日曜日の彼女**01

日曜日の彼女**01

からりと晴れた日曜日。
時折吹く風が心地良い。

今日ならば何でもできる気がする。

そんなことを思いながら僕は自宅からちょっと離れた公園の、大きな桜の木の下にあるベンチに腰掛けて読書に耽っていた。

桜の木とは言っても、花はすっかり散って葉桜になってしまっているのだが…。

しかし、変わっているかもしれないが、僕は花よりも葉桜のほうが好きであるのでこの木はいい感じだ。


まあまあの広さがある公園で、子供達は遊具で遊んだり、走り回ったりしている。

葉が風に揺られてさわさわと鳴く。
子供達の笑い声と足音が重なる。

なんと幸せを感じる休日だろうか。

今読んでいるチープな恋愛小説でさえ、素晴らしいものような錯覚になる。

「お隣、宜しいですか?」

少々別の世界に飛んでいた意識が、その声で呼び戻される。

葉桜の緑の中で、綺麗な女性が柔らかな笑みを浮かべて此方を見ていた。

黒く、長く、艶やかな黒髪が風に揺れている。

白色のブラウスに、可愛らしい桃色のロングスカートは、愛しさを感じる女性的な服装だった。

「あの…」

「えっ、ああっ、すみません。どうぞ座ってください」

うっかりした。

女性の美しさに思わずまた意識を飛ばしてしまった。

僕は尻を浮かせてベンチの端に寄った。

女性はぺこりと頭をさげて、隣に腰をおろす。

長い髪を耳にかけ、上を見上げる。

木漏れ日が真っ白な頬に落ちて、溶け込んでいきそうだ。

病的なその美しさに僕はまた意識が飛びそうになった。

女性と目が合う。

僕が見つめていたのだから、彼女がふとこちらを見ただけで目が合うのは当たり前ではあるのだが。

くすりと笑うその顔に、僕の胸はきゅんとときめいた。

「私の顔、何かついてますか?」

「ああ、いや、その、そういうわけじゃないんですよ。」

なんて、情けない僕。

"貴女があまりにも綺麗だからですよ"とか、クサくても気の利いた台詞を言えたら良かったのに。

「綺麗、ですか?」

どきりとした。

心を読まれたのかと思った。

「桜…もう全部葉っぱになっちゃってますね。」

彼女が視線を木にやった。

ああ、なんだ、桜の話か。

「そうですねぇ…でも、僕は葉桜のほうが好きですよ。変に飾ってないし、木漏れ日なんかも、ほら、綺麗で。緑が好きなのかな…落ち着くんです。」

気がついたらだらだらと一人で話してしまっていた。

でも彼女はにこりと笑いながら、「そうなんですか。」と相槌を打ってくれた。

「あ…でも、女性はやっぱり花のほうがお好きなんですかね?」

僕が訊くと、一瞬だけ、女性の顔が真顔になった。

なにかまずいことを訊いてしまったのかと焦ったが、彼女はまた笑みを浮かべていた。

「桜の花ですか…えぇ、そうですね、好きでした。」

おや?

なにか、不自然さを感じた。
でも、なんだろう。解らない。

ふっと白い手が伸びてきた。

僕は驚いて、身を逸らす。

「あ、すみません。髪に葉っぱがついていらしたので、取って差し上げようかと…。」

女性が申し訳なさそうに言った。

「いいえ、全然気にしないでください…えっと、どこです?」

「もうちょっと右です。」

「…無い…。」

「ふふ、ありますよ。…あぁ、ちょっと、動かないで。」

再度、手が伸びてくる。

戻った時には、彼女の手に青々とした葉桜が持たれていた。

「はい、取れましたよ。」

「ありがとうございます。」

さてと、と彼女が立ち上がる。

「短い時間でしたが、お話ししてくださってありがとうございました。私はこれで…」

ぺこりと頭をさげる。

僕も下げた。

柔らかい風に、黒髪とスカートの裾を靡かせながら帰っていく。

思わず僕は立ち上がって、叫んだ。

「来週の日曜日も、また、此処でお会いしませんか!」

女性は振り返って、なんとも言えない表情をした後、またすぐにこりと笑って「はい、ぜひ。」と返事をした。



そう、その通り。
僕は彼女に一目惚れしてしまっていた。

日曜日の彼女**01

続きます。

日曜日の彼女**01

大学生活が落ち着いてきた頃。 僕は高校生の時によく通っていた公園に訪れた。 彼女に出逢ったのは、 そんななんでもない日曜日の午後だった。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-06-03

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