地獄の果てまで行ったら現世に戻りました

 終電後の人が居ない新宿駅のホームで男女20人が刀を持って立っていた。
 今から5年前、この駅のホームで毒ガスによる大量殺人があった。

 ――――やっとこの日が来た。

 鉄道車両整備士の男は1年かけて準備した計画を実行する。
 朝の通勤ラッシュで人が群がる平日の朝7時51分。中野駅構内に新宿・東京方面の快速電車が入ってきた。
 男はその電車に乗り込まず、人がどんどん車両へ入っていくのを眺めていた。そして扉が閉まり、定刻の7時52分に電車は出発した。
 新宿へ向かう電車を見届け、ポケットの中に忍ばせたリモコンのボタンを押した。男は何もなかったように八王子・大月方面の各駅停車の電車に乗 り込み、次の駅である高円寺駅で下車した。

 男が高円寺駅の改札口に向かっていると、ホームに居る駅員が何やら騒々しい。

 ――――前の電車が新宿駅に着いたとき、殆どの乗客が死んでいたらしいぞ。

 それは新宿方面の電車が中野駅を出て5分後の出来事だった。


 男の名前は神谷(かみや)龍二(りゅうじ)。専門学校卒業後、鉄道車両整備士の仕事に就いて4年目の24歳。電車が大好きでこの仕事に就いた。しかし、神谷は幼き頃から少し曲者であった。
 1つのことに対して執念が強く、自分の理想を捻じ曲げるような出来事が起こると破壊してしまう癖があった。そんな神谷が大好きな電車の仕事に就いて3年目の頃、心境の変化があった。
 車両整備士は事故の無いよう安全に、車両不備が出ないように、運行ダイヤの乱れが出ないようにと影ながら支える仕事だ。しかし実際はどうだろうか。
 駆け込み乗車でダイヤは徐々に乱れ、乗れなかった乗客は車両を殴って八つ当たりをする。踏み切りを無理に渡って人身事故をおこしたり、ホームから線路に下りて電車の運行を妨げたり。仕舞いには電車の命でもある電線にいたずらをする輩まで出てくる世の中になっていた。
 整備士が必死に安全運行出来るように整備しているにもかかわらず、乗客はそれを当たり前のように思っている。神谷はいつか必ず乗客に復習してやると誓った。

 ある程度仕事が出来るようになると、どの路線にどの車両を走らせるかを決める特権を与えられる事がある。
 神谷にはまだ特権はないが、同じ車両を整備していた仲の良い先輩にその特権が使える番が来た。先輩がどの路線に車両を走らせようか迷っていた為、さりげなく中央線で走らせたいと頼んでいた。後日、整備していた車両が中央線の通勤ラッシュ時に走ることが決まった。
 神谷はこの時をずっと待っていた。夏の通勤ラッシュ時に電車の中は冷房がかかる。整備していた電車が中央線を走る当日、車両の空調の吹き出し口に誰にも気付かれないように塩素ガスをセットし、神谷は他の整備士と共に車両を見送った。そしてあの朝が来た。

 今回の神谷による大量殺人計画で通勤・通学中だった約3,000人の乗客が死亡し、到着した新宿駅構内で車内から漏れ出した塩素ガスによる体調不良を訴えた人が500人ほど出た。
 警察はテロではないかと捜査を始めたが、日本の警察も優秀である。次の日、神谷は警察に捕まった。
 神谷が1年もかけて考えた計画を警察は全て調べ上げていた。特に否認も上告もすることなく、神谷の死刑が確定した。
 そして逮捕から4年、神谷の死刑が執行された。その時既に28歳。半年の裁判期間と、3年半の獄中生活を送った神谷は若くして人生の幕を閉じた。


 目が覚めると神谷は大広間のような場所に立っていた。壁も見えないほどの大広間に満員電車のように人が集まっている。
 人混みを掻き分けて進むと、遠くに大きな人らしきものが見えた。その時はまだ仏像か何かだと思っていた。
 しかし、どんどん近づくに連れて神谷の予想は大きく外れていることが証明された。大きな仏像はしっかり意思を持って動いている。しかも、その周りにいる人々は全員土下座をしていた。

「でけぇなぁ……。この世にこんな大きな人が存在するなんて」
「おい! お前、どこから入ってきた! 閻魔様の御前だぞ! 順番に並べ」

 全員土下座している空間に神谷がズカズカと入ってきて、閻魔大王をマジマジと見上げて関心している。鬼ですと言わんばかりの1本角を生やした鬼が慌てて神谷をその場から追い出そうとした。

「閻魔様ってあの閻魔大王? ああそうか。俺、死刑が執行されて死んだのか。そりゃ地獄行きだよなー」
「おい、聞いているのか? 順番に並べと言っているんだ」
「ああ聞いてるよ。でもこんな人混みじゃどこが列かわかんねえよ」

 閻魔大王の周りを囲むようにギッチリ詰まって座る人々を見渡せば、どこが先頭でどこが最後尾なのかを見分けるのは不可能な光景である。更に、閻魔大王の前で土下座をしているということは、これから向かう地獄行きの判決を待っているということ。神谷はこの大量にいる人々の判決を待つほど出来た人間ではなかった。

  一向に列を探そうともしない、ただ閻魔大王を見上げている神谷を見た鬼は呆れて特別処置を行った。

「もういい。お前、名前は?」
「神谷(かみや)龍二(りゅうじ)」
「神谷龍二……。ああ、電車を使った大量殺人鬼か。ちょっと待ってろ」

 鬼は神谷の名前を聞き、持っていた帳面を見て何の罪でここへ来たのか確認した。そして、神谷を置いてどこかへと去って行った。
 待てと言われた神谷はその場で待ちながら、隣で座っている大きな閻魔大王をジッと眺めていた。

 ――――閻魔大王って案外童顔なんだな。生きてた頃に見た絵と大違いだ。

 他の人は閻魔大王の顔なんて見る余裕が無いほど、ドキドキしながら自分達の判決を頭を下げて待っていた。そんな人々の観察もしている神谷が、この大広間の空間で異様な人物であるのは誰から見ても分かる光景だった。しばらくして先ほどどこかへ行ってしまった鬼が戻ってきた。

「神谷、お前は等活地獄行きだ。ついて来い」

 鬼に連れてこられた等活地獄で神谷は衆人同士殺し合い、獄卒に生き返えらされては再び殺し合いを永遠に繰り返していた。
 苦痛を受ける日々。これが何十億年、何百億年と続くのだ。しかし衆人の中にも異端児と言うものが存在する。地獄での苦痛が苦痛に感じなくなるというものだ。神谷はこの異端児の1人となっていた。
 通常、最初に決められた八大地獄の内の1つで一生を過ごすのだが、異端児と判断されてから一定期間が経つと最下層である無間地獄へと送られる。神谷も無間地獄へと送られることになり、等活地獄の獄卒より再度閻魔大王の下へと連れて行かれた。

「神谷龍二。等活地獄での苦痛を物とも思わぬそなたに再度判決を下す。神谷龍二を無間地獄行きとする」
「無間……?」
「さっさと連れて行け」

 無間地獄と言われても何も分からない神谷はポカンとしたまま鬼に連れられて地獄の最下層である無間地獄へと突き落とされた。
 いつ地面につくのか分からないほど落ち続ける穴の中でも地獄の苦痛は襲ってくる。落ちながら死んだり生き返ったりを繰り返す中、他にも神谷と同じように落ちながら無間地獄の洗礼を受けているものが数人いた。
 神谷のような異端児は1週間もすれば全ての苦痛も慣れてしまう。落ちている間に空中感覚を掴んだ神谷たち数人は、飛んでくる刃や火の粉を避けたり弾いたりとゲーム感覚のように楽しんでいた。

 1ヶ月ほどして地面に到達した神谷たちは、着地の衝撃で身体が粉砕した。しかしそれでも生き返るのが地獄のシステムである。到着早々獄卒たちからの手荒い洗礼を受けるが、それもまた異端児にとっては苦痛も短期間で終わった。

 神谷が無間地獄に来てから3ヶ月が経つころ、神谷自身も自分が異端児であることに気が付いていた。そして、周りにも異端児が数人存在することを認識していた。
ある時、様々な衆人や異端児を苦しめてきた無間地獄の獄卒たちが手を焼く20人が集められた。もちろん神谷もその中の1人である。

「お前達は地獄の苦痛を苦痛とも思わぬ異端児。今、何を思ってここに居るのだ」

 獄卒たちは異端児である衆人20人に問いかけた。衆人たちは個々に口を開くが、殆どのものが生前のことを考えていた。

「俺は生きていた頃が一番苦痛だった。何をしても自分の存在が見出せず、人殺しをして世間に俺の存在を知ってもらえたことでやっと生きている実感を得たんだ。だから、人を殺すのは俺自身を証明する行為。この地獄では俺が快感と思う事ばかりで生前より楽しいぜ」

 そう話したのは中沢という男。神谷には理解し難い思想を持っていた。獄卒も呆れたような顔をして中沢を見ているが、少し嬉しそうな表情も見せていた。何かを企んでいるかのような顔だった。
 神谷を含む半数の衆人は 生前に犯した自分の罪について少なからず後悔の気持ちを持っていた。好きで異端児になった訳ではないのだ。

 獄卒は20人の衆人1人1人に刀を手渡した。鞘の色や鍔の柄、柄の紐の色など、個々に違う種類の刀だった。しかし形は全て日本刀である。その刀を受け取った衆人たちは一斉に抜こうと手をかけたが、鞘から刀を抜けた者は1人も居なかった。硬くてビクともしないのだ。

「不良品を渡してんじゃねえよ!」
「斬れる刀を持って来い!」
「これで殴り殺してやろうか!」

 衆人たちは一斉に獄卒に襲いかかろうとしたが、獄卒は大きな声で叫び話し出した。

「今から! 今からあなた達には新たな地獄へと行ってもらいます。その刀は新たな地獄へ行ったら鞘から抜くことが出来ますのでご安心を。さて、八大地獄でも最下層にあたる無間地獄に来ても尚、苦痛を苦痛とも思わぬ異端児のみなさん。新設された地獄で新たな苦痛を味わって来て下さい。しかし、これから送る地獄では、我々のような獄卒は存在しません。あちらの地獄ではあなた達の存在も無いようなもの。その中で寿命までどう生きるかはお任せします」

 獄卒が急に説明しだした新しい地獄について、衆人の誰もが理解不能といった顔をしていた。しかし獄卒はそんな衆人を無視して新設された地獄へと送る準備を始めた。

「それではみなさん、いってらっしゃい。お元気で」

 獄卒が衆人たちに手を振ると、辺りが真っ白になるほどの光が20人の異端児を包み込んだ。


 光が治まるとと現世の終電後で人が居ない新宿駅のホームに立っていた。獄卒が説明していた内容を思い出し、衆人たちは暗いホームで一斉に鞘から刀を抜いた。
 今度はすんなりと鞘から抜け、問答無用で衆人たちの斬り合いが始まった。この斬り合いに1対1というルールはない。やり合っている後ろから殺されることもある。
斬って斬られてを繰り返し、致命傷を負ったものは一度消滅するがすぐに復活する。そんな争いを何時間も繰り返していた。

 駅のホームに電気が付き、人が入ってきた。衆人たちは自分達以外の気配に気付き、一斉に戦いをやめた。そして、全員声を発することも無く静かに刀を鞘に納めた。しかし、現世の人であろう人物は衆人達の存在に気付いていない。その事実を汲み取った衆人たちは戦いをや めて、駅の外へ出ることにした。
 衆人20人が一斉に外に出ると、まだ日も出ていない薄暗い時間帯の為、歩いている人もまばらな街。
 衆人たちは現世の人に触れることも出来ないし、姿も見えない。しかし、何人かの衆人たちは現世に戻ってきたということで少し喜びを感じていた。神谷もその1人だった。

 ――ドスッ!
 そんな現世に黄昏ている神谷を、中沢が後ろから刀で一突きした。背中からお腹を貫通している状況で耳元で中沢が囁いた。

「今、現世に戻って来れたって喜んだだろ」
「だったら何だ?」
「お前、さっき駅の中で刀を合わせた時に現世に未練なんてねえよって言ってただろ。なのに何を喜んでいる」
「未練はないさ。でも、つい最近まで居た現世だぞ? 地獄よりは落ち着かないか?」
「分かってねえな。ここは地獄でも反省しなかった異端児が送り出された地獄だぜ? つまり、現世は地獄以上に地獄というわけだ」
「俺はそうは思わねえけどな」
「いつまでその甘い考えで居られるか、楽しみに見ててやるよ」

 そう言うと中沢は神谷の身体に刺さった刀を横に振りきり、神谷の身体は内臓と共 に半分に切り裂かれた。一瞬で神谷は身体が消滅したが、しばらくすると再生した。中沢は生き返った神谷を見届けてどこかへと立ち去った。どうやら中沢には目的地がある様子だった。

 神谷はこれからどうしようかと悩みつつ、生前の名残で電車旅をすることにした。この日本での移動手段としては電車は便利な交通機関である。死人である神谷にとっては乗車賃も要らない為、生前以上に電車を楽しめるのではないかと内心喜んでいた。
 目的地は決まっていなかったが、ひとまず新宿のホームへ向かった。すると、ホームには沢山の人溢れかえっていた。
 通勤ラッシュの時間帯の為、人が多いのは分かりきった話だが、辺りを見渡すとみんな目を瞑っていた。衆人たちが送られて来たこの日は、 神谷が大量殺人を犯したあの事件の日から5年という節目の日だった。

「神谷さん?」

 村野という女性がホームを見つめている神谷に声をかけた。年は神谷とあまり変わらないぐらいだが、キャリアウーマンのような雰囲気を持っている。生前、連続女児誘拐殺人を犯した死刑囚だった。

「どうかされたのですか?」
「ああ、俺なんですよ。この場所で毒ガスを使った大量殺人を犯したのは」
「そうですか。後悔しているんですか?」
「まあ、していないって言ったら嘘になりますけど、あれはあれでよかったと思ってます」
「でも寂しそうな顔をしてましたよ」
「一応良心もありますからね。根っからの悪人ってわけでも無かったですし」

 村野はニコッと笑いながら神谷の話を聞いていた。
目的も無い2人は、電車に乗って遠出をしてみることにした。鈍行で行く電車旅は、神谷にとって至福の時間だった。
新宿駅から高尾駅まで、1時間ほど電車に揺られていた。もちろん現世の人たちには見えない2人。座っている上から人が座ると言った、生前ではありえない経験をしながら電車旅を楽しんでいた。
 途中、他の衆人にも会った。もちろん皆各々に好き勝手しているのでバッタリ合うこともある。
 高尾駅に付いたころ、同じく衆人の矢島も高尾にいた。

「なんだてめぇら。衆人同士イチャイチャしてんじゃねえぞ!」

 矢島は神谷たちがカップルのように一緒に行動しているのが気に入らないようだ。神谷に嫉妬しているのか、刀を抜いて斬りかかっていった 。

「嫉妬は困るな。別にイチャイチャしてるわけじゃないし」

 神谷は矢島の刀を軽々と受け流しながら挑発し始めた。矢島は大振りで神谷に斬りかかりながら全く当たらないことに更に苛立っていた。それを傍観している村野に気付き、矢島は冷静になった。

「ふんっ。大罪人がカップルごっこなんて笑い者だな。他の衆人に言いふらしてやる」
「ガキだな。あんたいくつだよ」
「35だけど? 死者に年なんて関係ないだろ」
「それもそうか。まあ好きにしろよ。俺は死者としてこの現世を楽しむって決めたんだ。生前遣り残したことがいっぱいあるからな」
「勝手にしろ。俺はこの刀で今すぐにでも現世の人間を斬り刻んでやりたいがな」
「触れることも見えることもないこの状況で無駄な願望だな」
「うるせぇ。いつかこの執念が現世の人間を殺せる力になるだろうよ」

 矢島は吐き捨てるように言って立ち去った。村野は傷一つ付いていない神谷を見て関心していた。その後も電車で揺られながら東京からどんどんと西の方向へと向っていた。


 ある日、村野が変な夢を見たと言い出した。あまりにも平和な日常を過ごしている為、ゆっくり眠る時間もあるのだ。地獄に居たときは睡魔に負けて寝てしまうと、苦痛を味わいながらこれでもかというぐらい残酷に切り殺される。
 村野の夢に鬼が現れ、一つの力を授けると言ってきた。力の発動には合言葉を言わなければならず、どんな力かは発動させてみないと分からないという。

「いざ参らん!」

 村野が合言葉を叫ぶと身体が一瞬光を放った。何事も無いように思えるが、一体何が起こったのかと神谷も村野自身も分からずにいた。
 すると、1人の現世人がいつものように神谷たちにぶつかるように歩いてきた。現世人とぶつかっても身体はすり抜けるので、普段から避けることはない。しかし、村野にぶつかった現世人は立ち止まった。そして村野の姿が消えた。

「あれ? 村野さん?」

 神谷が名前を呼ぶも、返事がない。神谷の目の前では現世人が立ち止まったままキョロキョロしている。

「あれ? 神谷さん?」

 目の前に立っている現世人が神谷の名を呼んだ。しかし姿は見えていない様子。
 ――――もしかして、村野がこの現世人に入り込んだのか?
 普段は現世人を斬っても何も反応しない刀だが、死人が入った現世人を斬るとどうなるのか。神谷の好奇心はどんどんと高まり、刀を鞘から抜いて思いっきり目の前の現世人を斬った。すると現世人の身体から村野が飛び出してきた。

「痛っ!」
「村野さん。ごめん、好奇心が抑えきれず斬っちゃった」
「あ、神谷さん。良かったー。急に居なくなるんだから」
「うん。俺も急に村野さんが消えたからビックリしたよ。それより、今この人に乗り移ってたよね?」
「え?」

 村野は自分が入っていた現世人を見たが、乗り移ったことに気付いていない様子だった。村野に乗り移られた現世人は何でこんなところに立ち止まっているのだろうと考えている様子で立っていた。そして再び歩き出し、どこかへと消えていった。
 村野は自分が乗り移りの能力なのかどうかを確かめる為に再び現世人の身体へ向かって行ったが、次はいつもの様にすり抜けた。
 状況が掴めず、神谷と共に考えたのが“1度乗り移って抜けた後、もう一度合言葉で能力を発動させなければいけない”のではないかという結論だった。

「いざ参らん!」

 確かめる為にもう一度合言葉を叫ぶと、再び村野の身体が一瞬光った。そして現世人の身体に向かっていった村野は、ぶつかると同時に姿を消した。
 やはり毎度発動しなければいけないようだ。後は自力で抜ける方法だが、それは村野の方が分かっていた。しばらくすると自然と村野の身体が抜け出してきた。

「これ、1分しかもたないみたい」
「1分か。でも羨ましい能力だね」
「ねえ、神谷さんも何か授かってるんじゃないの?」
「俺寝てなかったから夢とか見てないしなぁ」
「とりあえずやってみてよ」

 神谷は村野に言われてとりあえず合言葉を言ってみた。

「いざ参らん!」

 身体が光ることも無し、何の変化もなかった。やはりまだ力は授かっていないようだ。その力は皆授かるものなのかどうかも分からなかった為、神谷はひとまず様子を見ることにした。
 2人で街を歩いていると電気屋に展示されているテレビにニュースが流れていた。普段ならば目もくれず通り過ぎるのだが、何故か神谷は急にテレビの前で立ち止まった。村野も神谷が止まったことに気付いて慌てて神谷の方へ戻った。

「昨夜、東京都の練馬区で男が何かを叫びながら刃物を振り回していた事件で、逮捕された長野県在住、無職の男は事件の事は全く記憶に無いと容疑を否認しているとのことです。練馬警察署前の前川さん、よろしくお願いします」
「はい、私は現在男が留置されている練馬警察署の前に来ています。取材によりますと、男は刃物を振り回していた1分間ほどの記憶が全く無く、気がつくと手に刃物を持っていたと供述しているそうです。現場に居合わせた目撃者にお話を聞いたところ、男は“俺は森田だ! 今ココに復活を宣言する!”と叫んでいたそうです。現場からは以上です」
「前川さん、 ありがとうございました。刃物と森田といえば20年ほど前の練馬区連続通り魔事件を思い出しま すね。」
「しかし彼は12年前に死刑が執行されています。模倣犯の可能性もありますね」
「今後の容疑者の供述に注目していきたいと思います」

 練馬区連続通り魔事件。神谷には覚えがあった。生前、まだ中学生だった頃にそんなニュースが流れていたような気がすると。さらに引っかかったのが森田という名前。神谷たちと共に現世に飛ばされてきた衆人の中に1人、森田という男が居た。

 ――――まさか。

 神谷は嫌な予感がした。村野も薄々気付いている様子で神谷の行動を待っていた。


 神谷は村野に森田を探す為に東京へ戻ろうと提案し、村野も快諾した。電車を気ままに乗り継いでいた為、2人は福岡まで来ていた。今は昼の3時。新幹線に乗れば東京まで5時間ほどで行ける距離の為、急いで新幹線に乗り込んだ。
 
 電車に揺られて5時間。神谷はこの先何が起きるかわからないと思い、今のうちに寝ておこうと無理やり眼を瞑って寝る努力をした。村野はそれを見て察知したのか、同じように眠っていた。現世に来てから初めて夢を見るほど眠った神谷は、夢の中で鬼に出会った。

「お前には特別な力を授ける。現世の人を救え。それがお前の役目だ」

 鬼はそれだけ言って消えた。神谷との接触時間があまりにも短かった為、東京に着いた頃には夢のことをすっかり忘れてしまっていた。
 村野と共にニュースで事件が起きていた練馬区に向かい、どこにいるのか分からない森田を探し回っていた。日が落ちて辺りはすっかり暗くなったが、街を歩く人はまだ多い。20 人もの衆人の顔を覚えているかと言われればぼんやりしか覚えていない状況だった。その為、人通りが多く衆人か現世人かを見分けるのは極めて困難だった。

 「見つけた」という声と共に村野のお腹から刀が突き出てきた。神谷が後ろを振り向くと、同じ衆人の川上(かわかみ)という男が村野のお腹に刀を突き刺してニヤリと笑っていた。川上は生前、計画的立てこもり事件を起こし、20数名の人質と共に爆弾で自爆した大量殺人犯だ。
 神谷は咄嗟に自分の刀を抜いて川上に斬りかかったが、川上は神谷の振り下ろす刀を避けながら村野のお腹に刺さった刀を抜いた。村野は致命傷までいっていない為、消滅してリセットされるということはなく、お腹から血を垂れ流して膝から崩れ落ちた。そんな村野に 止めを刺しに来た川上の刀を神谷は弾き返し、村野の前に立って刀を構えた。

「何? 衆人同士お友達ごっこでもしてるのか?」
「そういう訳じゃないが……」

 神谷もなぜ人を守る為に自分の身体を張ろうとしているのか分からなかった。しかし、神谷にとっては今まで共に行動してきた村野が他の衆人に殺されるのは見たくなかった。しかし村野は神谷に守られている後ろで自らの首を斬って自害した。そして生き返った。

「苦しい思いをしてあなたに守られるなら自害してリセットした方が楽だわ」
「そうか。余計なことをしてしまったな」

 川上は自分が止め刺せなかったことにイライラしている様子で今にも斬りかかって来そうだ。しかし、川上はこの人混みの中どうやって2人を見つけ出したのか、神谷は考えた。顔を覚えているとしても、後姿だけで分かるものなのか。疑問を抱いている内に答えが見つかった。

「もしかして衆人と現世人の見分けが付くのか?」

 川上は図星のようだった。しかしハッキリと返事はしない。出来るだけ能力は他人に知られたくない様子だった。しかし、衆人を探す能力があるなら都合がいいと思い、神谷は川上に一つ質問をした。

「森田って奴がどこに居るか知らないか?」
「それを知ってどうする」
「森田は現世の人を使って再び大量殺人を犯すつもりだ。俺達は死んでも生き返るが、現世人はそうじゃない。だから止めなければ」
「お前は正義のヒーローにでもなるつもりか? 止めるって、どうやって森田を止めるんだ。奴が現世の人を操っている方法を知っているのか?」
「多分、森田は現世人に乗り移る能力だろう。しかし、乗り移った森田を現世人から抜き出す方法は知っている。そして1分しか乗り移れないこと、1人乗り移る度に合言 葉を言う時間が存在することまで は分かっている」
「なぜそこまで詳しい? まさか、お前も乗り移る能力なのか?」

 神谷は喋りすぎたことに気付いた。ここで今神谷が否定すれば、村野が乗り移る能力だと言っているようなものだ。先ほど川上が自分の能力についてハッキリ返答しなかったように、衆人同士手の内を知られるリスクは大きい。神谷が返答に迷っていると、村野から口を開いた。

「私が乗り移る能力なの」
「なるほど。それで神谷、お前が乗り移った衆人を抜き出す方法を知ったというのか。で、神谷の能力は何だ?」
「それが、まだ分からないんだ」
「ハッ! 人の手の内だけ聞いてお前の手の内は教えないというのか。さすが衆人、少しでも心を許しかけた俺が馬鹿だったぜ。じゃあな。せいぜい2人で 森田を止めるんだな」

 そう言って川上はどこかへ行ってしまった。神谷は能力を隠すつもりなんて無かったのだが、答えなければ誤解されても仕方ない。再び村野と2人で森田を探し始めた。
 川上の能力さえあればすぐに見つかっただろうが、今回は諦めるしかなかった。だが、神谷たちは現世人と衆人の一瞬で見分けが付く大きな違いに気付いていなかった。

「どうせこの刀、現世の人に当たっても影響がないならずっと振り回しながら歩けばいいんじゃないか?」
「確かに。もし衆人が現世人の中に入っていても相手は私達が見えないし、刀が当たれば現世人の中から抜き出すことも出来る。良いアイディアだと思うわ」

 こうして神谷たちは刀を振り回しながら練馬区を歩き続けた。普通に見れば異様な光景だが、現世人には見えることは無い。しかし、2人の前に1人の男性が立ちはだかった。明らかに神谷たちを見ている。
 ――――明らかに見られている。俺たちが見えているということは衆人か?
 2人は刀を振り回し ていた手を止めて男に向かって構えた。しかし男は刀を持っていない。
 ――――そうだ。衆人は刀を持ち歩いている。現世で刀なんて持っていたら銃刀法違反で捕まるから持っている人なんて居ない。
こんな簡単な見分け方に、なぜ今まで気付かなかったのかと神谷も村野も思った。

 目の前に立っている男は刀を持って居ない。なぜそんな所で立っているのか疑問だったが、現世人には衆人の姿は見えないはずである。神谷たちは構えた刀を鞘に納め、前に立っている男の横を通り過ぎた。その瞬間、男の口がニヤリと笑った気がした。

 神谷は気になって振り返ると、その男は猛スピードで走り去った。嫌な予感がして咄嗟に追いかけた。神谷が曲がり角を曲がったとき、路上で血まみれの現世 人が4人倒れていた。その真ん中 に1人の現世人が包丁を持って立っていた。
 偶然にも通り魔事件に遭遇しただけなのか、それとも衆人の仕業か。真ん中に立っている現世人を斬って確かめるのもよかったが、一人で動くには危険が多いと判断して村野が追いつくのを待つことにした。
 走ってきた村野が息を切らしながら神谷の横に到着した。それと同時に包丁を持っていた現世人から、先ほど神谷が追いかけていた男が出てきた。
 ――――やはりあいつは衆人だったのか!
 神谷は確信したが、男は衆人が持っているはずの刀を持っていない。現世人に乗り移り通り魔殺人を犯しているのを見たところ、森田なのは間違いないはずだ。

「お前、森田か?」
「ああ、そうだよ。昔、ここで同じように通り魔殺人をした森田だ 」
「色々聞きたいことはあるが、刀はどうした?」
「刀? ああ、これか」

 そう言うと森田の左手が光り、刀が現れた。

「どういうことだ?」
「お前ら、ずっと刀を持ったまま移動しているところを見ると何も知らねえみたいだな。アハハ、可哀相だから教えてやるよ。刀は左手に収納できる。自分の刀と会話をすれば、出し入れの方法ぐらいは教えてくれるぜ。お前ら、刀はただのアイテムぐらいにしか思っていないのかも知れねえが、刀にも意思があるって知ってたか?」
「刀と会話? 意思がある? 言っている意味がさっぱり分からん」
「俺が教えてやるのはここまでだ。あとは自分で何とかしろ。ところでそこの姉ちゃん。お前も乗り移りの能力だろ?」
「何でそれを?」
「川上から聞いたよ。兄ちゃんの能力は分からなかったって嘆いてたけどな。何なら今ここで解明してやろうか?」

 そう言うと、森田は抜刀して襲い掛かってきた。神谷は森田の攻撃を防ぐのに精一杯だった。森田は反撃する隙がないほどのスピードで斬りかかって来る。森田の斬ってくる刀にタイミングを合わせて全力で弾き返すと、森田は弾かれた反動を利用して近くに居た現世人に乗り移った。
 森田は先ほどの通り魔事件で集まってきた野次馬や警察の中に飛び込んで行き、警察が犯人から押収したばかりの包丁を再び奪ってそのまま周りの現世人を斬りつけ始めた。その場に居た人たちは大パニックで一斉に逃げ出し、神谷たちの身体をどんどんすり抜けていく。
 野次馬が居なくなり、警察が包丁を持つ現世人(森田)を取り囲んだ。その場に居た人たちは森田を警戒して動きが止まった。野次馬も居ない見 晴らしが良くなった 所で、警察にも森田にも見えていないのを利用して村野が森田が入っている現世人に斬りかかった。現世人から抜き出された森田はその場に倒れこみ、その隙に神谷は森田の腹に力いっぱい込めて刀を突き刺した。

「くそ。やはり乗り移りの弱点を知っていたか」
「当たり前だ。俺達はお前を止めるためにこの場所に来たんだから」
「でも、俺の目的は達成した。いや、これからも続いて行くさ」
「そうはさせない!」
「どうやって? たとえ今俺を殺しても、生き返っては乗り移り殺人を犯す繰り返しだ。俺の寿命が尽きるか、現世人が全滅するか。どう考えても現世人の全滅が先なのは目に見えている」

 神谷は返す言葉がなかった。閻魔大王が森田を地獄へ戻さない限り、日本は全滅の道まっしぐらだ。
 ――くそっ!
 刀を差したままの神谷が森田との問答で悩んでいると村野が声をかけてきた。

「神谷さん、福岡から東京までの電車で寝てたじゃないですか。夢で鬼に会わなかったんですか?」

 ――そういえばあの鬼が出てきたな。そして何か託された気がする。

「もし鬼が出てきたなら、何か力を授かっているかもしれません。今ココで使える能力かどうか分かりませんが、一度やってみる価値はあるかも」

 神谷もあの鬼の言い方から、今の状況を打開出来る何かがある気がした。
 ――何でもいい。今役立つ何か能力を発動してくれ!

「いざ参らん!」

 合言葉を言ったと同時に神谷の身体は光り、森田に突き刺していた刀が共に光った。すると森田の身体も同じように光り、姿が消えた。
 ――どういうことだ?
 森田が消えた。神谷も村野も全く今の状況がつかめない。
 ――俺の能力はワープか何かか? もしワープだとしたらどこに飛んだのか検討も付かない。

 森田が消え、身体を乗っ取られた2人の男性が放心状態で突っ立っていた。警察は現行犯で男2人の身柄を拘束した。

 神谷は自分の能力を理解するのに時間がかかっていた。
 消えたのは消滅したのか、どこかにワープさせたのか。しかしワープの能力とすれば、どこに飛ぶか分からない力を使い、あんな殺人鬼を別の場所で野放する危険がある。神谷は自分の能力がはっきりと理解するまで使わないことにした。
 以来、通り魔事件も無くなり、たまに会う衆人の中でも森田を見たと言う者は居なくなった。


 神谷と村野は相変わらず2人で行動していた。ある日、刀を持って歩く衆人に会った。咄嗟に抜刀した神谷は斬りかかろうとしたが、相手は刀を抜く素振りをし ない。
 無間地獄からこちらに来て、現世の時間で言えば半年が経っていた。神谷たちは、等活地獄や無間地獄に居た時のように無抵抗の相手に斬りかかるような真似はしなくなっていた。

「斬りかからないんだ」
「ああ。無抵抗の奴に斬りかかっても詰まらないからな」
「一ついいかな? あなた達も能力を持っていると思うけど、現世の人に影響を与える能力かい?」
「俺は多分違う。未だに自分の能力が何なのか分からないから使ってないんだ」
「なるほど。女性の方は?」
「私は現世人に影響を与える能力よ」
「そうか。じゃあ、現世人にイタズラをしたことはあるかい?」
「いや、現世人とは極力関わらないようにしている」
「なんだ、詰まらないな。僕は何度も現世人に イタズラしてきたよ。別に知られたからって不利になるような能力じゃないから言うけど、僕の能力は3秒だけ現世の人に姿が見えること」
「なんだそれ。そんなことして何の意味があるんだ?」
「分からないよ。僕だってイタズラ程度でしか使ったことないし」

 青年は安居(やすい)浩太(こうた)と名乗った。生前、女児殺害事件を数件起こし、反省どころか人を人とも思わない殺人犯だったようだ。話を聞けば、彼の能力は現世人が話しかけて来るほどハッキリと現世人に姿が見えるようだ。たった3秒で消える為、すぐ幽霊扱いされると少し嬉しそうに話していた。
 安居は話を続けた。この能力はイタズラをする為だけに使ってきたが、実は1度だけ人助けにも使ったことがある。親の目が離れた隙 に車道に飛び出た子供を咄嗟に歩道へ引き 戻して救ったそうだ。姿を現す3秒間は現世の物や人に触れることが出来るようだ。

「君の能力は素晴らしい能力だと思うよ。俺みたいに何の能力か分からない役立たずなんかよりはね」
「そう言ってくれたのはあんたが初めてだよ」
「他の衆人にもその能力の事を言ったのか?」
「ああ。中沢って衆人が居たの覚えているかい?」
「覚えてるさ。とっつきにくいだけじゃなくて人殺しオーラ炸裂の奴だろ?」
「そうそう。あの人にも言ったら“使えねえ”って一刀両断だったよ」
「それを言った中沢の顔、大体想像出来るな。それより中沢の能力は何なんだろうな」
「僕も聞こうと思ったんだけど答えてくれなくてさ。一緒に居た川上って奴が“消される前に失せろ”って僕を追い出したんだ」
「中沢と一緒に川上も居たの?」
「最初は川上に会ったんだよ。それで能力の話をしたら中沢のところに連れて行かれたんだ」

 川上は衆人を探し出す能力。中沢のところに衆人たちを連れて行って何を企んでいるのかと神谷は考えた。しかし中沢の能力も気になるが、まずは神谷自身の能力を解明しなければ話にならないと思っていた。。

「安居くん」
「浩太で良いよ。何?」
「浩太は他の衆人の情報をどこまで知っているんだ?」
「神谷さん、それを話す前に一ついい?」
「何だ?」
「僕を仲間にしてくれない?」
「仲間……。仲間になって何か良い事でもあるか?」
「僕、こんな能力だから色んな衆人に会った時、散々馬鹿にされたんだ。その代わり、相手の能力も聞 き出せた。その中で1人、今の神谷さんに必要な能力を持った人が居たよ。でもその人が川上に見つかれば、確実に中沢の仲間にさせられる。その前にこちらに引き込んだ方が良い」
「中沢が何か企んでいるのか?」
「多分、現世の人達を殺すことで快感を得ようとしているはずだ。だから現世人に影響を与えることが出来る衆人を集めているのだと思う」

 多分、今回現世に連れて来られた衆人の中で一番若いであろう浩太は、意外にも情報収集に長けた人物だった。神谷は浩太を仲間にして、自分に必要な能力を持つという衆人の元へ向かった。その衆人は浩太と仲良くなっていたらしく、既に居場所は分かっていた。

 多田(ただ)健(けん)。中年の優しそうなおじさんという感じだったが、 実は無差別通り魔事件を起こした死刑囚だ。

「どうも。神谷です」
「多田です。浩太くんは神谷くんの方に付くのかい?」
「うん。やっぱり中沢の方は怖くて僕には無理だよ」
「そうか。じゃあ私も神谷くんの方に付こう」

 何やら二人の間で始めから相談していた様だが、神谷や村野には全く理解出来なかった。

「あの……。俺の方に付くとか中沢の方に付くとか、一体何の話ですか?」
「神谷くん、君は自分の能力が何か知っているかい?」
「それが、自分でも分からないんです」
「私はね、衆人の持つ能力を読み取り分析する能力なんだよ。君が何の能力で、どう使えばいいのか、何が弱点なのかを見る事が出来るんだ」

 浩太が言ってた通り、今の神谷にとって必要 な能力だった。神谷は早速、多田に能力を見てもらった。

「いざ参らん!」

 多田は10秒ほど神谷を見つめ続けた。そして口を開いた。

「神谷くん。やはり君にはリーダーとして我々を引っ張って行ってもらう事になりそうだ」
「どういうことですか? 俺の能力って一体……」
「君の能力は衆人を閻魔大王の元へ送り戻すこと。合言葉に反応して刀に力が宿り、その刀で斬った衆人をこの現世から閻魔大王の元へ送ることが出来る。つまり、寿命が尽きるか閻魔大王の判断で戻されるかだけでなく、君の能力でもあちらの地獄に戻す事が出来るということだ」

 ――なるほど。だからあの時、光った刀に刺さっていた森田は消えたのか。

「だったら危険だと思った奴は俺が送り返せば良いという事か」
「そういう事だ。しかしそれより厄介なのが中沢だ。奴の能力は衆人を消滅させる事。つまり、寿命でも閻魔大王の判断でもなく、中沢の意思で完全にこの世から消滅させられる。能力を宿した中沢の刀で斬られれば生き返る事が不可能という事だ」

 衆人をも消滅する事が出来る中沢率いる現世人を殺す派。衆人を殺さず閻魔大王の元へ送り返しす事が出来る神谷が率いる現世人を守る派。今ここに2つの対立するグループが結成された。守る派を「ガーディアン」と名付け、中沢率いる殺す派を「マーダー」と呼んだ。

(つづく)

地獄の果てまで行ったら現世に戻りました

地獄の果てまで行ったら現世に戻りました

作家でごはん! の鍛錬場で投稿した物です。原文そのまま載せています。 能力バトル物ですが、舞台は現実世界で身近な場所です。

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-06-23

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