ENDLESS MYTH第3話ー7

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 最初にうすぼんやりとした視界に飛び込んできた顔は、親友の面長の微笑みであった。
 うすぼんやりとした風景の中にファン・ロッペンの姿があるのはすぐに理解できたメシア・クライストは、そこが光のらせんがどこまでの伸びる、漆黒の広大な空間でり、自らの肉体が重力に反発して中空に横たわっている事実を、次第にぼやけた視界から目覚めていくについれて、認識していった。
「目が覚めたか、メシア」
 囁くように言ったファンの顔には、悪意のない笑みがたたえられていた。
「・・・・・・」
 言葉なく、周囲を見回してから再び、ファンの顔を見る。
「・・・・・・神父は?」
 脳裡にはっきりとマックス・ディンガーの死が焼き付いているのに、彼はそれが夢であってほしいという小さな希望を込めてファンに尋ねた。
「神父は死んだよ」
 希望は指の間から砂のようにこぼれていった。
「・・・・・・また、大事な人間がいなくなった。・・・・・・僕にはもう、誰も残ってない・・・・・・」
 俯き、涙があふれそうになるメシア。
 すると暖かい空気が彼を包み込んだ。ファンが彼を抱き寄せたのである。
「俺がいる。エリザベスもイラートもいる。お前は1人じゃない。お前はここで終わったらダメなんだよ」
 励ますファン。
 と、その時にふいに涙があふれそうになるメシアの視界の端に、光の柱が数本見えた。複数名の人影が転送してきたのである。
「彼から離れろ!」
 開口一番、叫んだのはニノラ・ペンダースである。
 その背後には脚の関節が逆に曲がった、爬虫類のような、トカゲのような頭部をしていながら、顎が左右に引き裂けている人型の生物と、全身が毛むくじゃらで、ゴリラのような容貌をした大柄の人型生物が、滑らかな曲線で描かれたアーマーを装着していた。
 それら複数の地球外知的生命体の間には、四肢が妙に長く、エナメルのように滑らかな金属物質で構成され、頭部が筒状に長く複数の明滅する眼球のようなライトを装備したロボットの姿も見られた。
 彼らはイヴェトゥデーションの警備の者たちであった。
「最後の忠告だ、メシアから離れろ!」
 ゆっくりと強く主張するニノラ。
 メシアの肩に面長の顔をうずめていたファン・ロッペンはゆっくりと顔を上げ、ニノラたちを見た。その顔には凄まじいまでの悪意に満ちた微笑みがたたえられている。
「ケダモノがケダモノを引き連れてどうしたっていうんだ。俺はこいつを護るためにここにいるだけだ」
 平然とうそぶくファン。
「離れろと言っている!」
 そう叫んだニノラは刹那、自らの肉体を獣へと変化させた。針金のような太い体毛に覆われ、皮膚が引き裂け、頭蓋骨は前部へ突起する。まるで狼のように。
 太さが2倍となった獣の腕の先には、鋭く、鈍く光る白刃の如き爪が伸びている。
 黒い空間を1つ蹴ると、その巨体は中空に舞い上がり、ファンめがけその長い爪が中空を引き裂くように、振り下ろされた。
 が、獣の肉体は瞬間的にファンの肉体へ触れる間もなく、激しい重力に押し飛ばされ、医療空間にはいつくばってしまった。
 呆然と、何が起こったのかわからないでいるメシアは、とっさに親友の身体を押しやり、その場から離れた。
 これを好機と、爬虫類、猿人、ロボットに類似した人型の警備兵たちは、ファンを中心にエンジンを組むように展開すると、腕に所持、あるいは装着した流線形の、武器らしきものの先端をファンへ突きつけた。
 先端には紫色に近い赤い10センチほどの球体がエネルギーを充満させ、放射の機会を待ち望んでいる。
 人の言葉ではない言語を話す爬虫類に類似した種族。それに間髪を入れず叫ぶ類人猿に類似した種族。2つの種族とも言語は異なり、ファンやメシアには何を口走っているのか、想像すらできない。
 するとロボット兵士たちの一体がようやく、彼ら現代の地球人の理解の範疇にある言語を、機械的に発言した。
「ファン・ロッペン。アナタノミガラヲコウソクシマス。オトナシク、トウコウシテクダサイ」
 片言の言語にも聞こえるが、降伏を促すにしてはその両腕に、ガトリングガンのような大型の武器を所持して、銃口をしっかりとファンへ向けていた。
「獣の次は機械か。おもしろい」
 不敵に笑みをたたえたと思ったその時、ファンの腕が警備兵たちの方角へかざされた。すると激しい重力場に覆われた生命体の肉体は、蛍光色の強い黄色と、青の体液を放射しながら押しつぶされ、機械の兵士たちの肉体は、さび付いた放置されたガラクタのように、粉々に分解されてしまった。
 ファンの重力を操作する能力は、一瞬でイヴェトゥデーションの警備兵たちを、駆逐してしまったのである。
「さぁ、うるさい奴らはいなくなった。ここから出よう」
 そう言いファンは細長くしなやかな指をメシアへ差し出すのだった。
 目の前で何が起こっているのか、眼前の現象がなんなのか、メシアは事態を把握できずただ茫然とするばかりである。
「この手を掴め、メシア。俺たちはここから出るんだ。全部、ここから始まる。ここを出て、もう一度最初からやり直すんだ」
 いつもの妙に説得力のある口調は、自然とファンの手へメシアの手を伸ばさせた。
 が、指先に痺れる痛みを感じ、メシアは反射的に手を引っ込めてしまう。
「そいつと一緒にいっちまったら、終わりだぜ」
 少年っぽい口ぶりは一回耳にしただけで誰の声色なのかすぐに分かった。
 イラート・ガハノフが暗闇の中から、楽し気な笑みを持って現れた。その身体には青白い電気を帯びている。
 少年の顔はこれまで、メシアが目撃したことのない、凜々しいものとなっていた。
 ファン・ロッペンは、少し怪訝そうに腕を引っ込め、イラートに細めた視線を向けた。
「ずいぶんの速いお着きですなぁ。俺の張った結界を破ってくるとは、お前もなかなかやるじゃないか」
 上からの目線で少年っぽい青年を見やったファン。
「結界ならば専門分野ですので」
 と、暗闇に現れ螺旋を描く、空間唯一の光源から発せられる光に浮かび上がったのは、巫女の姿をした女性である。
「空間を遮蔽したところで、階層の異なる次元を移動することで、問題は解決します。すべての次元からのアクセスを拒否するなどできないのですから」
 ポリオン・タリーは凜然と胸を張る。
 これにもやはり目線を受けからにするファンは、
「遮蔽が崩されるのは分かっていたからなぁ。これも想定内のできごとだ」
 そういうなり掌をメシアへ向けた。
「逃げろ!」
 叫ぶと同時にイラートが腕を振り上げ、稲妻を中空に走らせた。
 が、イラートの行動は1拍遅れた。
 メシアへ向けられた面長の男の顔がニタリと微笑んだ瞬間、凄まじい衝撃がメシアの肉体へと襲いかかり、自らの体重で肉体が押しつぶされそうになった。
 だがこの時のことである、眼が焼けるほどの激しい輝きが周囲を包み込むと、誰もが視界を奪われてしまったのである。
 ただ、誰もが最後に聴いた声は、ファンの高笑いする満足げな笑い声であった。

ENDLESS MYTH第3話-8へ続く
 

ENDLESS MYTH第3話ー7

ENDLESS MYTH第3話ー7

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-13

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