水切り名人

とある暇人のお話し。

この度、私はペンションを買った。

私の貯金はついに５００万円に突入した。

ここで、私のとった行動。それは。
田舎の国道沿いにある、ペンションを購入したのだった。

前々から夢見ていた田舎の孤独な生活。
愛犬一匹連れて、いざ行かんと出発したのが一年前。
愛読書をごまんと持って、今日もさくらももこのエッセイ片手に涼しい部屋ですいよすいよと眠っていた。

ゴールデンレトリバーのジャックがウォン、と吠えて、散歩を催促する。
私はジャックを連れて、裏の川へ行く。
河原は広く、白い石と緑の水面が印象的だ。
ジャックは走り回り、泳いでいる。

私は石を掴み、水切りをしようと投げてみた。
一、二。
二回飛んで落ちた。
またやってみる。
いつしか夢中になっていた。

と。

ぱしゃぱしゃぱしゃ、と音を立てて、目の前を十回ほど水切りしていく石がある。
ふとそちらを見ると、永ちゃんみたいなジャケットを着たおじさんが、にやりと笑って立っていた。
私は負けじと、石を放った。
やはり、三回ほどで落ちていく。

水切り名人は投げまくり、私も投げまくった。

その内、上の駐車場から、「柿崎さーん、肉、焼けたでー」と声がかかり、柿崎氏なるおじさんは「おーう」と返事をして、「じゃあな、アホな兄ちゃん」と手を振って去っていった。

残された私は、まだ水切りをしていたが、肉の匂いに勝てず、ここは引き時とジャックを連れてコーナンの方に昼を買いに行った。
これはこないだの話である。

それから彼にはまだ会っていない。
今日も水切り、と私は頑張っている。
早く彼のようになりたいと思っている。
ジャックがじゃぶじゃぶと水から上がり、ぶるぶると身震いして、帰ろうよ、とウォンと吠えた。

ふと、思い立ち。