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迷うなと君が言う。僕は迷いながら頷く。きっと今の君みたいな表情を苦虫を噛み潰したような顔っていうんだね。

彼女が教えてくれた東京の赤い星。東京タワーが一番好きだけど、パンを頼りに帰ろうとするヘンゼルとグレーテルみたいで、ちょっとだけ飛行機が好きになった。海外なんて知らない。日本のこともちょっとも知らない。十字路のパン屋で朝パンを買うとたまごを1パックもらえることは知っている。そのぐらいしか知らない。でも、それで足りる。ぼくの世界の出来上がり。あそこのパン屋のパンはべつにそんなに美味しくない。焼きたてだから、なんとなく美味しい。その程度の幸福。ぼくの世界のサンブンノイチ。

妄想で君とキスして、付き合って、浮気されてフラレた。そんな独りよがりな失恋もパンを食べたら忘れる。たまごは明日目玉焼きにして食べよう。僕はしょうゆもソースもかけない。塩だけ。世界基準の2択はいつも僕にはつまらない。チャンネル争いなんてしたことないし、餃子にはなにもつけない。血液型だってもしかしたら変わってるかもしれないのに大雑把って言って、君は僕を知った気になってるよね。別にいいけど、さみしい。別によくないから、さみしい。どうせ目玉焼きを作るなら、半熟にしよう。さみしさをぐちゃぐちゃにして、たいらげる。僕のさみしさ孤独ままならなさ。ぜんぶ愛してほしいのに僕は僕が嫌いです。それでも、明日の目玉焼きに思いを馳せる。僕はこうやって未来を作る。明日がまちどおしいなんて嘘はつかないよ。ただ目玉焼きが食べたい。バターをたっぷり塗った焼きたてのトーストと一緒に。


20160505

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-05

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