木枯らし亭の住人

寂し気な住人たちですが、割かし元気です。

父の残してくれたアパート。それが木枯らし亭。

大阪府大阪市東住吉区。

とある街角の、割と住みよいこの地域にそれは建っている。
木枯らし亭。共同アパート、家賃は五万五千円。
私はそこの主だ。

私の生活は、他人のそれとはずれている。
生活音を共にしないために、夜7時前には寝てしまい、朝4時半ころに目覚め、外を掃いたり、共同風呂を洗ったり住人の出したごみの分別や、ひたすら片づけをし、後は適当におはようこんにちはこんばんはおやすみなさいを言って暮らしている。

私の年齢は30歳。
ちょうど結婚適齢期も過ぎ、身軽な独身生活だ。
こないだ叔父と食事した際、貰った老齢のハムスターを看取る為に、愛犬をロッカーの青年に貸してやり、彼は愛犬を連れて軽い小旅行に出かけている。
叔父は懲りずにまたハムスターを飼うらしい。人寂しいのであろう。
いつでも遊びに来てくれと、部屋の鍵は渡してある。彼のためにあつらえた部屋があるのだ。

さて、スナックに通う敏子さんの黒猫のしいちゃんの餌をやりながら、ふと、「あんたそれ良いように使われてるだけじゃないよ」と従姉に叱られたことなど思い出す。
私が楽しいからいいのだ、と笑って返したのを覚えているが、いちいちこう思い出すというのは、やはりちくちくと来るものがあるのだろうか。
そう思いながらメダカの水槽の水を入れ替え、メダカをタモで掬う。

ふと、敏子さんの息子の眞中君がこちらを柱の陰からじっと見ているのに気づき、おいでおいでをしたが、ひゅっと隠れてしまった。
彼はいつもそうだ。物陰から私の一挙手一投足を見ているかと思えば、猫のように隠れてしまう。
まるでしいちゃんのように。

敏子さんは猫を二匹飼っているのだな、と一人納得する。
そんな眞中君が唯一寄ってくる時間。
私が昼頃ポストを開けると、ひゅっと走り寄ってきて、「今日はどんなのー?」と手にぶら下がる。
私はDVDを集めるのが趣味で、中にはアニメ映画もある。主にディズニーなどだが、彼はこれが待ち遠しいらしい。
二人居間のソファに並んで座り、DVDを点ける。

今日はキリクと魔女だ。

じっと無言で見入る眞中君。
私はその間にも、「あ、洗濯物が乾いたな」とか、「洗い物済ませちゃおう」とか、動くのだが、彼はテレビの前から微動だにしない。
そっとソーダを置いたら、さっと取ってちゅーっとストローを吸っていた。

それも済み、夕方前。
敏子さんが起きだしてきて、「眞中観てくれてありがとうございました、これ、夕飯に」とコロッケを出してくれた。
「ありがとう、助かります」と早速今日の夕飯に添える。

ぶるるんぶるるん、と外からエンジン音が聞こえ、見ると金髪アウトローな若者が、柴犬に赤いバンダナとグラサンを掛けさせた格好でバイクのエンジンを吹かしている。

「田中君、おかえり!」

玄関を開けてそう言うと、田中太郎君は、「ただいまっす、大家さん!」と犬のコタローを下ろしながら快活に笑った。三泊二日の小旅行、行ったのは海、としか聞いていない。

「これとかどうすかね、俺金無いから~」と彼はコタローの写真を大量に机にばらまきながら、貝殻や夕餉にと魚を取り出しながらてきぱきと作業した。
コタローがなんと泳いでいる写真にはびっくらこいた。こいつ、泳げたのか。そ知らぬ顔でちゃっかり太郎君の隣に居座っているコタローを見ると、ふっと視線を私から外した。
まるで、裏切ってしまいすみません、とでも言うかのようだ。

しかしおかえり、コタロー!

しっかりと抱きしめて頬ずりしたら、ペロンと顔を舐められた。

カラカラとハムスターが車輪を回す。
木枯らし亭の夕飯時だ。
彼らの夜は、始まったばかり。

さあ、私は片付けたら、寝てしまおう。
明日も良い日になりますよーに。

木枯らし亭の住人

もうちょっと捻れたかな?

木枯らし亭の住人

木枯らし亭に住む住人。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-01

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