迷子の流れ星

 今日、なんとなく路地裏を覗いたら迷子の流れ星を見つけた。あんなに近くで流れ星を見たのは初めてでとても驚いたし、少し怖くも感じた。僕は仄暗い路地裏をさまよう流れ星にゆっくり近付くと、両手でそうっとつかまえる。ペットにしようかとも考えたけれど、この手の中の流れ星にもきっと家族が居るんだから、と流れ星を空に帰してあげることにした。
 この街で一番高い丘に向かって歩きながら手の中の流れ星を見る。白でも銀でもない不思議な色をした流れ星は、少しひんやりとしていて何だかおいしそうに見えた。友達と噴水のある広場で遊んで家に帰る途中だったからまだ夕飯を食べていない。家の前を通り過ぎる度にいい匂いがして僕のお腹が鳴る。あの家の夕飯はきっとシチューだ。ほんのりオレンジ色に染まった窓を見て、また手の中の流れ星を見る。流れ星って一体どんな味がするんだろう。僕がそんなことを思った時、流れ星が少し震えた気がした。
 あれから少しして僕たちは丘にやって来た。頭の上にはたくさんの星が輝いている。
 「ねぇ君。どれがお母さんかわかる?」
 いくら流れ星でもこんなにたくさんある星の中からお母さんを探すのはやっぱり大変みたいで、迷子の流れ星は僕の手から少し浮かんでうろうろしている。僕も手伝ってあげようと空を見上げた時、ひとつの星がゆっくりと空から降りて来た。その星はだんだんと姿を変えて、両手に葉っぱのようなものを持った丘を隠してしまうくらい大きな女の人になった。女の人が腕を広げると流れ星は女の人に向かって勢いよく流れた。流れ星のお母さんは迷子の流れ星を優しく抱きしめてから、驚いて尻餅をついている僕ににっこり笑って空へ帰って行った。
 ひとりぼっちになった僕はそれからしばらく空を見上げていた。足音が聴こえて後ろを見ると、僕のお母さんがいた。僕は心がぽかぽかするのを感じながらお母さんの腕の中に飛び込んだ。
 「おかえり」
 「ただいま、お母さん」
 僕はお母さんと手を繋いで歩き出す。流れ星に出会った話をするとお母さんは少し驚いた顔をしてから、お母さんもあるよと言った。お母さんが小さい頃に出会ったのはスピカという星で、僕が今日出会ったのはその子供の星だったらしい。
 僕たちは夕飯の話をしながら丘を下る。今夜はシチューだよって言うから、さっきどこかの家からシチューの匂いがしてすっかりシチューを食べたくなってしまっていた僕は嬉しくなった。
 レンガ造りの家が並ぶ道を歩きながら、振り返って丘の上に広がる星空を見ると、寄り添っているふたつの星がひときわ輝いて見えた。
 もう迷子にならないでねと手を振って、僕はお母さんの手をぎゅっと握った。

迷子の流れ星

迷子の流れ星

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-12

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