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あの夜の心細さ。どこかへ行ったかも忘れてしまったのに。あの頃からずっとこの夜と同じさみしさを抱えていた。網戸越しの夏の夜。青色の夜が確かにそこにあった。あれは夢だっただろうか。不安に泣く子を大人ぶってなだめながら、私も泣きたかった。耐え切れない心細さを誰かに大丈夫だよと言われたかった。集団生活用の2段ベッド。あれは、夢だったかな。ふわふわのわたあめみたいな髪型の女の子。小さなてのひら。握りながら開いた他の部屋の扉。夢なのかもしれない。それでも、あの夜と同じさみしさを私はまたあの部屋で知ることになるだろう。まだ何もない慣れないフローリングの部屋に私の生活は溶けていくだろうか。死ぬことに怯えて、震えている私を守り続けてくれた世界を抜けて、私はどこまで歩けるんだろう。青い夜。最高密度と彼女が言った。言ってくれた。私はどこまで歩けるんだろう。さみしさと共に。ひとりになんてなれない。永遠に。   


20160505

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-05

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