かなわない
「大丈夫だよ。」
そう言って笑った私を彼は止めた。
「なにが?」
え?と首をかしげて、問われた意味を考えた。大丈夫は大丈夫でしかないんだけど………。
少し彼のことが分からなくなってげんなりした。わからない、理解できないが、彼の表情は決して私を逃してくれる表情ではなかった。そんな私に彼はまた問うた。
「何が、どこが大丈夫なの?」
「どこって………全部?」
はぁと大きなため息をついた彼は呆れた様に、またそんな曖昧な………とブツブツ文句を言う。
そして、ふっと表情が消えるとこっちを向いた彼を見て私は後悔した。ゾッする顔。怒っている。それもめちゃくちゃ。
「ねぇ、何が大丈夫なの?」
三度目だ。これを超えると、取り返しがつかない。私が言うまで彼は私を離さないし、どんな手を使ってでも私に聞こうとするだろう。
今度は私が、はぁとため息をついた後に微笑んだ。
そして。
「大丈夫だよ。」
と最大級の可愛い悩殺するだろう笑顔で言ってやった。
それなのに、彼は、
「ブサイク」
と一言辛辣に言葉を発した。
抹殺してやろうか、この男を。
と殺意が湧いたが、現状としてはこの男から逃げ切ることの方が優先事項だ。
多分、逃げ切ることも喋らないということも無理ではあるが、それでも知られたくなかった。
彼とは久しぶりにあった。もう六年はたっている。彼は彼の目的のために、そして私も私の目的のために、道を別れ、それぞれの人生を歩んでいた。
もう六年も経っていたのか………と、ふと思うと泣きたくなってきた。六年は会ってないのに、久しぶりに会って、顔をみたはずなのに。それなのに、彼は私の変化に気づいた。
「アマネ」
名前を呼ばれただけなのに、たまらなく心が軋むのはなんでだろう。昔からそうだった。どんな変化でさえ見逃さない。逃してくれない。私が堺を超えそうになる時は必ず彼が後ろに手を引っ張ってくれた。今もそうだ。
泣きそうになるのを必死に堪えて俯く私の顔を彼は強引に上に上げる。
「俯かせない。アマネはすぐに抱え込む。抱え込んだら、嘘も隠し事も得意だ。そんなことさせない。」
なんで、?そんなことまで。
分からなくて良いところばかりバレる。情けない。悔しい。腹立つ。
ちゅっと効果音がつきそうな音がして、悔しさに思考が持っていかれていた私は我に返った。そして、少し間があいて、彼からキスされたことに理解が追いつく。
遅れて、ビクッと体が反応して、本能的に彼から離れようとする。
「いきな、り、!なっ、に、すんのよ、!」
驚きすぎて言葉がちゃんと出てこない。
「唇。」
は?って顔をすると、彼はいつも通りの顔で事も無げに言った。
「悔しいのは分かるんだけど。唇、そんなに噛むと血が出る。」
だから、キスしたって、?
悔しさからイラつきにかわると彼はクスクス笑い始めた。
「アマネは顔に出すぎなんだよ。でも、言葉で言っても話聞かなかっただろ。」
………確かにそうだけど。
「………ファーストキスなんですけど。」
「よかったね?俺が最初で。」
「は?なんで、良かったね、になるの!おかしくない!?」
「俺はアマネが好きだよ。」
絶句した。意味がわからない。理解できなさすぎて言葉も出ない。
こっちが好きかどうかなんて分からないのに、なんでいきなり告白してきた、この男は!それでキスしたことが洗い流されると思ってんのか!
「昔から言ってる。アマネが好きだ。久しぶりに会っても変わらない。」
ニコニコ笑いながら、とんでもないことを普通に言ってくる。こっちの方が恥ずかしくなる。
「だから、逃がさないよ?」
あ、やばい。この流れはとても不味い気がする。
「なんで、あんな顔してたのか、きっちり教えてもらうから。それから、もう俺に落ちてるでしょ?いい加減素直になれよ。」
言葉に詰まる。
「………好きじゃないっ!!!」
「へぇ………。」
彼の顔がニヤニヤしている。そして、私の危機が更に増した。
「好きじゃないねぇ、?そっかー、楽しみだなぁ。これから。」
「え、?これから、?」
普段の温厚な彼の顔が悪魔の顔になった。まるで、そう聞き返してくるのを待っていたように。
「別れた時に言ったよね?俺の用事が終わったら、アマネと一緒にいるって。今日はその用事が終わったからアマネのところに来たんだよ。」
まー、六年もかかったけど。と呑気に彼は言いながら、私を逃すつもりはないらしい。
「もちろん、拒否権は、」
「あると思ってんの?」
ですよね。わかってましたよ。
彼はこうやって温厚な顔をしながら、時々とてつもなく強引だ。抗う術さえ与えない。基本的に肉食動物で好戦的だ。
「あ、それと、好きじゃないって言ったの覚悟しとけよ?」
「別に、本当に嫌いかもしれないじゃん。」
「じゃぁ、もっとちゃんと嫌がれよ。キスしたときに。俺に腕掴まれた時に。」
事実だった。だから、何も言い返せない。
「本当に嫌がってるのにするわけないだろ。」
それから私たちはしばらく無言だった。彼が何を考えてるかなんて分からない。
「………すきだ、ばーか」
小声で言ったのに、彼は知ってると返してきた。この地獄耳。
「愛してるよ、アマネ。」
かぁぁぁと顔が真っ赤になる。
………敵わない。
そのあと、きっちり全部はかされて、めちゃくちゃ甘やかされた。
かなわない
少し前に、トキメキとキュンキュンが足りなくて自分で埋めようとした結果です(笑)
ちょっと俺様系すきです。出来れば童顔でお願いします。
欲望丸出しですね、すみません