人牢迎無

集合する人間

 バスを降りると、そこはコンクリートで作られた薄暗い直方体の空間であった。地面に引かれている白線から、そこは駐車場であると彼は推測する。
 バスから降りたのは全部で11人。そのうちの一人は案内人であるため、彼と同じ境遇の者は彼を含め10人である。
「どうぞ、こちらへ。」案内人がそう言ってドアのある位置まで誘導する。
 案内人はその体格から女性であることはわかったが、面をつけているので、要望や表情などは読み取れない。
 10人は、案内人の誘導のもと、ドアを通り、長めの通路を通りぬけ、円柱状の広めの洋間に出た。部屋の中心部には円卓があり、等間隔に椅子が10個並べられている。よく見ると、背もたれの上部に、ネームプレートが付いているのが分かった。椅子の前には紙が1枚ずつ置かれている。
「各自自分の名前のネームプレートの席にお座りください。」そう言うと案内人はドアを出て何処かへ行ってしまった。
 彼は 御堂 詠一 と書かれた椅子に座った。
 全員が席に着くとほぼ同時にアナウンスが流れた。
「ようこそいらっしゃいました。」低く、太く、威圧感のある声。「これより、人狼ゲームを行いたいと思います。私はゲームマスターを務めさせていただく、野崎と申します。人狼ゲームの詳細はお手元の資料をご覧ください。本日は22:00より夜のアクションを行いたいと思います。22:00までには必ずお部屋へお戻り下さい。では明日に。」
 全員が緊張した面持ちで資料に目を通し始める。御堂も倣って資料に目を通す。



「人狼ゲーム」

・参加者名簿
瀬川純也 セガワジュンヤ
曽根山和美 ソネヤマナゴミ
神崎しおり カンザキシオリ
岩倉直樹 イワクラナオキ
森川和博 モリカワカズヒロ
御堂詠一 ミドウエイイチ
早川海斗 ハヤカワカイト
木之本晋二 キノモトシンジ
斎藤琴音 サイトウコトネ
村上直子 ムラカミナオコ

・役職
役職は、本日22:10に各部屋に手紙でお届けいたします。
役職は
人狼2人
狂人1人
占い師1人
霊媒師1人
狩人1人
市民4人
の編成で行います。

・注意事項
1. 時間は厳守して下さい。守れなかった場合、処刑となります。
2. 暴力行為は禁止です。話し合いでの解決をお願いします。暴力行為に及んだ場合、処刑となります。
3. 常識を超えた器物破損に及んだ場合、処刑となります。
4. 人狼ゲームが終了するまで、この場所から出ることはできません。



 御堂が資料を読み終え、他の参加者を見渡すと、ほとんどの参加者はまだ読んでいるようだったが、一人の女性だけが読み終えているようだった。参加者全員が胸元につけているネームプレートを見ると、神崎しおりとあった。年はおおよそ20で、長く真っ直ぐの髪が美しい真面目そうな女性だ。視線があったので軽い会釈を交わす。
 部屋にある時計を確認すると18:00だった。時計は大きいがデジタルで、秒まで一目でわかる仕様のものだ。
 やがて全員が読み終えたが、お互い視線を交わすばかりで誰も話を切り出そうとしなければ、席を立とうともしない。
「すいません、よろしいですか?」最初に切り出したのは御堂だった。「自分は御堂詠一と言います。これから何日も生活を共にするわけですし、お互いを知る為にも、自己紹介をしませんか?」こういった場では、先に主導権を握っておくことが長生きすること、もとい勝利への近道であると御堂は考えている。
「そうね、そうしましょう」30半ばに見える女性が同意する。ネームプレートには曽根山和美とある。
 他の参加者も頷いて同意し、自己紹介が始まることとなる。

人牢迎無

人牢迎無

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-24

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