"Let's rock and roll."

下町の古びた喫茶店で小耳にした「人は、簡単に死ねないものね……」という晩年を迎えた女性達の会話。

愛とは?幸せとは?
カタチのないものを求め続けて––––––


フィクションです。

誰の為に

(誰の為……かぁ)

品川から新幹線に乗りちょうど小田原を通過したあたりで座席で無意識にタバコを咥えてハッと我に返り慌てて喫煙ルームに向かう。
金曜の最終の新幹線で東京に向かい週末を過ごした。
誰に煩わされることなく思いつきで行き当たりばったり自由気ままを楽しむ予定だったし過ごした筈だったが––––
どうやら思惑とは、少し違う結果? いやある意味、思惑通りに過ごしてしまったなという敗北感と過ごしていた。

「帰ってきちゃった 」

そう打ち込んでスマホの画面を眺めながら誰の為?と自分に問いかけては、苦笑いを繰り返す。
最終の新幹線で帰る予定を早め正午の新幹線に乗っている今の状況を誰の為に? 何の為に彼に伝えようとしているのだろうと。

12時07分新大阪行き新幹線で品川を出て14時31分自宅のベッドに身を投げ込む。
これが私と彼の距離なのだなと思う。
駅までの高速料金と新幹線代に宿泊費にパーキングにガソリン代に……
いつもここで思考が止まる。
きっと脳が考えても無駄だと指令を出すのだろうと思い無理に悪足搔きは、しないことにした。いつからか物分り良くあることが楽な生き方だと悟った。
淡々と1日も早くこの人生を終わらせるには、それが一番の近道なのだと。

生きたくない

アラームの音がだんだん近づいてくるので仕方なく無理矢理ベッドから体を引き離しシャワーを浴びる。
遊ぶ為に働いている。
それ以外に働く理由を知らない。
それが私の現実で真実だ……
そんな生き方を指摘されることもあるが正直、それの何が悪いのかサッパリわからない。
たまにふと思うのは、何でも器用にこなす奴は、何も出来ないのと同じなのかもしれないなと思うことくらいだ。

「行きたくないないな」と「生きたくないな」がいつの間にかイコールになっていることには、随分前から気がついていた。
人生の中で生きてきた証を残す時期(大人)になった時から。

ただ不思議なことに……
私は、そんな自分が幸せなんじゃないか? と思ったりもする。
明日、自分がこの世から消えても悔いが残る要素がなかったりするのは、幸せなことかもしれない。そう思うからだ。

多分、やりたいことは、全てやり尽くしてしまったんだと思う。

彼に出会い。彼を愛したことで私は、満たされてしまったのかもしれない。

タイミング

「はい。消灯しますね」

TVのスイッチを切り、リモコンを持って最後の部屋を出る。

介護の仕事についたきっかけは、単純に身内が介護の会社をやっていたから。
人に聞かれれば、もっとらしい理由も取ってつけるが…… 実際は、自分に不向きな職業だとも思わないが特別な思い入れもない。

今日も1日が終わった。筈だった…… 彼のTweetを読むまでは。
感情を激しく揺らすことは、あまり得意じゃない。できれば、日々、淡々と穏やかに過ごすのが理想だ。
そんな私に唯一、生きているのだと感じさせるのが彼だったりする。
私の喜怒哀楽を支配し時には、泣き虫と煩わしさを呼び寄せる。

「タイミング……」

2、3日前に彼の知人がUPしたTweetを思い出す。
人の出会いも別れもタイミングなのだとスピリチュアリズム的思想を持つその知人は、呟いていた。

困った時の神頼み。信じる者は、救われる的な発想は、嫌いじゃない。
人がこの世に生まれた時に何かしらの課せられた役割があるとして、その課題をクリアするには、現実だけでは、過酷過ぎるのだと思うから。

タイミングは、人がまだ動物だった頃に身につけた危機回避能力の一つなのかもしれなくて無意識に合わせたり外したりしているものだとしたら?
彼と私は、まだその時では、ないから合わないだけかもしれない。
そんな風に私も私を救ってきた。

"Let's rock and roll."

"Let's rock and roll."

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-05

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  1. 誰の為に
  2. 生きたくない
  3. タイミング