隣のさっちゃん
奇妙礼太郎の天王寺ガールを聞いて。
気になるあの子はぼっちガール。
コンビニで朝働いている。
早朝勤務。朝5時から。
この田舎にはコンビニくらいしか行き場がなくて、案外人も少なくて、農家のおっさんとか工事の人くらいしか来ない。
そこに君はやってきた。
短くてかっこいい髪に、化粧もしない整った白い顔。
なんか気の利いたランニングウェアを着て、イヤフォンを外しながら入ってきた君は、とびきりかっこよく見えた。
俺は久しぶりに横目でチラチラ女の子を見ながら、あの子は誰だろーねとおっさんに話しかけた。
なんか、山の手に引っ越して来たらしい。都会から、訳あり。
へー、訳あり。どんな?
さあ。
そんな会話しながら、俺は仕事を終えた。
君は見かけるたび、歩いたり走ったりしていた。
一度用があって家の前を通った。
窓を全開にして君が歌ってるのを見た。
田舎満喫してんなぁ。
そんな風に眩しげに見て、俺は通過していった。
なんか、同級生との飲み会で聞いたら、君は俺も知らないいじめられっ子で、引っ越してすっかり変わったらしい。
声汚く男で変わったんじゃねーのー、という女子を見ながら、あの子と雲泥の差、と判断した。
別の日、用もなく行ったコーナンで、ペットコーナーにいる君を見た。
ポメラニアンに網越しに指を入れ齧られながら、君は笑っていた。
君の後で俺が指を出したら、ポメラニアンはグルルと唸った。
次の日も、また次の日も君は朝に走ってコンビニに来た。
俺は見てるだけ。別にときめくわけじゃないし、好きなわけでもない。ただ君がいけてるだけ。目立つだけ。
雨の日、びしょ濡れの君に傘を差し出したら、君はありがとう、と快活に笑った。
あ、絶対俺のこと覚えてないな、とわかった。
ただそんだけ。そんだけで、通り過ぎる関係。
田舎なんだ、しょうがない。
君が、さっちゃんと呼ばれてるのを聞いた。
あだ名、ほとんど。君がさっちゃんはねーと歌ってるのを聞かれたから。
さっちゃんはねー、佳奈恵っていうんだほんとはねー。
俺だけの秘密。
さっちゃんはねー、遠くへ行っちゃうんだほんとかなー。
寂しいね、さっちゃん。
隣のさっちゃん
なんか、思いつきました。