くまかめついのべ。⑰

《①》
「まさかこいつを外す事になるとは。久し振りに骨のある奴に会えたぜ」
そう言って両手足の重りを投げ捨てると、轟音と共に大地が大きく揺れた。
「ああ、体が軽い」
不敵な笑み。
ふわりと浮かび上がる体。
「……」
ファイティングポーズのままのそいつは空高く、空高く。

《②》
お淑やかな歩き方通信講座に、足音立てないもっふもふ靴下。
今年はとうとう忍者に弟子入りまでしたのに。
「そろそろ春の足音が」
くそ、人間ってどんだけ敏感なんだよ。

《③》
「やっと家を貰えたよ」
幼なじみがおはようポイントで家を貰ったらしい。
毎日『おはようございます』って言ってただけなのに、家電に車に家まで貰えるなんて。
「おはようおはようおはよう」
思わず連呼した俺のスマホに『ログインボーナススタンプは一日一個です』の文字。

《④》
「虹の橋を渡って夢の世界に行くから。さよなら」
初詣の帰り道、綺麗な虹を見つけたあの日から、高橋君は行方不明だった。

「虹の橋を渡ってみたんだけど」
高橋君が帰ってきたのは、雪のちらつくバレンタインの前あたり。
虹は丸かったって話を、二時間四十分もされて。

《⑤》
キューピットにファンシー要素なんてもんはない。
殺傷力抜群の矢で対象を容赦なくぶっ殺して、用意していた依頼主に好意を持つ心臓と入れ替え蘇生させるんだ。
報酬は法外な金額だし、真っ黒い重苦しいコートがトレードマークだし。

《⑥》
お札三枚を釣り竿につけ、池に入れて数秒。
あっという間に群がる彼女。
「尻軽」
「いや、君だから、ね?」
言いながら、向こう岸で札束をくくりつけてるオッサンに視線が飛んで。
「釣り禁止だってのに」
猟銃片手にオッサンを睨む。
お札三枚を手に彼女たちは池の中へ。

《⑦》
ハムスターにそっくりなゾム星人が地球にやってきた。
友好的な彼らは快く宇宙船の中を見せてくれたのだが、動力室にある素晴らしい高性能エンジンを見た途端、誰もが残念そうに溜め息をついた。

「想像してたのと違う」

《⑧》
彼女は僕を喜ばせようと、不慣れな料理を頑張って作ってくれる。
「はい、智君の大好きな鶏肉のネギマヨポン炒めだよ」
前の彼女も、その前の彼女も作ってくれた懐かしい味。
彼女の背後に、前の彼女同様クックパッドさんが見え隠れして。

《⑨》
月の表面には細長い亀裂が入っているんだ。
フォークの先でほんの少しだけ亀裂を広げ、人差し指と親指で月面をつまめば。
「ちゅるんと、黄色く光る綺麗な果実が」
お馬鹿な妄想を妙に真面目に語るものだから、何だか空に輝くアレが本当に美味しそうに見えてしまって。

《⑩》
彼は今日も美味しそうにご飯を食べる。
一人で、色々な料理を食べる。
彼は今日も美味しそうにご飯を食べる事で、生かされている。
異種族に捕まり処刑される寸前、彼が最期の食事をあまりにも美味しそうに食べる為、新たな娯楽にされたのだ。
彼は今日も美味しそうに、必死に。

《⑪》
ああ、騒ぎたくてうずうずしてるな。
「う」
彼女はクラッカーの妖精。
本来はパーリナイを盛り上げるのが仕事であり、隠密任務には最も適していない存在で。
「ジュリエッタ、我慢だぞ」
「あい」
久しく感じていなかった緊張感。
仕事が楽しくなったのは、彼女のお陰だ。

《⑫》
「貴方は青が良く似合うと思うの」
灰色の街。
灰色の行列。
色を取り締まり整理する役割の僕が、突如現れたカラフル少女によって着色されてしまった。
注がれる視線。
同僚たちが険しい顔で僕を見て。
「おい何を」
僕の手を取り走り出す少女。
灰色の中を、泳ぐように。

《⑬》
夕暮れ時の海浜公園。
二人で並んで、長い長い象の行列を観察する。
踏み潰さないように、細心の注意を払いながら。

くまかめついのべ。⑰

くまかめついのべ。⑰

ついのべまとめでござい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-24

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