喫茶店
私は今の事を覚えない。
私は過去にいつまでも惹かれる。
昔の写真のようなセピアの記憶を求めている。
ピアノの鳴ったカフエのような落ち着きを求めている。
コーヒーの横に置かれた角砂糖のような優しさを求めている。
何時までも旅の写真に焦がれる。
ペンと原稿用紙に手を伸ばしては、体験したことのない記憶ばかりを記す。
緑の陰に涼しく包まれる少年少女のような甘く酸っぱい心持ちを望んでいる。
手に取ったペンと原稿用紙が何時の間にか黄ばんで日に焼けていくのを見ている。
私は何時にいるんだろう。
このカフエのような趣きに居れたらと何度思ったことだろう。
私は何時までこうして紙にばかり向かうのだろう。
コーヒーをもう一杯お替わりをしてして、ゆっくりと流れた時間が戻る時には、もう私は此処には居ないことを願う。
喫茶店