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おばぁちゃんの江戸切子と薩摩切子を熱湯で洗っていると、余りにもの熱さで床に落としてまい、粉々になってしまったので赤い金づちで、さらに粉砕する事にした。硝子の破片が砂糖の粉に見える程にすり潰していると、柴刈りに出掛けていた義理の兄弟が帰ってきた。
やい!やい!お前!何をやっとるんか!その江戸切子と薩摩切子はおばぁちゃんが大切にしていたビードロ、甘酒を飲むものではないか?貴様は正気の沙汰か!
恐ろしい剣幕で怒鳴るもんであるから、ついつい叩いていた金づちを止めてしまう。
そこで適当に言ってみる。その声は金糸雀、もしくは鴬。どちらでも良い。言い訳をするには美しい声で言うべきだと伊太利亜の書物にも書いてあった。
悪い盗賊がおしいったんよ?そう!赤い顔したヤイバのある者と青い顔した頭にコブのある者。そして二人とも鋼で出来た重い棍棒を持って脅してきたんよ。
じゃけん、この世の者と思えない程に屈強な大男で勇ましい声を発して、おばぁちゃんの江戸切子と薩摩切子を粉砕して帰って行きよったんよ。
海の色が赤い色だと言うほどの大嘘だが義理の兄弟は少々頭が弱い。話を聞いて、涙を流しおいおいと泣いた。おばぁちゃんの宝物を壊すとは許せない、しかしその言葉、真でなければ貴様は呪われるように。
その様に述べた後、義理兄弟は腰に差している刀を渡す。困った事にどうやら盗賊を成敗しなければ義理兄弟の怒りは収まらないらしい。こうなったら仕方がない存在しない盗賊共に腹を立てて、竿から銀の眩い弧の光を描く剣を抜いて青々とする山へと向かった。
道中、犬、猿、キジがひょいひょいと現れ、その仲の良い三匹は、おばぁちゃんのビードロを割ったのは御前だ!これ以上この山に進むな!貴様は呪われている!と気味の悪い事を言うもんだから、面倒は御免だ義理兄弟から貰った銀の剣で試し斬りをした。犬はこの怨み、決して忘れないと言い生き絶え。猿は命乞いをしたが躊躇わずに生肝を取り、キジは鍋にして食った。山をぐんぐん進むと辺りは薄暗くなり、夜になった。フクロウノ、ほぉーほぉーと鳴く声や木々がパチパチと枝が折れる音に聴覚がおかしくなりそうになる。焚き火の炎は徐々に小さくなり暖かい空気が消えそうになった。
その時、生臭い匂いが風を伝わって来た。その空気を辿って歩くと赤い顔したヤイバのある者と青い顔した頭にコブのある者が大勢の部下を連れて宴会をしている。盗賊だ。運が良い、適当な事を言った空想の人物が目の前にいるじゃないか。
竿から銀の太刀を抜き叫ぶ。やい!やい!この盗賊たちめ!よくも、おばぁちゃんの江戸切子と薩摩切子を割ってくれたな!この義理兄弟から貰った葡萄牙の剣で叩き斬って野郎!
林から突如と飛び出して来た痩せた百姓の姿を見て、屈強な盗賊たちは愉快に笑った。酒の宴の席に猿回しの小僧が紛れ込んだぞ!愉快なり、愉快なり。
その言葉が終わるか何か、太刀を抜いてその場に居た盗賊の部下、百人の首を飛ばした。途中、銀の剣はヒビが入り一部の破片が土の上に落ちた。
そして銀の太刀の先を赤い顔したヤイバのある者の首に向け言う、今宵よりこの盗賊の頭は葡萄牙の剣を所有する我。つまり私。
その後、悪さと言う悪さを繰り返し行い。船を港で強奪し頭と子分の盗賊は珊瑚礁で囲われた島へと渡った。そして、その島は後に鬼ヶ島と呼ばれる様になった。
義理兄弟は中々帰って来ない事に悲しんでおばぁちゃんに相談した。そうすると、おばぁちゃんは義理兄弟の頼みをした。山の中に落ちている銀の太刀の破片を持ってこらせ、江戸切子と薩摩切子の破片を混ぜて桃の種と一緒に埋めた。
そうすると土の中からにょきにょきと木が生え、大きな桃の実を付けた。見事に立派で赤子の尻の様に照り光っている。
おばぁちゃんは義理兄弟に言った。この桃は川に流せ、この桃は持ち主の元へと帰る善の心。悪の心と嘘から始まった呪いを断ち切る希望だ。
そのおばぁちゃんの言葉に頷いて川に、も。を流した。
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