見知らぬ夢は、儚き想いの中に
三題話
お題
「雪」
「遊ぶ」
「大人も子供も」
どこまでも続く白い世界。
わたしの周りは見渡す限りの真白な雪原。だけど、不思議と寒さは感じなかった。
「どうしたの、ぼーっとして」
振り返ると、そこには女の人がいた。
「何でもないよ。おかあさん」
自然とそんな言葉が出る。
するとわたしは抱き寄せられて、優しく頭を撫でられた。
「何かあったのでしょう?」
その問いに、わたしは何も答えず目を閉じた。
ここには何もない。わたしには何もない。
ただこうしているだけでも、心に小さな火が灯ったようにじんわりと温もりが伝わってくる。
それがとても幸せで。
「おかあさんに嘘をついても分かってしまいますよ。あなたの言う事は、私が誰よりも理解していますから」
「うん。あのね、わたし……」
寂しいの。
いつも独りだから。
毎日が楽しくないわけじゃない。
でも、寂しいの。
「寂しい思いをさせてしまって、ごめんなさいね」
強く抱きしめられて、少し苦しい。
でもそれが心地良く感じられる。
今まで感じることのなかった、不思議な感覚。
「おかあさん、あのね……」
◇
その日の朝の目覚めは最悪な気分だった。
「…………」
わたしは母のことを、顔も雰囲気も、何一つ思い出せない。それなのに夢に出てきた。
こんなことは初めてだった。
まだ夢の中で感じた温もりが身体に残っている。そんな気がしてしまう。
それはとても、とても悲しいことだった。
昨日読んだ小説がいけなかったのだろうか。親子が再開するストーリーだったから。
わたしの場合は、全く覚えていないから初対面と変わらないだろう。
それなのに、夢の中では母であると認識出来た。
おかあさん、と呼んでいた。
白い世界の中で二人きり。他の人は、大人も子供も存在しない場所。
二人で遊んでいたのか、何もしていなかったのか。
一緒に過ごした時間は、とても大切な思い出。
でもそれは脳内が作り出した映像でしかない。
ただの夢。それ以外の何物でもない。
わたしが知らないはずの、母との思い出。
「……はあ」
自然と溜息が漏れていた。
わたしは窓の外を見る。
真っ白な世界。いつまでも雪が降り続いている。
もしもおかあさんに会うことができたときは、わたしは笑顔で迎えることができるだろうか。
見知らぬ夢は、儚き想いの中に