願い事

願い事をした。
あなたがあたしを好きになってくれますように。
でも、あたしの好きな人には好きな人がいた。
その好きな人には好きな人がいて、その好きな人はあたしのことが好きなんだって。
こんな辛い恋、したくなかった。
どうしてあんたのこと、好きになっちゃったんだろう・・・

《1章》 


 5月。
高校に入学してから1か月たった。
 あたし、西岡 陽菜。
友達の斉藤 彩と一緒に入学して受かった桜ヶ丘高校に通ってる。
友達もこの一か月でいっぱいできたし、不満なことはあまりないかな。


「ニュース!あの高梨 綾美がフラれたって!」
 今日の朝一の3組のニュースはこれだった。
彩と桃香と教室で雑誌を開いてみてた時のこと。
 高梨 綾美っていうのはこの学校の1年生の中で1番美人って噂の人。
実際にあたしも会ったことあって、すっごいきれいな人だったの。
「えw、誰がフッたのよ!あんな美人をっ」
「性格に問題あり、ってとこ?」
「きれいな人って性格悪いの多いよねw」
「わかるw。それが原因かもね」
教室のあちらこちらで、「高梨 綾美」の噂でいっぱいになった。
「どう思う?」
あたしが、桃香達に小さい声で聞いた。
「さあ、あたしはどっちか、っていうとフッた男の方が気になる」
彩もわかるわかる、という風にうなずいた。
「高梨 綾美」は、誰と付き合ってたんだろう。
「あたし、知ってるよぉ?」
水ちゃんが、にゅっと顔を出してきた。
そういえば水ちゃんって「高梨 綾美」と一緒の中学だったんだよね。
「えっだれだれ!」
彩が持っていたシャーペンを机に叩きつけて言った。
「何かね、イケメンなんだって」
「イケメン?」
クラスの大半は一斉に水ちゃんの話に耳を傾けた。
「うん。それで何か大ゲンカになって・・・フラれたらしい」
「ふーん・・・イケメンねぇ」
だんだん「高梨 綾美」の噂は薄れていってそれぞれ別の話になっていった。


「じゃ、ばいばい」
 帰宅時間になってみんなが帰る中、あたしは委員会があって教室に残っていた。
4時13分。委員会は4時20分から。
そろそろ行こうかな・・・
時計を見てあたしは立ち上がった。
たしか、第2図書準備室だったはず。
あたしのクラスと同じ階にあるはず・・・

 ・・・来てみたけど。
誰もいないし。
おかしいなぁ。
ん?
第1のほうだったかな・・・
やばい、絶対そうだよ!
うわ、第1校舎の方にあるんだよね。
ここは第3校舎。現在4時17分。
走っても間に合わないかも。
とにかく急がないとっ。
 そう思って走ると、階段の曲がり角で誰かにぶつかった。
「ごっごめんなさい!」
とっさにそう謝ると、その人が先に立ち上がってあたしを立たせてくれた。
「ありがとう・・・」
と、言ってあたしはその人を見た。
「・・・平田 龍?」
「ん?俺のこと知ってんの?」
「うん、有名だし・・・」
「平田 龍」って女子に超モテるって噂なの。
目鼻立ちがくっきりしている整った顔。
目がパッチリしている二重で、笑うとみてる方まで笑顔になれる。
どっちかというと、「可愛い系の男子」のほう。
「お前、委員会あんの?」
「うん・・・」
「いいの?時間」
「・・・?」
 反射的に時計を見た。
・・・4時30分。
もう10分すぎてるし。
「平田は、何してるの?」
「ん?俺?委員会だヨ?」
「・・・でないの?」
「たりいし」
「・・・」
「おめえはいかねぇの?」
「行きますけどぉw」
「んじゃ、いけよ」
 ・・・なんかそっけないな。
普通さ、一緒に行こう・・・とかさ。あるんじゃない?
まあいいですけどねっ。
(ほぼ)初対面の人に、こーゆー期待するあたしもどうかと思うけどさっ!
「んじゃ。あたしはとりあえず行きますんで」
 あたしはそう言って立ち去ろうとした。
でも、背中に痛い視線を感じる。
「・・・何?」
「いや、せっかく出会ったんだしさ。・・・ケータイ持ってる?」
「う・・・ううん!」
 何かこの人と仲良くなったらめんどくさいことになる気がする。
「そう・・・」
 平田の目線の先には・・・あたしのスカートのポケット。
嫌な予感がして、スカートのポケットを見た。
「・・・えへ?」
スカートのポケットに入ってたのは、あたしのケータイのストラップ。
「前、それなんかにつけてた気がするんだよねぇ。ケ、が付くものとか。
電話とかできるやつ。・・・何ていうんだっけ?」
「・・・」
 なんなの。こいつ。
あたしの予感的中。めんどくさいことになる。
「いいよね?」
平田はにっこり笑ってあたしを見た。
あたしはしかたなくケータイを開いて赤外線の画面を出した。
平田はあたしのメアドと電話番号を登録してケータイを閉じた。
メアド交換を終わらせてあたしもケータイをとじた。
「んじゃ、これからよろしくね。西岡サン」
 その時、チャイムがなった。
当然、委員会が終わるチャイム。
「あwあw。バカやってるうちに終わっちゃったね。西岡サン?」
「・・・その『西岡サン』ってのやめてよね」
バカにされてる気がする。
「んじゃ、陽菜、ね。おげ?」
「ま、『西岡サン』よりは・・・」
呼び捨てってのも気が引けるけど。
ま、いいか。
「じゃあ、ばいばい。陽菜」
あたしは軽く手を振って、ぶつかったときに落とした鞄を拾った。
・・・なんか、あたしアイツとメールしてみたいかも。
 あ、そうだ!みんなにメールしなきゃ。
平田龍のメアドゲット・・・と。
うーん。
やめようかな・・・
だって教えたらみんながメールしちゃうし。
いや、そういうのって迷惑だろうし。
うーん・・・


「ね、陽菜」
 移動教室の時。
今日は彩は風邪でお休みで、桃香と理科室に向かってた時のこと。
廊下でアイツと出会った。
「平田!」
「どこ行くノ?」
「ん、理科室」
あたしは理科の教科書を軽く上にあげて言った。
「ふーん・・・頑張ってね」
「・・・うん、バンガるよ」
「へへ、バンガレ」
 アイツはそっけなく行ってしまった。
あたし、ちょっとニマニマしてる?
話せてうれしいかも・・・
「ちょっ、ちょっと陽菜ぁ!」
桃香がびっくりしたように言った。
「いつの間に、あの平田 龍と仲良しさんなの?」
「え・・・うーん、まあね」
あたしは言葉を濁してそっぽを向いた。
あんまりいいたくないかな・・・

 理科室での実験中。
クラスの男子たちが話してるのが聞こえた。
櫻井たちだ。
「なぁなぁ、高梨 綾美をフラれたんじゃなくてフったんだって」
「え、そうなの?ってか付き合ってたの?」
「らしい。岳がいってた。しかもその相手は校内有名人の平田 龍」
「岳ってさ、西岡が好きなんだぜ」
「あーそれ知ってる。有名じゃね?男子の中じゃ」
「んで、平田 龍ってまだ高梨が好きならしいぞ」
「なんでフったんだよなぁ」
・・・え?
平田はあの「高梨 綾美」とつきあってた?
しかも、フラれたって・・・?
どういうこと?
何で・・・?

願い事

第2章もお楽しみに✽

願い事

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-06-03

CC BY-NC-SA
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CC BY-NC-SA