紫陽花を辿って
なんとなく思いつきました。
いなくなったのは誰であったか。
もう随分昔、こんな季節に、紫陽花の陰に隠れたあの子は、そのまま遠くに行ってしまった。
もういいかい。
まぁだだよ。
子供らの声が響く。
テーブルの上、切り取られた紫陽花の紫の花弁の匂いを嗅ぐ。
もうすぐ雨が降る。
存外生き物が好きな妻は、カタツムリをカゴに閉じ込めて、紫陽花を飾ってから、私に『探さないでください』と告げて出て行ってしまった。
もういいかい。
まぁだだよ。
紫陽花の近くに立ち、見えている小さな手足に向かい、もういいかい、と告げてみた。
『もういいよ』
小さな少女が顔をほころばせた。
次は、おじさんが隠れる番。
もういいかい、もういいよ。
紫陽花の陰に、隠れる。
もういいかい、もういいよ。
紫陽花を辿って
季節に合わせて。