くまかめついのべ。⑭

《①》
やはり鬼とは外国人だったのだ。
僕が通訳として間に入る事で彼は現地の人と仲良くなり、船を手に入れ(帰れるかどうかは別として)無事、日本を出発した。
「どれどれ」
元の時代に帰って文献を確認。
陽気な鬼と一緒に、容姿が不気味な男が描かれていて。
……ほっとけ。

《②》
ある日突然、宇宙中の星の配置が変わってしまった。
「あー、この星を三光年左に」
失われた星座を取り戻す為、大人たちは元通りに戻そうと必死で。
「あ、これとこれとこれで」
クマにキリンにロマネスコにお掃除ロボット。
子供たちは、自由に新たな星座を作っていく。

《③》
百八年戦争開戦時の様々な資料が見つかった。
世界で一番長く、悲惨な戦争と言われた戦い。
長年謎だったその始まりが、理由がついに分かるかも知れない。
宗教の確執、資源を巡って、人種対立、
一体何があったのだろうか。

「石を、あいつが雪……石を入れた、から?」

《④》
エンドルモは二千の触手と二十三の頭を持つおぞましい怪物だ。
満月の夜に街に現れ、人々を誘拐していく。
しかし、エンドルモは誘拐した人間を殺すわけでも食べるわけでもない。
一晩だけ誘拐し、一晩一緒に眠り、次の日の朝にはしっかり家に帰すのだ。
理由は、謎である。

《⑤》
間違いなく、紛れもなく、それは小学校でよく見た彼の銅像だった。
「彼は素晴らしい男だ。ある日突然現れたかと思うと、傾いていた国の財政を立て直した。しかも話によると幼少期から勉学に励み」
まさかまさか、太陽系の端っこの端っこな惑星に薪を背負った先客がいたなんて。

《⑥》
今更気付いてしまった。
紛れもなく貝割れ大根である。
健康に良いスプラウト。
「何を見ても気付いても、慌てず騒がず私を信じて」
彼女の言葉が頭をよぎる。
命綱もないこの状況、僕の体は僕が掴んでいるこの太い縄(貝割れ大根を器用に結った奴)だけで支えられていて。

《⑦》
「君たちは美化し過ぎなのだ」
何処か残念な天使が、少し怒り気味に言った。
さっき見かけた一角獣もドラゴンも、やはり何処か少しだけ残念で。
「これが現実なんだ」
幻想が真顔でそんな事をぬかすものだから、僕はまだ冒険の旅を始められずにいる。

《⑧》
「見かけた方は連絡を」
十年前、突然行方不明になったヒーロー。
最初は皆、あんなに大騒ぎしていたのに。
「どうか、どうか彼を見つけ」
今じゃ駅前で情報提供を呼び掛けているのは、嘗ての宿敵である悪魔将軍ドレスニルくらいだ。

《⑨》
「先輩、とうとうやりましたよ!この電話なら鈴虫の音も聞こえます」
伝統的なトリックを一つ、過去のモノにしてやった。
あああ、何て気分が良いんだ。
「先輩、まだ駄目です。上には上が、キリギリスをどうにかしないと」
脇道に逸れた熱意が、今日も技術を進歩させていく。

《⑩》
『奴らの踊りは必ず阻止するんだ。どんなに馬鹿馬鹿しくても、必ず』
今更になってそんな忠告を思い出した。
腹踊りする間抜けな敵軍を前に、頭の中のその言葉はなかなか出てきてくれなくて。
「もう、手遅れだけど」
愉快に踊りながら、間抜けだった敵が巨大な怪物に変わり。

《⑪》
妻のお気に入りの服と、僕のお気に入りの本の表紙。
デザイン、配色、全てがそっくり。
このおかしな偶然が僕らの出会いのきっかけだと、彼女は知らない。

実は服飾学校を卒業してる。
実は私の一目惚れ。
実は彼がお気に入りの本も知っていた。
なんて、彼は知らない。

《⑫》
地雷の撤去にその虫はとても役立った。
火薬の臭いを嗅ぎ分け、地中に潜り、何と地雷を食べてしまうのだ。
そんな特性を知った人類は、どんどん繁殖させ、どんどんバラまいた。
数十年後、遺伝蓄積された爆薬の成分により、意思を持つ爆弾として新たな脅威になる事も知らずに。

くまかめついのべ。⑭

くまかめついのべ。⑭

ついのべまとめでござい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-11

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