くまかめついのべ。⑬
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《①》
巨大なパフェ容器の一番底。
チョコソースの中に、体育座りの君がいた。
「ぶっとんだ拗ね方だな」
掻き出して捨てた端から再生していくクリーム。
少しだけ口に含むと、そこはなくなったままで。
「……ああ、そうですか」
アンチ甘味な僕は、覚悟を決めてスプーンを握る。
《②》
「ごちそうさま」
彼女は花束を食べてしまった。
色とりどりの薔薇の花束を、受け取ってすぐ、目の前で。
「もうちょっと味わって食べなさい」
あの日の僕の選択は間違っていなかったと思う。
人肉を貪る姿なんかよりも、薔薇を食べる方が綺麗な彼女には似合っている。
《④》
道端の段ボール箱に、愛やら勇気やら善意やら前向きやらが捨ててあった。
『拾ってやってください』
無駄に綺麗な文字と、置き去りのポジティブたち。
「あー、もしもし。今夜とんでもないオニが生まれそう。警戒よろしく」
箱を抱える。
きっと後で、必要になるだろう。
《⑤》
「大丈夫、僕は死なない」
嗅ぎ慣れた死の前の臭い。
嘘の臭い。
煙草の匂いで誤魔化そうとしているけど、全然、隠せてない。
この人はこれから死にに行くんだ。
「だから」
大好きだった匂いが、嫌な臭いに侵されて。
《⑥》
幼稚園の粘土細工発表会。
動物、お花、家族、色々な作品が並ぶ中、一人の園児が真剣な眼差しで粘土をこねていた。
彼の作品名は『世界』。
「常に動き変わり続ける世界の流動性を表現したいので」
お客さんにそう説明する彼。
個性的で少し変わった、愛すべき息子さんです。
《⑦》
とうとう『ふくよか』まで彼の物になった。
『ぽっちゃり』『ましゅまろ』『くまさん』『プーさん系』『ぷにぷに』『貫禄のある』の六冠ですら大記録なのに。
「七冠だなんて」
しかし太めの人への柔らかな表現を独占する彼に、(主におデブの方々から)批判的な声も多い。
《⑧》
ルワはブルドックの花子をおもむろに掴むと、弛んだ部分に手を突っ込んだ。
鋸、梯子、爆弾、銃器にサンドイッチ。
出るわ出るわ、牢屋の床を埋め尽くす沢山のモノ。
「さ、脱獄脱獄」
長いこと猫派だったけれど、ちょっと考え直してみても良いかもしれない。
《⑨》
何重ものロックを解く。
厳重に隠されていた箱。
「大好き」
中に閉じ込められていた言葉が飛び出して、僕の中に消えていった。
「……」
確かにありがたみはあるけれど、気軽に口に出せた時代の方が、僕は好きだな。
《⑩》
ズボンの飛行機ワッペンを二回タップ。
すると、絶対飛べなそうなずんぐり機体が、むくむくと現実世界に現れて。
「さっさと乗れ。逃げるぞ!」
ワッペンだらけなダサいズボンの彼は、彼なら、本当に私を救ってくれるかも知れない。
《⑪》
私は小さな頃から魔法の国に憧れていた。
◆
「あああ、なんて、なな、なんて素晴らしい魔法道具なのだ」
ゆで卵の最適なゆで時間が分かる商品。
魔法の国からやって来た彼の見事な驚きっぷりに、何とも複雑な気持ちになってしまって。
《⑫》
「タルフォスタ=マルマリータ八世」
「……流石は奴の子孫、見事なお馬鹿だ。そんな名前を病院とか葬儀とかで呼ばされる人間の気持ちを」
「大丈夫、化け猫は病院も葬儀も関係ないさ」
黒猫は露骨に嫌な顔。
略してタマ八だと付け加えると、華麗なネコパンチが飛んできて。
くまかめついのべ。⑬