この子を連れて
刹那的な良い話。
私はしがないマンガ家である。
私はしがないマンガ家である。
いつも筆ペンで、個性的且つ家庭的な漫画を描いては、編集者に見せ、「ま、勝郎さんらしくていいんじゃないですか」と言われる。
五頭身のキャラクターたちは、いつも平和な事件を乗り越えては、日々をすごしている。
十日前、姉が死んだ。
葬式で、姪っ子が一人でいるのが哀れで、何ができるともないが、この子を笑顔にするまでは帰れないぞ、と思い、義兄に無理やり頼んで、姪を連れて旅に出た。
電車の中で、負け郎のかっちゃんと異名を取る私は姪にも気を許されており、「あれは何?」「どこに連れってってくれるの?」と無邪気に聞かれた。
ほい弁当、ほいご当地キティーちゃん、と姪に手渡しながら、「さあどこへ行くんだろうね」「あれ、見てみ、ロケットみたい!」などと会話は弾んだ。
その内、海の近くの駅で降りた。
姪はスキップしている。なんだ元気だなぁと思いながら、この子に母がいないのを思い出し、寂しくなる。
この子じゃない、私が寂しいのだ。純粋に。
姉がいればなぁと思いながら、先を行く姪のおかっぱ頭を撫でていたその人を思う。
林を抜けて、浜に出た。
靴と靴下を脱がせて、「遊んでこーい!」と言うと、「キャー!」と言ってあの子は駆けていった。
浜に手を突き、腹を突き出して座り込み、その様子を見る。
海の下、学校の制服を着た姪が地元の子に交じり、そのご両親に声をかけてもらいながら、遊んでいるのが目に入る。空の青と海の青が混じる。
あの子は元気でやっていく。
なんだ、笑わせてもらったのはこっちだった。
そう思うと泣けてきて、目元を拭ったら、絵描きの性分か、空を背景に姉の顔で「泣いちゃいかーん」と吹き出しをつけて笑っているのが目に見えた気がした。
「おっちゃーん、おりゃー」とあの子が泥団子を投げつけてきて、いったん思考停止。子供たちとの泥合戦になった。
帰り道、泥だらけの私と裸足の姪は寝こけてしまい、駅を一つ逃した。
眠っている姪を背負って帰る道のりは、幸せなものであった。
カラスが一羽泣いている。アホかーアホかーと。
その後、海の青と空の青を使った、墨の顔が「んまい!」とビールを飲んでいるポスターを仕上げ、私の仕事ははかどった。
姪は今でも、元気に学校に通っている。
私はそのことが、何よりも嬉しい。
あの日拾った貝殻が、小瓶の中できらりと光った。
この子を連れて
か、書けました(感動。