちゃん!!声大きいよ!!」

「ごめんごめん!!それでそれで、なんて書いてあったの!?」

「え、ちょ、ちょっと待ってね・・・」

私は、恐る恐る男の子の割にはきれいに折られた手紙を開ける。

『今日は、宿題かしてくれてありがとう!
みすず、すごく字がきれいでうつしやすくて助かった!!
今度、時間がある時にでもふたりで遊ぼうね!!』

と、書かれていた。

ひなちゃんは、大きく面白くなさそうな顔をする。
口をとがらせて頬までぷくーっと膨らせるものだからかわいくてわかりやすい。

「なぁんだ~ラブレターかと思ったのに~!!」

ひなちゃんは、近くにあった椅子にドカッと座ってふてくされる。
それに対して私はけらけらと笑った。
ひなちゃんといると素直に笑えるからいい。

「ラブレターなわけないでしょ~?ゆうくんが私のこと好きなわけないじゃん!」

と私は笑った。

ひなは、たぶん気が付いてないと思う。
ゆうくんのお手紙の中に書いてある私の名前に「ちゃん」がついていなかったこと。
私が「今度、時間があるときにでもふたりで遊ぼうね」っていう言葉にどれだけドキドキさせられていて
嬉しかったか。

それから私とゆうくんは、頻繁に手紙のやりとりをするようになった。
登校した時、下校した時こうたいで手紙をいれるのが楽しくて...どきどきしていた。
毎日ゆうくんとふたりだけの話をする。ふたりの秘密。
家に帰って手紙をひとりで読む時間はすごくうれしくて幸せだと思える。
私は、手紙を読むとコルク瓶に大切に入れていった。
日に日にコルク瓶の中にたまっていく彼との手紙を見るたびに笑顔になれたのだ。


今思えば、もうこの時すでに私は彼に産まれて初めて恋をしていたのだと思う。


それから2年がたった。
小学5年生になっても彼とはずっと同じクラスだった。
でも、一度も遊んでいなかった。

なんでなのか、それは私がゆうに恋をしていることが明確にわかったから。
(ひなに自覚させられたというほうが近いんだけどね。)
単純に私と彼の都合が合わなかったのもあるけども。

年齢が2桁になった途端にみんなに男女という意識がでてきたことが目立つようになった。
みんなも恋をするようになる。

そんな時期になって男女二人で遊ぶということはなかなか難しくなったし、直接話すことは減った。
でも私たちは直接話すことが減っただけだった。

ゆうくんと私は、声での会話こそしていないもののコミュニケーションはとっていたのだ。
なにでかというと・・・メールなんて最先端のものではなくその時までも手紙だった。
ゆうくんがあの時、初めて私にくれた手紙。
それが唯一の繋がりだった。

小学5年生にもなって、手紙でのやり取りなんておかしいかもしれない。
ましてや、男の子と女の子なんだから。
下手してみんなに見つかった日には大変なことになるだろう。

それでも、続いてることが嬉しくて仕方なかったしそんなスリルも楽しかった。

付き合ってたわけじゃない、私も彼もそこまで望んでの会話はしていなかった。
お互いに他愛もない会話をした。

手紙自体はお互いにこっそり下駄箱に置いている靴の中にいれていたので
やっぱり直接会話できていない日のほうが多かった。

それはそれでさみしかったけれど、特別なやり取りに私はすごく魅力を感じた。

それでも特別なやりとりで、いつ終わってもおかしくないそれは毎日続いた。

そんなある日、私が彼の靴に手紙を入れるはずの日の放課後。
彼からの手紙が私の外靴に入っていた。
確か、私は彼よりも早く教室を出てきたはずだからきっとお昼休みにでもいれていたのだろう。

今まで、こんなこともなかったから異変を感じた私はひながまだ来ていないのを確認して
手紙を開いた。
いつもより雑に折られていた手紙を開くとそこには走り書きで「図書館の前にひとりで来て。」とだけ書かれていた。

「お待たせ~!!!もう、田中先生帰りの会長くて・・・ってどうしたの?」

さすが、ひなだ。私の変化には人一倍敏感。
これは、きっと付き合いが長いからだろう。

「ごめんね、ちょっと急用ができた・・・先に帰ってて!!」

そういうと私は手紙をもって走り出していた。
ひなは、「おっけ!!頑張れ!」とだけ言ってくれた。
こういう時、親友の存在ってすごくありがたい。なにも言わなくてもわかってくれるのだから。

1階から4階までの階段を一気に駆け上がる。
4階についた瞬間、誰かとぶつかった。

「あっごめんなさい!!」

「ごめっ・・・あ、みすずちゃん。」

ぱっとみるとぶつかった相手はゆうくんだった。

「ごめん、ケガない?大丈夫?」

「うん、大丈夫!」

久しぶりに近くで見たゆうくんは、とても大きく感じた。
小学1年生のとき、同じくらいの身長だったはずの彼は私よりもずっと身長が高くなっていた。
もうすでに、160cmを余裕で越えているのだろう。
いつの間にか見上げないと目が合わないようになっていた。

私が彼を見上げるとちょうど目が合って、ゆうくんも私もお互いに思わず目をそらす。

「あっあのさ、俺、美鈴に言わないといけないことがあって。俺、今月末に北海道に引っ越すんだ。」

私のことを初めて美鈴と呼んだ彼は、とても悲し気な顔をしていた。
私はというと、ショックで言葉が出なかった。

やっと、前のように直接話せたのに。

やっと、自分の思いに気が付いたのに。

それなのに、彼は北海道なんて遠いところにいってしまう。

じわっと目元が熱くなっていくのを感じた。
引っ越すって聞いただけで泣きそうになるとか変な子すぎる、泣いちゃいけない。
伝えなきゃいけない、でも口を開いたら泣いてしまいそうで何も話せない。情けなさすぎるよ私。

「・・・それと、もう一つ。」

そう言って彼は私に歩み寄ってくる。
泣きそうになってる自分の顔を見られたくなくて、私はうつむいた。

急に、彼の腕が私を包んだ。

「1回しか言わないからよく聞いてね。俺、美鈴のことが好き。」

え?
はっと顔を上げると、彼は笑った。

「多分、高校まではあっちに通わないといけないけどバイトもして定期的に会いに行く。
大学は、こっちに出てくるから・・・遠距離になるし先は長いけどそれでもいいなら付き合ってくれないかな?」

我慢してたはずの涙はいつの間にやら、私の両目からあふれ出していた。
急に大泣きし始めた私を見て、彼は急に抱きしめたのが嫌だったのかと焦った。

「違うの。すごく、嬉しくて。
私もずっと前から、好きだったから・・・だから、嬉しくて・・・。」

嗚咽交じりの私の言葉を聞いた彼はまた私を抱きしめた。
彼は私の頭をなでて申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「かなり、待たせることになるけど待ってくれる?」

「うん、待ってる。待ってるよ。
遠距離でも全然平気だから、さみしいけど待ってる。」

私の言葉を聞いた彼は、安心した表情を浮かべる。
そんな彼を見て私も笑顔になった。

「「おふたりさん!!おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

図書室からクラスのひとみんながあふれ出してきて私たちに歓声を浴びせた。

そこには、違うクラスのひなまでもがいた。
ひなは、泣きながら私に抱き着いて「よかった!!よかったね・・・!!」といってくれてつられて私も泣いた。
私の周りは、女の子たちが囲み口口によかったねと言葉を浴びせてくれた。

優のほうはというと、男の子たちに囲まれてわいわいしていた。

コルク瓶の中にはひとつ素敵な手紙がまたたまった。

随分、後から聞いた話。
彼は、私のことを小学1年生から好きでいてくれたらしい。
そんな彼は、私のことを好きだったけどなかなか打ち明けられずにいたけど親から北海道に引っ越すという話を聞いた時
告白することを決心したらしい。
でも、こんなことをしていても彼も私も小学生だった。
彼が一部の仲のいい友人達に告白することを話すと、その友人たちは私の仲がいい友人たちに私がどう思っているかを調べてもらっていた。
そして、本人たち抜きで両思いだとわかった彼らは図書室に隠れて様子をうかがっていたのである。

みんなに見守られながら、その後私たちは楽しく1か月過ごした。
その後、彼は北海道に転校した。

さみしかったし、空港では泣いて彼の足を止めてしまった。

でも、そのあと小学生の間は手紙。
前よりも頻度は減ったけれど手紙でコルク瓶はぱんぱんになってきていた。

中学に入って携帯を買ってもらってからは、メールと手紙と通話。
高校生になったら、メールがラインになった。

これだけ沢山連絡をとっても話題が尽きることはなかった。
やり取りをすればするほど、私たちの絆というか愛情は深まっていくような感じがした。

そして、やりとりをする中でふたりとも決めたことを私たちは実行した。

小学生の時最後にあったあの日から、進学先を決めて高校を卒業するまで私たちは会わない。

小学生の時、優が引っ越してすぐにきめた約束だった。
学生の私たちには、交通費も宿泊費も高すぎて馬鹿にならない。
だから、私たちは会えない期間にお金を貯めることにしていた。
そのためたお金で高校を卒業したら一緒に暮らしたいねなんて話しながら。


そうして、数年経った3月の今日。
私たちは7年ぶりの再会をするのだ。

短かったと言ったら、会えなくて寂しくなかったかと聞かれたら嘘になる。

さみしかった。

会いたかった。

不安だった。

それでも、私たちはお互いに7年もの間我慢してきたのだ。
お互いにつらい時もあった。
それでも、こんなさみしくてつらい期間を乗り越えることができたのは優だったから。
そしてコルク瓶にたまった彼の優しさがあったから。

お化粧をしながら私は思う。
思えば、彼が見ていた私はまだ、身長が150cmもなくて髪の毛は一つ結びで当たり前だけどすっぴんだった。
7年たって身長が160cmになり髪の毛をほどいてお化粧をした少し大人になった私を見て彼はどう思うだろうか?
可愛いと思ってくれるかな?幻滅されちゃったらどうしよう。

彼はどんな服装で来るのかな?同じような服を着ていたら嬉しいな。
髪型は、どんな髪形をしているのだろう?
身長は、どれくらい伸びているのだろう?
年齢的にも、もう声変わりしているだろうなぁ。
どんな声になっているのかな、すごく低くなっていたりしたら面白いなぁ。

考えれば、考えるほどドキドキしてくる。

お化粧を終えて、ヘアアイロンで髪型を整える。
洋服は、私が1番お気に入りの洋服を着た。
そして、寸前まで悩んだけれどコルク瓶をカバンの中に入れた。

見た目、確認、よし!!

鍵をもって家を出て電車に乗っている間も、私は彼のことを考えっぱなしでずっとドキドキしていた。

何を考えていたか、考えすぎて覚えてないほどに。
空港の近くの駅で降りると、私はターミナルまで歩いた。

12時、彼が7年ぶりに北海道から帰ってくる。

今春から、彼はこっちの大学に通うことになっていて私も地元進学。
夢に見た同棲も今日から始まるのだ。

音楽を聴き、少しでも平常心を装っていると飛行機が着いたようでたくさんの人が降りてくる。

優は・・・っと探していた時だった。

「美鈴!!!」

優が少し先にたっている。

身長はすごくのびていた。声も低くなって、男らしくなって前よりもかっこよくなった優がそこにいた。
7年、会うのを我慢した、大好きな優が手の届く距離に。

彼は、駆け寄ってきて私を抱きしめ、私も彼と同じように強く抱きしめた。
勢いでカバンを私は落としてしまう。

「優・・・優、おかえりなさい。
やっと、会えた。」

思わず泣き出してしまった私の頭をなでて彼はあの時と同じ可愛い笑顔を浮かべる。


「ただいま、美鈴。」

落ちたカバンの中で、優からの思いがたくさん詰まったコルク瓶はきらきらと輝いているように見えた。

コルク瓶にたまったもの

思えば、初恋はいつ誰にしたのか...この話を書きながらずっと考えていました。
初恋の人は忘れられないものですが、当時抱いた気持ちと今恋心を抱いた気持ちは大きく違うように思えます。
こんな純愛、私もしたかったなぁ...。

コルク瓶にたまったもの

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-25

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