シロツメクサ

どこにでもある恋の話

その子は

さらさらとした黒髪
はかなげな佇まい
ゆったりとした歩み
ふんわりした笑顔
ちょっとしかめた顔(それを見て思わず吹き出してしまった)
吐息のように紡ぎだされる言葉

ほわっとしていて他の人に全く威圧感を与えない
なのに細かいところまで気配りができて、しっかりもので、真面目で几帳面。

そのすべてが好きで
目の前にするとどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
触れたい。手を伸ばせば届く距離なのに、触れられない。

横に並んで歩けば大好きなその声をずっと聴いていられる
その子のくすくす笑う声が聴きたくて笑わせようとふざける

一生この声を聴いて生きていきたいと、本人には内緒で、ひそかに満たされる幸せな時間。
いつか、二人で一緒に満たされたい。

布団

一人の夜や、別の人と寝る夜、その子について考えてしまうのだ



告白して振られた
けど、友だちでいることを許してくれた
少し切なかったけれどそれだけで幸せだった
隣にいてもいいのだと

はじめは二人で出かけていた
お互いに行ってみたい場所へ

二人きりで行動するのにも慣れ
その子の家でごはんを作って一緒に食べるようになった
食器を洗ったり、ちょっとしたことは手伝った
ごはんを食べると眠くなって、帰るのが面倒になる
仮眠をとろうと横になると、いつの間にか朝になっていた
床で眠ってしまう前にと、シャワーをかしてくれ、自分用に布団を敷いてもらうようになっていった
泊まるのが当たり前になり、荷物になるからと、寝間着や歯ブラシを置くようになった


いつものように電気を消し、おやすみと言う
おやすみと返し、暗闇の中で目を静かに閉じる
意識が空中を漂いはじめたとき、その子が静かに起き上がる
何か思い出したのだろう
そして自分の目を覚まさないよう足音を忍ばせて移動する
わざわざ自分も起きることはない、眠ったことにする
忍び足はこちらに向かってくる
きっと自分が、荷物を取るか何かの邪魔になっている
起きたほうがいいかな

目をあけようとしたその前に、肩に片手が乗る
「一緒に寝てもいい?」
遠慮がちな、しかし決意のある声が聞こえる

手を伸ばして抱きしめたくなる
しかし目をあけ、自分から触れるまいと固く決心し、いいよ、と言う
端に寄り、一人分のスペースを作る

そっとその子が入ってくる
触れずとも温もりがわかり、息遣いが伝わってくる
二人で横に並んで眠るようになっていた
朝起きると体の一部が触れ合っていることもあった


ある夜
おやすみと言いあった後
指と指が触れる
戸惑いながらやさしく包む

包んだはずの中身はすり抜けて
ゆっくりと絡む
ひょっとしたら、もうこういう関係終わりにしよう、
の前触れかもしれない
その前に、思い出を作ってくれているのかもしれない
幸せな気持ちと悲しい気持ち、その両方が同時に満ちていき、眠りに落ちる

ある日

余裕がなくて会えなかったし、連絡もしばらくとらなかった
そんなとき、連絡がきた


二人で出かけた夕方
駅に向かおうとしていたとき
公園に寄ってもいいかと尋ねられる

誰もいない公園の中
どこに行くのだろうとついていくと
その子は歩みを緩め、こちらを見る
「あのね、」
まっすぐな瞳

自分のことを好き、、、?
丁寧に説明してくれる

抱きしめる
離れて、ちょっと冷静になる
今の行動、自分の早とちりじゃなかったか?

考えているうちに近づいてくる
髪をなでる
その子は目をつむる
唇に触れる
キスをする

かもしれない

いつになるかわからない
それはいつかやってくるかもしれない


いつものように布団の中でキスを交わしていた

不意に背中に腕をまわされ、舌が入ってくる
それに応じる
お互いはじめは遠慮がちに、段々と大胆に

もう止められない

頭が朦朧としながら、唇を離し、
首筋にキスを落としていく
少し離れると、返してくれる
耳に
鎖骨に
手先に

抱きしめる
それからまた口に
キスをしながらボタンを外していく

荒い息遣いと、漏れる甘い喘ぎ声

シロツメクサ

シロツメクサ

どこにでもある恋の話

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-06-18

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  1. その子は
  2. 布団
  3. ある日
  4. かもしれない