見えない糸ver.001

僕たちの始まりの話。彼女とのこの出逢いは4年前まで遡る。
偶然なのか、必然なのか僕たちが出逢ったのはインターネットのどこにでもあるチャットサイトだった。

出逢い

中3の秋、おれは自分の部屋でただ1人何もすることもなくぼーっと天井を見上げていた。夏に部活を引退して一区切りがつき、友達とはゲームをしたり花火をしたりと今まで部活に割いてた時間を取り戻すかのように遊びに明け暮れていた。だが、楽しい時間はすぐに終わってしまいすぐ現実に引き戻される。当時は部活が引退したらすぐに志望校への準備を進めなければならなかったのだったが、おれは部活をまた続けるためにとりあえずで高校を決めていたから勉強はほとんどしていなかった。だからこそなにをしようかと1人で考えてる時間が多かった。もともと人付き合いが得意ではないおれにとっては苦ではなかったから、それなりに1人の時間を楽しんでいたのかもしれない。「あー、暇だー。」反応してくれる人もいないのにそう呟いた。1人が好きな寂しがり屋、こんな面倒くさい性格は他にはないなと1人で苦笑した。時計を見ると時刻は午後の1時過ぎ、家族が帰ってくるまでまだまだある。うちは他の家より厳しい方だったからたくさんゲーム持ってるはずもなく、持ってるゲームと言えば大人数でやった方が楽しいファミリーゲームしかなかった。中学の時なんて携帯なんて当然持ってなかったし、なにか暇つぶしになるものはないかなと辺りを見回した。テレビが目に入る。今はせいぜいワイドショーぐらいだろうと思い、すぐに選択肢から無くした。他にないなと思い、寝ようかと目を閉じようとした時父親のパソコンの存在を思い出した。ふとパソコンを見ると父親の仕事の物で溢れかえっていた。「あんじゃん。暇つぶし!」おれはまるで土の中に埋まってる宝箱を掘り出すかのように書類をどかした。バレたら後で怒られるかもとふと脳裏をよぎったが、暇になるよりかはマシだと即座に電源ボタンを押した。ウィーン。カリカリ。とパソコンが起動する。学校の授業でパソコンを使うことはあったが、自由に使えることはなかったからおれの頭は好奇心でいっぱいだった。家ではパソコンを触らせてくれなかったのも余計に好奇心を駆り立てたのかもしれない。パソコンが完全に起動したのを確認してまずはウェブサイトを開き検索に矢印を持っていった。なにをしようかなと思った時、ふと友達が「チャットおもしろいよ〜。」と気さくに話していたのを思い出した。慣れないキーボードと睨み合いながら、チャットと打ち込み、検索ボタンをクリックした。「え、こんなにあんのかよ。」普段パソコンを使わないおれからしたらそれは驚きだった。「とりあえず、これでいっか。」適当にスクロールして見つけたサイトを開いた。そのチャットサイトは大人数から2人だけで話せる様々なジャンルから話せるいろんな人がいるものだった。「んー。」少し悩んでから初心者集合!とタイトルされたルームに入室した。”ヒロさんが入室しました”チャットの1番上にぽんっとその一文が更新された。入室してみるともうすでに数人がグループの中で住んでる所や部活の話、様々なことを話していた。チャットは入るのも自由だったからすぐに新しい人が入室してきた。新しく入ってきた人は「こん!よろしくね!」と入力した。「あ、こーやんのか。」慣れない手つきでこん。と打って入力した。すぐにさっきまで別の話をしていた人たちが「こん!」「よろしくね!」といった文字が並んだ。しかし、すぐにさっきまで自分たちがしていた話に戻った。まるで部外者を自分たちの世界入れないかのように。「なにこれつまんな。」現実と変わんねーじゃねーか。と呆れていた時、このチャットのもう1つの機能を思い出した。個人同士で話せば話し相手が見つかるかも。おれはおもむろにこのチャットグループの一覧を開いた。チャットの名前はほぼ匿名で自由に決められる。そこの一覧には食べ物の名前や動物、読めない漢字の名前の人が並んでいた。その中で見つけた。”美嘉”おれは何故かその名前に惹かれた。ある恋愛映画の2人のうち美嘉はその1人だった。もう1人の名前はおれが使っていたヒロ。たったそれだけだったかもしれない。でも、その時なにか不思議な今までかんじたことのない感情を覚えた。この人に話しかけてみよう。さっそく個人の画面を開き、美嘉に「こん。」と入力した。さっきのグループの時とは違ってすぐには返ってこなかった。さっきのグループのトークの中で美嘉は話していなかったからもしかしたら、もうやめちゃったのかな。そう思ってトーク画面を閉じようとした時、返ってきた。「こん。」と。それが僕たちの出逢い。まだお互いの本名も知らず、存在するようで存在しない架空の人間美嘉とヒロとの出逢いだった。

見えない糸ver.001

見えない糸ver.001

遠距離恋愛のノンフィクション作品。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-26

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