疼き

明治かそこらの時代のお話。

胸の疼きは何の仕業か

時々吾の胸が痛む。
ドクッっとなったり、ちくっとしたり。

「全く。勘弁してほしい」

吾は御霊の命により、満月の頃だけ浮き世の世界に顔を出す。
満月は心が落ち着くわ。
欠けた月など、おぞましや。


「ほぅ」

と息をつき、どこぞの家屋とも知れぬ屋根に腰を下ろした。

相も変わらず、この世は害と規格外の作り物で覆われている。

はて、吾は害か。はたまた規格外立ったろうか、、??

「いまさら、か」

そう、今更だ。今更その様なことを知ったところで、吾の心ももう動かぬ。

「ねぇねぇ、おじちゃん。」

唐突に語りかけてきた童の方をみながら、この世にまだ吾が見えるものがいた事に驚いた。

「吾はまだその様な呼ばれかたをされる年ではないわ。」

「ふーん。じゃあお兄さん?」

心底興味など無かろうて。

「人間が付けた呼び方等、吾の枠には当てはまるまいぞ」

「そうなのかぁ。じゃあ、、」

何故吾に構うのか、何故吾に名前を考えているのか。皆目検討もつかぬ。
はぁ、怠いこと。

「なぁ童よ。」

「童って僕のこと?」

「あぁ、そうだ童よ。よく話を聞いておけ」

こういう童には、灸を据えねばなるまい。
浮き世のものと狭間のものが交じることはあってはならない。

「吾に構うな、童よ。さもなくばお主も此方側へ来ることになるぞ」

少し嵩ましして言わなくてはな、この頃の童はすぐに引き込まれる。

「、、、分かった、僕からは会わない。けど、お兄さんから会いに来てよ」

はて、この童は吾の話を聞いていたのだろうか?

「おぬし、吾の話をきいておったか?」

吾は、この世のものでないものと、二度と会うなと言ったのだと、吾も『あちらの世界』のものなのだと、こう言ったが願いは聞き届けられはしなかった。

「お願いだよ、お兄さん。僕に会いに来て、約束してよ」

お願い。約束。これは吾を縛り付ける言葉でしかない言葉でしかない。

しかし、約束を取り付けられた以上、それを断ることも吾には出来ぬ性分であったがゆえに。

「致し方無し、妥協してやった結果ぞ。しかと吾に感謝せい。」

吾が見えるということは、この童は他の異形も見えるはずだ。

「しかし、此方からも一つ、お主に守ってもらわねばならんことがある」

「なに?」

「わし以外の『もの』が来ても、絶対に言の葉を交わすでないぞ。」

人間が異形のものとはなすとき、それは大抵死を意味する。

「うん、分かったよ。」

全く、浮き世の世界は辺鄙なこと限り無し。

疼き

続きます

疼き

浮き世のものと、狭間のものが、親睦を深めるお話。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-25

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