本物の幼女じゃない
窓のない研究室で一人、実験用のネズミを熱心に観察している白衣の若い男がいる。彼は数時間前から何も口にしておらず、ただひたすらプラスチックケースの中にいるネズミに視線を注いでいた。プラスチックケースは全方向が透明になっており、周囲から三台のカメラが向けられている。男はカメラの視界を遮らぬよう、身を縮めて身動きひとつ取らなかった。
「室長、まだネズミで実験してるんですか?」
同じ白衣を着た、ネズミを観察する男より年上に見える大柄の男は扉を開け部屋の中を見ると、ため息交じりに肩を落とす。
「萩(はぎ)、入るときはノックしろと言っただろう」
室長と呼ばれた男は萩と呼んだ男には目もくれず不機嫌そうに抗議するだけでネズミの観察を続ける。ぞんざいに扱われても、萩は特に気にするそぶりを見せない。
「臨床試験が成功してるのに、ネズミで実験してどうするんです。大したデータは取れませんよ?」
あきれた口調の萩に、室長は鋭い口調で答える。
「こいつは危険な薬物だ、数人の人間に使えたからよいというものではない。肉体を全盛期の状態に保つメカニズムは不明瞭だというのに……あんなもの臨床試験はない、人体実験だ」
「国の要求だったんです、それに軍備増強は人々の安全にも繋がります」
萩の言葉に、室長は初めてネズミから目をそらし萩をにらみつけた。
「オレや藤堂課長が作ってるのは人殺しの薬じゃない」
鋭い眼光を前に、萩は笑顔を浮かべ目の前で手を振る。
「そうでしたね、あなた方二人が作っているのは不老の薬。人類を老化から救う夢のようなものでしたね」
「だが、お前はオレたちの研究を軍に売った。そうだな、萩牧久(まきひさ)元教授」
萩牧久の笑顔は更に深くなるが、表現する感情は喜びと言うより執念に近い。
「ええ、おかげで研究は実用段階になったでしょう? 辻明人(つじあきひと)くん」
明人は萩を警戒して距離を取る。
「久しぶりに尋ねてきたと思ったらずいぶん攻撃的じゃないか。上下関係が逆転したこと、根に持っているのか?」
対して、萩の態度には余裕が見えた。
「いやいや、わたしは今の立場で十分ですよ。ただ、お偉いさん方があなたや藤堂博士のやり方にじれてきていましてね。何とかして欲しいとのことでして」
「また人体実験をやれというのか、藤堂さんがやらないからと。オレだってもうお断りだ、二度とやらんぞ」
大きく手を振る明人に、萩は首を横に振って答える。
「いえ、あなたが人体実験をする必要はありません」
萩が手を伸ばすと、破裂音と共に明人が後ろの棚に倒れ込んだ。
「空気銃です、麻酔弾が入っています。この施設はわたしが接収させていただきますよ」
明人が目を覚ますと、壁や床がクッションで埋められている部屋に閉じ込められていた。彼はこの部屋が自傷行為に走る精神障害者を隔離するものだと知っており、はっとして体を動かすと身動きが取れぬよう拘束されており、猿ぐつわもはめられていることがわかった。
「気がつきましたか、辻明人」
部屋に入ってきたのは萩だった。共を引き連れている様子がないことに明人は不安を覚える。
「ああ、そのままでは喋れませんね」
猿ぐつわを外され、明人は萩を威嚇する。
「なぜこんなことをする、オレをどうするつもりだ」
答える代わりに、萩は天井を見た。明人が釣られて目を上げると、そこには照明とカメラが何台も設置されていた。
「まさか、お前ぇ!」
萩はひとしきり笑ってから明人に答えた。
「ええ、例の薬の人体実験をします。効果時間はわずか二十四時間ですが、もし時間内に複数回投与したらどうなるか? スポンサーは知りたがっています」
「副作用が反転したりはしない! やめるんだ!」
必死な明人を見て、萩は愉快そうだ。
「予測結果が百パーセントでなければ実験して確かめるのがわたしたちの流儀でしょう? それにもう薬は投与済みです」
「そんな、ぐああ!」
明人の体から急に汗が噴き出し始める、萩はそれを見て彼の拘束を解き、吸い飲みを持ち彼に水を与えた。
「喉が渇いて仕方ないでしょう、飲ませてあげますよ」
「くっ……体が元に戻ったら覚えておけよ」
明人は悔しそうに吸い飲みから水をすする。その間にも汗は流れ続け、それにとどまらず抜け落ちた体毛が服の袖から流れ出てくる。
「ふふふ、若くなっていますね。もっとも、わたしから見ればあなたは元から若いのですがね」
明人は言葉を返さない。しかし、声は殺しても体の痛みは押さえられないようでうめき声が次第に大きくなる。
「おや、これは服を脱がせなければいけませんね」
「や、やめろ!」
「残念ですがこれは実験、映像を記録に残す必要があるんですよ」
萩は持ち出した大きな裁縫ばさみで明人の上着から下着まですべて切り取ってしまった。はぎ取られた明人は股間を手で隠すが、萩はその手を掴み強引にどける。
「ここが重要なんです、知っているでしょう」
「く、ゲスめ……」
明人のチンコは汗が流れ出るほどに、みるみるうちにしぼんで小さくなっていた。金玉もしぼみ、最後には生殖器が陰毛に隠れて見えなくなってしまった。しかし射精はされているらしく、小さな白い水たまりを作っている。
「陰毛はまだ残っているようですね。少し分かりづらいですが、事実はそのまま記録するに留めましょう」
明人たちが開発した人間に全盛期の体力を取り戻させる薬。その副産物として産まれたのが、若返りの薬。だがこの薬には、性別を変化させるという副作用があった。
「ふむ、まだ容姿には大した変化はありませんね。はい、お水をどうぞ」
「くっ」
明人は激しい代謝からくる渇きに耐えかね、吸い飲みから水を飲み続ける。その様子を見て萩はカメラに向かい話し始めた。
「このように、投与された者は激しい乾きを感じます。現在薬を投与してから、えー……二時間ですね。この後体の変化は緩やかになりますが、ここでさらに追加で同量の薬剤を投与してみましょう」
萩は言うが早いか注射針を使わない注射器を明人に押しつける。空気の抜ける音と共に薬剤が注射され、明人がうめく。
「このように、投与する場所を選ばないのも本薬の特徴です。では、続けましょう」
言いながら、萩はカメラに向かって明人の股を開いて見せる。
「ひっ!」
「おやおや、恥ずかしいのかなお嬢ちゃん」
「うるさい、オレは男……うああ!」
薬の影響は即座に現れ、明人の陰毛は抜け落ち男性器から変わり果てた女性器が姿を現した。さらに体からは汗が、女性器からは透明な液体が噴き出し初め、体が少しずつ縮み始める。
「の、喉が、水を……」
もはや恥じらいはなく、明人は萩の吸い飲みに口を付ける。その顔は赤みを帯び、声は高くなり、少女のような丸みも出てきた。見た目は高校生ないし中学生くらいだろう。
「やはり二度薬を使ったところで男には戻りませんでしたね。見た目は更に若くなっているようですが、実際はどうでしょうか」
萩は吸い飲みを明人に持たせ、後ろから抱きかかえ乳首をつねりマンコに指を突き入れた。
「いっ! 痛いいいいい!」
明人はたまらず水をこぼし、萩の腕の中で暴れる。しかし腕力が落ちており、ふりほどくことが出来ない。股の間からは、血が滴り出ているのが見える。
「どうやら本当に女性のようですね、反応も若い生娘のそれだ」
萩が手を離すと、明人は腕をすり抜け股を押さえながら息を荒くしている。
「さて、分かったところで次へ生きましょう……おや?」
明人は歯を食いしばり萩をにらみつけている。
「もうたくさんだ! 実験を中止しろ、藤堂さんを呼べ、オレの権限で貴様を除名する!」
萩は素知らぬ顔で明人の顔を覗く。
「誰を呼ぶ? 誰を除名? いったい誰の権限で。え、お嬢さん」
「オレは室長だ、藤堂博士から研究の管理や人事は任されている!」
「いいや違います」
萩は水の入ったサーバーをドアの外に用意して言った。
「あなたは無名の女の子です。そうですね、明美(あけみ)ちゃんとでも呼んで差し上げましょう、あなたに権限はない。それよりいいんですか、わたしに協力しなければあなたは脱水症状で死にますよ」
明人の乾きはすでに限界に来ていた。目の前の水が欲しい、そのためならプライドだって捨てたいほどに。だが捨てられない、なら……。
「生きて、自分の権限を行使するためだ。今は協力してやる」
返事を聞いて、萩はにやりと笑った。
「素直じゃありませんねえ、ですがまあ、水は差し上げますよ」
明人は水を思うさま飲んだ。しかし乾きが癒えると同時に、また激しい発汗が始まった。
「バカな、まだ薬は打たれていないのに」
動揺する明人に、萩が答える。
「先ほどの飲み水に混ぜておいたんですよ。どうやら大量であれば、経口摂取でも効き目は出るようですね」
「そんな、うああ!」
明人の体は更に縮み、小学校高学年ほどの大きさにまでなった。陰毛は完全に消失し、女性器は股の間の皮膚に隠れるように小さくなる。
「はぁ、はぁ……からだが、あつい」
小さくなった手で体を支え、立ち上がろうとする明人の後ろから何か太いものが突き上げてきた。
「ぎゃああ!」
振り向くと、下半身を露出させた萩が男性器を勃起させていた。
「痛いですか? それは結構。わたしは一度、あなたのような小さな女の子とセックスしてみたかったのですよ」
腰をつかまれ、明人は強引に挿入される。その痛みは先ほどの比ではなく、想像を絶し口から泡を吹かせた。
「あああ、あ……あああああ!」
苦しそうにもがく明人を見て、萩は心底楽しそうだ。
「狭くて暖かい、心地よい悲鳴。最高ですよ、今日からあなたを明美としてわたしの養子にしてさしあげましょう」
痛みに鈍る意識の中、明人は強く反論する。
「へ、変態め、オレは本物の子供じゃない……男相手に興奮するなんて、ばかげてる」
「今は女の子でしょう、明美」
萩は明人のクリトリスをつねった。
「ふああああ!」
更に泡を吹き、白目を剥いてけいれんする明人を愛おしそうに抱き萩は長い時間そのままでいた。そしてけいれんが治まり、明人が気がついてから言葉をかける。
「まだ、終わりじゃありませんよ」
萩はさらに薬を注射した。明人は四度目の発汗を始め、さらに体を小さくする。もはや幼児にしか見えないほど縮んだ明人だったが、目にはまだ知性のきらめきが残っていた。
「ああ、明美、かわいい明美。わたしがパパですよ」
「うるさい、ロリコンめ……オレは幼女でもなければオモチャでもない。覚えていろ、薬の効き目が切れたら、お前なんか……」
全裸で四つん這いになりながらも悪態をつく明人を見て、萩は思いついたように語り始めた。
「言い忘れていましたがあなたの師、藤堂博士は事故でお亡くなりになりましたよ。そうそう、亡くなる前にこの薬を二十四時間以内に複数回投与すると男にも戻れないし年齢も戻らない、という仮説を立てていましたねぇ。辻明人にお伝えするようにとのことでしたが、彼はもうここにはいない」
「まさか、あの藤堂さんが? お前が……いや、お前に殺せるわけがない!」
明人の幼い顔が青ざめていく。全身が震え、恐怖におびえているのが手に取るように分かる。
「ええ、わたしにそんな力はありません。やったのはもっと上の人間です。付け加えると、その方から辞令をいただきましてね、藤堂博士の権限はわたしが引き継ぎました……さて、明美。どうです? 一緒に博士の仮説を確かめてみませんか?」
「そんな、じゃあオレの敵は……も、元に戻っても……意味なんて……」
混乱する明人を、萩が抱き上げる。
「話を聞く余裕もなさそうですね、では勝手に進めさせてもらいますよ。その前に、明美がちゃんと女の子か確かめなければいけませんね。さあ、妊娠するまで何度でもセックスしましょうね~」
「あ、う、うああああああ!」
「さあ明美、出しますよ」
「あっ、あっ、あっ」
一年が過ぎ、明人の下腹部はだいぶ大きくなっていた。はじめ、女性になった彼が妊娠する気配は無かったが、それは男性であったからではなく、女性として幼すぎるのが原因であった。
「ふぅ、いっぱい出ました。さあ明美、残りを飲んでください」
「はい、パパ」
さらに、明人の肉体が成長することはなかった。故に、萩は大量の女性ホルモンと排卵促進剤を明人に投与した。
「うっ……上手になりましたね、いい子ですよ、明美」
「ありがとう、パパ……」
結果、妊娠に成功した。初めは抵抗した明人も長い監禁生活、幼い少女の肉体に加え、妊娠したという事実に精神が持ちこたえられなかった。
「ふう、終わりました。じゃ、パパが帰ってくるまでいい子にしてるんですよ、明美」
「うん。明美、いいこにしてる」
今では都合のいいセックス人形に成り下がっている。行為を終えた明人は自ら変わり映えしない子供部屋の中に引きこもり、体を洗って次の行為に備えるのだ。大きくなっていく、自分の下腹部をさすりながら。
本物の幼女じゃない