酷い笑顔

酷い笑顔

酷い笑顔

酷い笑顔

君がニッと笑うと歯が見えた。そんなの当たり前だ。でも僕は当たり前じゃないんだ。君が目を細めてニッと笑うとまつ毛が動いた。そんなの当たり前だ。でも僕は当たり前じゃないんだ。君が眉毛を動かしてニッと笑うとシワ出来る。そんなの当たり前だ。でも僕は当たり前じゃないんだ。
君の笑う声だって聴こえるし、君が僕に向けての冗談を言って笑わせ様とやっきになる事もある。もちろん、僕は声を上げて笑った事もあるけど、多分、いや絶対にその声の音は君の鼓膜を振動させて神経を通って脳みそまで送られていないんだ。だって僕の笑い声は空気の中を伝わる事なんてないんだから。君がどうして僕の事を楽しませて笑わせ様とするんだい?って質問をした事があったよね?覚えてる?君は言った、人間は表情を外部に出してコミュニケーションを取るって、だから人は言葉だけではなくて顔の表情とかジェスチャーをしたりするんだと説明をしてくれたよね。ありがとう。でも僕はきっとそんなのいらないんだ、実際に君に話してる時の僕は口を動かしていないし、君も見ていないし、君の声も聞いていない。不思議に思うかい?だって僕は君みたいにニッと笑って歯を見せる口がない。細めて笑う目もない。眉毛を動かして笑う眉毛もない。だって僕は君とコミュニケーションを取るのはテレパシーだしね?あれ気づいてなかった?いくら何でも鈍感すぎるよ、君は。
俺はそう言われて吹雪の中、遭難している小屋の中で貴重なマッチを擦って火を付けた。俺はその目の前で座っている男を見て悲鳴を上げた。つるつるで何のパーツもない白い顔はマッチの淡い光を浴びてぼんやりとこちらを向いていた。すると小屋の中で笑い声が響き渡る。その男は酷い笑顔だった。

酷い笑顔

酷い笑顔

その男、酷い笑顔

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted