紫陽花を辿って

なんとなく思いつきました。

いなくなったのは誰であったか。

もう随分昔、こんな季節に、紫陽花の陰に隠れたあの子は、そのまま遠くに行ってしまった。

もういいかい。

まぁだだよ。

子供らの声が響く。

テーブルの上、切り取られた紫陽花の紫の花弁の匂いを嗅ぐ。
もうすぐ雨が降る。

存外生き物が好きな妻は、カタツムリをカゴに閉じ込めて、紫陽花を飾ってから、私に『探さないでください』と告げて出て行ってしまった。

もういいかい。

まぁだだよ。

紫陽花の近くに立ち、見えている小さな手足に向かい、もういいかい、と告げてみた。
『もういいよ』
小さな少女が顔をほころばせた。

次は、おじさんが隠れる番。

もういいかい、もういいよ。

紫陽花の陰に、隠れる。

もういいかい、もういいよ。

紫陽花を辿って

季節に合わせて。

紫陽花を辿って

紫陽花の陰に、隠れる。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted