「ごちそうさん」
今日はあの子。明日は、誰にしよう。そういや昨日のあの子はまぁまぁだったなぁ。
薄暗い軒下で、私は緑のワンピースを着てあの子を待つ。少し悲しそうな顔をして俯いていれば、優しそうなあの子は必ず来る。
「あの、こんな所でどうかしたんですか」
揃えられた緑のヒールの側に転がる石を十も数えないうちにあの子は近付いて来た。優しいあの子が差し出した手に自分の手を重ねて、それから少し甘えれば簡単に捕まえられる。何もしなくても勝手に絡まってくるから私は待っているだけ。それにしても、この子はお肌がお餅みたい。楽しみ。
昨日のあの子はそこそこ。そしてやっぱりお肌はお餅みたいだった。でも今日のあの子はとっても素敵。瞳の色と同じダークチョコレートの髪に、ハイカラな格好。そして少しだけ甘い香り。私好み。
いつもみたいに緑のワンピースを着て、いつもみたいに悲しそうな顔を作り、このワンピースに合わせて買ったお気に入りの緑のヒールをいつもみたいに見つめる。あの子はちらりとこちらを見る。でもそれだけ。つれないところ、私好み。
ダークチョコレートのあの子は甘い香りを残してどこかへ行ってしまう。でも、待っていればあの子は来る。そういうもの。
次の日、あの子はやっぱり来た。あの香りを連れて。
私の方をちらりと見て、またどこかへ行ってしまう。そんなつれないあの子に、今日は私から声を掛けてみる。
「もし、そこのお方。一つ、お訊ねしたい事が」
あの子はちらりとこちらを見ただけでまた前を向いてしまったのだけど、それでも昨日みたいにそのままどこかへ行ってしまったりはしない。あと少し。
「……貴女、昨日もここにいましたね。ここは危ないですよ」
「そうなのですか。私ここに来たばかりであまり詳しくないのですよ」
「はぁ。じゃあ、落ち着けそうなところに案内します」
「どうもありがとう」
また、ちらりと私を見て歩き出したいい香りのするあの子に着いて行く。やっぱり、とても素敵。今日の彼はとっても
「ばかだね」
「……え?」
目の前の彼が大きく口を開けている。いつの間にか彼に絡まった私は「あ、」という言葉ごと飲み込まれた。
「ごちそうさん」