夏祭り

西木眼鏡


「夏祭りにいこう」
 そう切り出したのは僕の方だった。日曜日、買い物に行った帰り道で、今日一日を一緒に過ごした友達を誘う。実をいうともっと多く誘うチャンスはあった。例えば、一週間前のお昼の時間。例えば、三日前の朝の通学路。例えば、昨日の図書館からの帰り道。もっと言えば、昨日の夜にだって端末に通話なり、文書なりで連絡を取ればそれで済んだはずなのだ。しかし、なぜ今までそのチャンスを掴めず、こんな間際まで言えずにいたのか。簡潔に言えば、僕は彼女に恋をしていたからだ。どうしようもなく恋をしていたからだ。
 僕と彼女は幼馴染だ。小学校に上がる前に彼女が隣に引っ越してきた。仲良くなるまでにそう時間はかからず、気が付けばお互いが最高の友達と言えるまでになっていた。
「そういえば今まで夏祭りなんて行ったことがなかったな」
「そうだね、君は夜出歩くのが好きじゃないって言い出すくらいの優等生だから」
 それでも、屋台に並ぶ『機械仕掛けの金魚』や『レーザー射撃』なんかを一緒にやりたいと思った。前時代にはふわふわとした触感で甘い『ワタアメ』やサクサクしていて冷たい『カキコオリ』なんて名前の食べ物もあったようだが、食料事情の厳しい最近では見かけなくなったと祖母が言っていた。
「花火なんてきれいだと思うけど、どうかな」
「一度、見てみたいと思っていたの。ほら、私、来年になったらこの星を出るって言っていたでしょう。行った先がこの星みたいに穏やかでのんびりしているところだって限らないから」
 人類が宙を旅する。惑星間航行が可能になった現代ではそう珍しいことではない。この星を出て、遠くの惑星を目指す者、隣の火星を目指す者もいる。僕はというとずっとこの地球に残っているつもりだ。
「それじゃあ決まりだね。丁度、このまままっすぐ行けば夏祭りをやる砂浜があるから行こうか」
 彼女は頷き、僕についてくる。

 このあと夏祭りで僕が勇気を出した、ということだけは確かである。
 

夏祭り

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