くまかめついのべ。⑮

《①》
男は胃袋で掴むもの。
ふと思い出した言葉に、つい笑ってしまった。
深い深い未知の深海。
巨大な魚が勢い良く吐き出した胃袋に、潜水艇はあっさり捕まってしまって。
「あ、あー」
地上との最期の通信。
男は、の話をするべきかどうか、ちょっと悩む。

《②》
「ちょっと待った!」
赤ずきんを守るように、緑、紫、黄色、桃色の頭巾を被った少女たちが現れた。
決めポーズを決める少女たち。
狼は予想外の事態に驚き、そして、

猟師は予想外の事態に驚いていた。
まさか狼の腹から、6人も出てくるなんて。

《③》
放課後毎日、クラスメートの彼女は孔雀を追いかけていた。
しかも、地味な雌孔雀。
何故だか僕も、いつの間にか一緒に追いかけるようになって。
「奴はチーズ蒸しパンが好きらしいの。今日はこれで」
確かに接点は欲しかったんだけど、これじゃない感が常にふわふわ付き纏う。

《④》
しゅるりと糸を解くだけ。
「なるほど」
確かに罪悪感も何もなかった。
この世界の人は糸で出来ていて、結び目を解くだけで、簡単に殺せてしまうらしい。
「二人でこの世界を支配しないか?」
田中の顔から、迷い込んでしまった当初の怯えは消え、笑顔と狂気だけがそこに。

《⑤》
街中で女子高生が山田太郎にかじりついていた。
小さな子供もオッサンも夢中で食べていて。
「山田太郎、美味いよな」
サンドイッチ伯爵に憧れた彼は、斬新で新しい料理を作り出し、自分の名前をつけたんだ。
あっと言う間に大定番料理。
世界中で、山田太郎は食されている。

《⑥》
炭酸の夢を見た。
お酒ではなく、甘い甘いジュースでもないようで。
「ああ、アレかな」
彼がお気に入りの炭酸水。
初めてのお泊まりの夜なのに、ソレしか頭に残ってないなんて。
「……最低だ、私」
思ってもいない事を口にする。
無味無臭の泡が、ぱちぱちと弾けていく。

《⑦》
「悪は散り様こそが晴れ舞台だ」
我らの王は、倒された後の爆発に情熱を注いでいる。
主人公を巻き込まない程度の威力。
ド派手な煙や音の、角度に音量。
毎夜毎夜、見事なやられ方を研究していて。
「ま、結局散りませんけどね」
しかし我らの王は、とんでもなく強いのだ。

《⑧》
箱船は気まずい空気に包まれていた。
色々な動物がつがいで乗っているらしいのだが、あちらこちらに勘違いされた奴がいるんだ。
あのクマとかイヌとか、いや、ネズミなんてどっちも。
「皆、死にたくはないもんな」
勘違いを訂正出来なかった僕らを乗せて、箱船は揺れる。

くまかめついのべ。⑮

くまかめついのべ。⑮

ついのべまとめでござい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-16

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