Old Rose ~緋月の姫君~
初めまして。夢羅と申します。
普段は二次小説を書いていますが、いつか、オリジナルを書きたいと思っていました。
今回は、pixiv、小説家になろうに投稿済みの話をこちらにもUPさせていただきました。
どうぞよろしくお願いいたします。
「OK!」
眩しいライトに照らされること5時間。
やっと仕事が終わったボクは、うーんと大きく伸びをした。
「おつかれ!」
口々に労いの言葉をかけてくれるスタッフに笑顔で返事を返し、ボクはスタジオを後にする。
「お疲れ様、緋月ちゃん」
控室では、今回の衣装をデザインした、幹デザイナーがボクを待っていた。
「さすが緋月ちゃん!すてきだったわーっ」
因みに、彼、れっきとした男である。
偏見ではないが、結構デザイナーさんにはこういった方は多い。
やっぱり服をデザインしたりするのって、そういう観念ふっ飛ばしちゃうのかな。
「幹さんの服が良いんですよ」
これはお世辞ではない。
彼の服はホントに素敵だと思う。
変にごたごたしてないし、スタイリッシュだ。
でもって、ユニセックスなのが良い。
「緋月ちゃんじゃないと着こなせないわよ」
専属の衣装をしてくれてる、早希ちゃんが笑う。
「そんなこと無いって。それに今は緋月じゃなくて、響だってば」
着替えるためにカーテンを引きながら、隙間からウインクを1つ。
響~きょう~それがボクがモデルをするときの名前だ。
「響って、彼氏とか居るんっすかね」
着替え終わったボクは、もう一度皆に挨拶しようとスタジオに向かった。
そしたら聞こえてくる、そんな会話。
「いるよーん」
ひょっこり顔を出してそう言うと、派手に驚いたのは今回の照明をやってくれた佐伯さんだった。
「わぁっ!?」
「あはは、そんなに驚かなくってもいいのに」
そんな幽霊でも見たみたいにさ。
「響ちゃんって彼氏いんの!?」
「まじかー。オレ、デートに誘おうとしてたのに」
なんだか悔しそうに悶絶するスタッフが数名。
「みんなでデートなら大歓迎だよ~ん」
ボクはヘラリと笑って手をパタパタ。
もちろん、みんなでのところを強調する。
だって、そうしないと変な誤解する人もいるだろうし。
「ついでに言うと、彼氏じゃないんだよね~」
そう。
彼氏じゃない。
「言っとくけど彼女でもないから」
一応念を押しておく。
変な勘ぐりされるのはやだし、ボクは見た目が中性的って言われるから、たまにそういう目で見られることもあるし。
先に言っといたほうが良いよね。
「え゛」
どっから声だしたの?って思うような声がみんなの口をつく。
「ってことは……」
「旦那様だよ~ん」
「えええっ!?」
おやまあ、みなさんすっごい顔。
「結婚してたの!?」
「うん。幼なじみで、許婚で、現、旦那様。小説家してるんだ」
「許婚って……」
「うち、結構古ーい家でね。お祖母様が決めた許婚だったんだ」
いまどきそんなことあるのか?
みんながヒソヒソ話をし始める。
「因みに、夫婦仲は?」
うん?
なんだか下心ありありですな。
「もともと幼なじみだったし、結構好きだったし、今は結婚してよかったと思ってるよ」
そう、それに――
「相性が良いんだよね、体の」
真っ赤になったスタッフ。
「お疲れ様でした」
大きな声で挨拶をして、ボクはスタジオを後にする。
さーて、今日もいつもの場所に行きますか。
長い長い銀の髪が、風になびいて舞い上がる。
こんなにビルが多いと、ビル風も結構すごい。
お気に入りのビルの屋上、フェンスの上に腰掛けて、ボクは下界を見下ろす。
「人がありさんみたいだ」
ボクは時間があるとこうやって屋上から人間観察をする。
って言っても、こんな高いところじゃ、細かくは見えないんだけどね。
「増えたねぇ。人間が」
昔はもうちょっと少なかった気がする。
でもって、こんなふうに高い建物もなかった。
下から空を見上げると、四角く切り取られてる感じがして息がしにくい。
だから、ボクは高いところに上っちゃうんだよね。
「緋月」
唐突に現れる黒い影。
黒い髪に、黒のスーツ。
唯一の色味は深紅のリボンタイだ。
「凛月」
因みに、彼、フェンスの上に立ってる。
ま、ボク達からすればなんてことはないんだけどね。
「よく飽きませんね」
一瞬にしてボクの後ろをとって、凛月はボクを抱きしめた。
ビル風で少し寒かったから、凛月の体温が気持ちいい。
「飽きないよ。だって、人は面白いからね」
そう、ボク達は人間ではない。
ボクは、齢220歳の純血のヴァンパイアだ。
そして、彼も――
「んぅっ」
首筋に突き立てられる牙。
甘い痺れが体に宿る。
「緋月の血は、天上のの甘露のようですね」
「は……」
耳元で囁かれる低い声。
身体に残る熱。
セオリー通り、吸血鬼に血を吸われると起こる快楽。
くらり
めまいがした。
「食事、してますか?」
「……普通のは……」
あからさまに呆れた顔をして、凛月はため息をついた。
「菜食主義になって、何年経ちますか」
「……何年だろ」
むか~し、ボクは人間の血を吸っていた時期がある。
でも、ある日、それを止めた。
キッカケは……何だったかな。覚えてないや。
でも、その日から、ボクは血を飲むことを止めた。
元々お肉とか、お魚って好きじゃないし、血も嫌々飲んでたから、渇きは辛かったけど、ホッとしたのを覚えてる。
「私の血を飲んでかまいませんよ」
凛月は笑って首筋をボクの口元に差し出した。
甘い香り。
とうの昔に忘れたと思ってた渇きが、蘇る。
「……いい。やめとく」
吸血する代わりに軽くキス。
「仕方がない人ですね」
やっぱり呆れてるんだ。
凛月はため息をついて、僕の顔を見る。
「上のお口からが嫌なら、別のところから摂取するしかありませんね」
……そう。
どんなにあがいても、吸血鬼には血が不可欠。
100%カットすることは出来ない。
ボクがそれでも生きていけるのには、凛月っていうパートナーが居てくれるからっていうのが大きい。
あと、ボクが女の子だったっていうのもかな?
「最近、夜も出歩いてるみたいですけど」
耳たぶを甘噛して、囁く、甘い声。
「今夜は帰って来てくださいね?奥様?」
くすり
小さな笑い声が聞こえる。
突然無くなる凛月の体温。
「たくさん可愛がってあげますから」
そんな言葉を残して、凛月は風に消える。
「……は……あ……」
凛月ってばひどい。
こんな体のボクを一人にして、先に帰っちゃうなんて。
吸血鬼であるボクは、誰かの血液――言い換えちゃえば、体液を摂取しないと生きていけない。
凛月が男で、ボクが女で、口以外のところから摂取する体液なんて、すぐに分かっちゃうよね?
ボクは今夜、一週間に一度の『食事』をする。
凛月と……体をつなげて。
ふるりと体を震わせる。
身体に残った残り火みたいな熱と、あの人の腕の中で与えられるモノを考えて。
「ああ、吸血鬼って不便だ」
ポツリとつぶやく内容と、にやける顔があってない。
ボクはヴァンパイア。
この世で最も自由で、最も不便な。
「さて、そんじゃ、帰ろうかな」
結構風も冷たくなってきたし、お家に帰って、色々準備したいこともあるし。
ボクはふわりと宙を舞う。
人間には気づかれない様に、気をつけながら。
登場人物設定
緋月:響(きょう)という名前でモデルをしている。
銀の長いストレートの髪、アメジストの瞳。
中性的な容姿に、普段は基本ユニセックスな服を好む。
実は齢220歳の純血のヴァンパイア。
菜食主義で、人間の血は飲まない。
その代わり……?
凛月:緋月の旦那様。
小説家をしている。書いているのはヴァンパイアが主人公で、リアルな描写が人気である。
実は、小説の内容は殆ど自分たちの日常を書いたもので、緋月からは詐欺だと言われている。
黒髪で少し癖っ毛。長さは背中くらい。
瞳は茶色だが……。
かなりの美人さん。普段から服装は黒のスーツに深紅のリボンタイで統一している。
彼も齢250歳の純血ヴァンパイア。
今でも吸血するが、純血の緋月の血が一番好き。
人間の血はまずくなったと思っている。
Old Rose ~緋月の姫君~
いかがだったでしょうか。
つたない文章で申し訳ありません。
今後の話は、順次UPさせていただきたいと思います。
ご意見などいただけましたら泣いて喜びます。
閲覧、ありがとうございました!