デート

今日は日曜日。

新一の身体が元の大きさに戻ってからは、目暮警部達に黒の組織についての説明をしたり、警察が手を焼いていた事件を解決したりと、なかなか学校以外で蘭と会う機会が作れなかった。

今日はそんな多忙な新一の貴重な休日である。

幸いな事に目暮警部からの要請も無さそうなので、新一は蘭とデートの約束をしていた。

(9時、か…よし、そろそろ迎えに行くか。)

新一の朝食は基本、トーストにバター、簡単なサラダ、ベーコンエッグ、ヨーグルトだ。
そして最後にブラックコーヒーを飲むのが習慣になっている。

コーヒーを片手に昨日自分の解決した事件についての記事が掲載されている新聞を読んでいた新一は時計をチラリと見ると、腰を上げ、蘭に電話した。



ちゃーらっちゃーっちゃっちゃ〜〜…♪

蘭の携帯の着メロが鳴った。

(!電話だ!新一かな??)

『もしもし。おはよう新一。どうしたの?』

「おはよ。そろそろ迎えに行こーかと思ってんだけど、もう出れそうか?」

『うん、大丈夫だよ!今から家出るの?』

「ああ。そのつもり。」

『じゃあ10分くらいね。9時15分位にポアロの前で待ってるね!』

「了解。じゃあ、10分後な。」

『うん!待ってるね』


ツー…ツー…

電話が切れた。

(よし、行くか。)

新一は蘭の家へ歩を進めた。


「…蘭!待ったか?」

「ううん、大丈夫。」

新一が少し走って来たので10分位には蘭の家へ着いたのだが、蘭はもうポアロの前で待っていた。

季節は12月。蘭は少し寒そうに手に息を吹きかけた。
その自然な仕草にも新一は少なからず動揺していた。

(かわいい…。てか、今日の服、めっちゃ似合ってっけど、スカートが短いのが気になるな…蘭の足、他の野郎に見せたくねぇ…)

そんなことを新一がなんとも言えない表情で考えていると、

「変…かなぁ?今日の服…」

と、蘭が心配そうに聞いてきた。

今日の蘭の服は、キャメル色の長めのセーターに、膝上丈の白いフリルスカートだ。

もちろんもともとスタイルの良い蘭に似合わないわけはない。

「いや……すっげぇ似合ってる。」

「じゃあなんで変な顔で見てたの?」

「…ごめん。ちょっと、見とれてた」

「なっ…!?//」

ボンっと顔を真っ赤にした蘭は、はぐらかすように、

「さっ、さぁ、早く行こうよ!あれ?えっと、どこに行くんだっけ…?」

と早口でまくし立てた。

「…落ち着けって(笑)会ってから決めようって、昨日言ってたじゃねぇか。」

新一はそんな蘭の様子を心から愛しいと思いながらもからかうように言った。

「あっ…!そうだった!え…と。それで、どこ行く?」

「そーだな…蘭は?」

「うーん…あ!じゃあ、新しくできた、東都セントラルパークは?あそこ、一回行ってみたかったんだ!」

東都セントラルパークとは、最近東都郊外に出来た、複合型ショッピングセンターである。

「お、良いな。じゃあそこ行こーぜ。」

新一は自然に蘭の手を握り、駅へ向かって歩き出した。


〜〜東都セントラルパーク〜〜

「わぁ…!大っきいね、新一!」

「あぁ…噂では聞いてたが、想像以上だ。」

2人はセントラルパークを目の当たりにし、その大きさに驚いていた。

「ねぇ、早く行こ!!」

「おぅ。」

今度は蘭が新一の腕を引いて足早にモール内へ移動する。

「きゃー!すごーい!かわいーっ!」

蘭は入るなり北欧系の雑貨屋を見つけ、歓声を上げている。

「へぇ…お前もこんなの興味あるんだな。」

「なっ…!失礼ね、あるに決まってるでしょー?」

蘭は店内に入り、雑貨を物色していく。
アクセサリーのコーナーで蘭は立ち止まった。

(わ…これ、すごく綺麗。)

蘭が手に取ったのはシルバーのネックレス。花のモチーフがあしらわれている。

蘭の表情は一気に明るくなった。


(あ、そうだ、値段は………えっ!?2万円!?こんなの買えないや…)

ネックレスの値札を確認して、落胆する蘭。

(すっごくかわいいのに…残念…)

そんな様子を見ていた新一が近づいてきた。

「蘭?なんか気に入ったの見つかったか?」

「あっ、えっと…これがね?すっごく素敵だなって思ったんだけど……高いからやめ………」

ネックレスを棚に戻しながら言うと、

「ん。貸してみ?買ってやるよ。」

「えっ…!?だってこれ2万円も…」

蘭は驚いて聞き返す。

「なかなか会う時間作れなかったからな。そのお詫びじゃねえけど。」

「そんな…悪いよ!誕生日でもなんでもないんだし……」

蘭は躊躇った。

「気にすんな。俺が買いたいだけなんだからさ。」

「あっ…でも……」

そう言うと新一は蘭の手からネックレスを受け取り、レジへ持っていった。

スマートに会計を済ませてきた新一は蘭をラウンジへ連れて行く。

「ほら、後ろ向けよ。付けてやる。」

「ありがとう……ごめんね?こんな高いの……」

「良いって、気にすんな。1年もお前のことほっといたせめてもの罪滅ぼしだよ。」

「…ありがとう」

新一は蘭の長い髪の毛を持ち上げ、器用な手付きでネックレスを止めた。

「ん。付いたぜ。見てみろよ?」

蘭はバックからかがみを取り出した。

「わぁ…素敵!ほんとにありがとう、新一!」

少しはにかんだように笑う蘭に、新一の心臓はバクバクと激しく動き出した。

「良かった。…よしじゃあ、他の店も見にいこうぜ?」

「うん!」

新一と蘭は周囲に甘〜い空気を振りまきながら、移動していった。




(なんかさっきからお腹痛いなぁ……)

蘭は自身の体調の変化に薄々気付いていた。

(それに、ちょっとフラフラするみたい。なんだろ、風邪…?)

新一と繋いだのとは反対の手で、新一に気づかれないようにお腹をそっとさすった。




「あ!見て見て新一、楽器屋さんがあるよ!」

「お。ほんとだ。ちょっと見てくか。」

2人は楽器屋に入った。

「ねぇねぇ、ちょっと弾かせてもらったら?」

蘭が展示されているヴァイオリンを指して言った。

「うーん、そうだな。すいません、このヴァイオリン試弾してみても良いですか?」


「はい、構いませんよ。」

店員が答えた。


新一はヴァイオリンを構えると、蘭に尋ねた。

「何が良い?」

「うーん、やっぱり…アメイジンググレースかな?」

「了解。」

2人は中学の頃、喧嘩して口も聞かなかったとき、2人で河原でこの曲を聴いているうちに仲直りしていた。


〜〜♪


新一のヴァイオリンの音色が楽器屋中に広がり、みんな新一に釘付けとなった。

「…ふぅ。こんなもんかな?やっぱ1年も弾いてないと、鈍ってんなぁ」

新一は少し首を傾げた。


「そんなことないよ!凄いね新一は…」

「お前だってピアノ弾けるじゃねぇか」

「私のはちょっと弾けるってだけよ!新一のヴァイオリンとはレベルが違うわ。」

「そーか?蘭だってちょっと練習すればこれくらい弾けるようになるぜ。」

「元から器用な新一と一緒にしないでよ!」

「いやいやお前こそ………」

2人のテンポ良い会話に周囲の人たちはみな和まされていた。


(やっぱ新一は凄いな…私なんかが彼女で、ほんとに良いのかな…??ほんとは嫌だけど、幼馴染のよしみで渋々付き合ってくれてるんじゃ……)

蘭が要らぬ心配をしていたとき、

(…っ!痛!まただ…)

蘭は再度の腹痛に少し顔を顰めた。
新一にバレないようにお腹を軽く手で押さえた。


が、今度は新一の目は誤魔化せなかった。

「なぁ蘭、お前やっぱ調子悪いんだろ?」

新一がすごく心配そうに蘭の顔を覗き込んできた。

「えっ…!?そ、そんなことないよ?」

「嘘付け。俺を誰だと思ってんだ?探偵の目を欺けるわけねぇだろ。」

「っ、でも。」

「良いから。とりあえず、あそこのソファで休むぞ………」


新一が蘭の荷物を持ってやろうと蘭の後ろに回ると……

「……!?!?ら、蘭!?お前…怪我してんのか!?スカート、血が……!!」

なんと、蘭の白いスカートの後ろには真っ赤な鮮血が染み出していた。

「えっ、嘘……!?」

新一は突然のことにパニックになり、大声で騒いだ。

「は、早く病院に…!!」

「新一!大丈夫だよ…!」

蘭が大丈夫と言うも、新一は全く聞いていない。

「だっ誰か!この子、怪我してるんです、助け……!?」

「新一ぃ!お願いだから、黙って…….!!」

蘭が涙目で新一の口を押さえると、ようやく落ち着きを取り戻した新一が聞いた。

「お、お前大丈夫なのか?なんかの病気か…!?」

「…なんでもない」

蘭は俯いて答えた。

「なんでもないわけねぇだろその出血!とりあえず病院行くぞ?」

新一は焦って蘭を引っ張ろうとすると、
蘭に袖を引っ張られた。

「なんだ?早く行くぞ!」

「大丈夫…。……あれ……なだけだから……」

「“あれ”?何言ってんだ?早く…」

なおも病院へ連れて行こうとする新一。

「ほんとに、大丈夫だから。心配しないで?」

「だから、なんでだよ?明らかに怪我してる……」

「“あれ”なの……わかるでしょ?//」

「だからわかんねぇよ。なんだよあれって。行くぞ?」

「……り……」

声が小さくて聞き取れない。

「え?」

「…いり。」

「なんだ?」

蘭は察しの悪い新一に少しイラつきながら叫んだ。

「だから…っ!生理!女の子の日なの!!////」

大勢の前で「自分は今、生理中です」と宣言してしまった蘭は、顔を真っ赤にしてしゃがみ込んだ。


「なっ…!!//」


察しの悪い新一もやっと状況を理解する。


(ま、まてまてまてまて。蘭のスカートに付いてる血は、せ、生理の…経血?ってやつなのか?//)


「……私、トイレ行ってくるね……」

「あ、っ。蘭……」

蘭は新一を振り切って女子トイレへ入っていった。

(あぁ〜、朝からお腹痛かったのは生理痛だったのね……予定では1週間先だったのに……)

鏡で後ろを確認すると、真っ白のスカートにまるで日本の国旗のように色付いたお尻の部分。
この状態で暫く行動していたと考えると恥ずかしくて堪らない。

(どうしよ…着替えなんてないし…)


「らーん……?いるのか??」

(!!新一!)

「これ…とりあえず着替え買ってきたけど……」

(うそ!着替え買ってくれたの!?)

「新一?待って…」

蘭は女子トイレから出た。

「こんなのでいいか?」

出てきたのは紺色のスカートと、……生理用のショーツ。


「し、下着まで?//」

「あー…店員に説明したらこれもって言われて…//」

「ありがと……着替えてくるね?」

「あぁ。」


「新一……?どこ…?」

蘭が新一が買ってきたスカートに履き替えて出てきた。

「蘭。こっち。」

「あっ。ありがとう、この着替え…//」

「いや。それよりさっき…騒いじまって、ごめん。」

「ううん、私も恥ずかしくって、怒鳴っちゃって…ごめんね」

2人して謝りあう。



「あー………好きな女の子の体調にも気づけないなんて、彼氏失格だよな…」

新一は明らかに沈んでいる。


「そんなことないよ。新一、私が体調悪いの気付いてくれてたし…さっきだって、私を心配してくれてたから…でしょ?」

「さんきゅ。…それと、これからはもう無理せずに、体調悪かったら辛いってちゃんと言えよ?」

「うん…」

2人ともほんのり顔を赤らめながら話す。


「……生理痛…とかは、あんまり力にはなれねぇと思うけど…話くらいは聞けると思うからさ。」

新一の蘭を思う気持ちがとても伝わってきた。


「ありがとう…。痛み止めも飲んだし、だいぶラクになったみたい。お腹痛いの治ったら、お腹すいてきちゃった。そろそろ、ご飯にする?」

「お、良いな。実は俺も腹減ってきた。」

「良かった。」

「どこが良い?あったかいものが良いのかな?」

小さな気遣いが心地よく感じられる。

「そーね…ここ、行ってみたい!」

「了解。いこーぜ。」

「うん!」


2人は蘭の希望の飲食店へ向かった。

新一と蘭は以前よりも関係が深まり、素敵な1日を過ごせたことだろう。

デート

新一の気遣いが素敵です

デート

新一 蘭 生理痛

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-05-28

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