辞書とたこ焼きの共通点

西木眼鏡

辞書とたこ焼きは似ている。

「ねえ、たこ焼きと辞書のことだけど、どう思う」
 そう問われた僕はどきっとした。目の前で半球がたくさん並んだ鉄板、所謂、たこ焼き機でたこ焼きを造っている友達。ふたりで居るには少し狭い四畳半の部屋の畳の上の背の低いテーブルを挟んでのやり取り。中学生の頃に彼女から借りて、そのままの辞書について尋ねられているようで目が泳いだ。断っておくが、友達を指すために使った〝彼女〟という名詞は、一般的に恋人を指す言葉だと思われがちだが、今の僕らの間柄にはふさわしい言葉であるとは言えない。第一に僕は、彼女に好意を寄せているわけではなく、仲の良い友達として信頼をしている。よって、〝彼女〟とはただの代名詞でしかない。以上。
「黙っていないで、何か言ってよ。たこ焼きと辞書にていると思わない」
「似ているってどこが」
 本当に鈍感なんだからと言って、またくるくると鉄板の上に嵌ったたこ焼きが焦げないように回し始めた。
「たこ焼きと辞書。どちらもいろいろなものを詰め込んでいるじゃないの。当たり前のこと、知らないことや不思議なことね」
 確かに彼女が言うことはもっともだ気がする、僕も正しいと思う。辞書の表紙とたこ焼きのコロモはなんだか似ている。辞書の単語とたこ焼きの蛸はなんだか似ている。
「じゃあ、たい焼きはどうなのさ」
 僕は彼女に問うた。
「たい焼き。たい焼きは同じようだけど違うわ。一見同じようだけれど、あんこしか入っていないたい焼きは辞書の仲間だと言えないわ」
 最近のたい焼きはあんこだけじゃなくて、クリームだったり、もっと甘いものだったりあるんだと得意げに教えると彼女は、それじゃあたい焼きも同じだわと微笑んだ。
 たこ焼きを作り始めて、そろそろ焦げ目もいい具合になりいい焼き加減だ。アツアツのたこ焼きを彼女が端でひとつつまみ上げて僕に口を開けるように促す。ふと、先ほどのたこ焼きと辞書の共通点の話を思い出す。それからたい焼きの話も。辞書とたこ焼きが似ているのは、それぞれがいろいろなものを内に含んでいるから、たい焼きが辞書の仲間でないのは、あんこが一般的であるから。このことから僕はある一つの考えにたどり着く。
「待って。そのたこ焼きなにかおかしなものがあるんじゃないだろうね」
「たとえば」
「例えば、ちょ、チョコレートとか」
「甘くておいしそうだけど違うわ。ほら食べて」
 僕はおかしなものは入っていないんだと安心をして、大きく口を開けた。焼きたてのアツアツさと独特の触感と溶けるような中身を味わった。しかし、蛸だと思っていたものの感触が少し異なっていることに違和感を覚えた。
「ダウト。これは蛸じゃないね」
「答えは」
「答えは烏賊」
「正解」

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