小首を傾げる彼女
三題話
お題
「何度も言わないで」
「大真面目」
「寝違える」
デートの待ち合わせ。彼女は二十分遅れてやってきた。
「ご、ごめんなさい」
でもなんだか様子がおかしい。頬に手を当てて、顔は斜め下を見ている。
さっきからちらちらと視線を向けてくるだけ。
「うん。それは早めに連絡くれたからいいんだけど……調子でも悪いの?」
「ううん、元気だよ。大丈夫だから」
そう言って彼女は僕の腕にしがみ付くように身体を寄せてきて、僕が何かを言う前に歩き出す。
彼女の方から身体を密着させてくるのは初めてだ。いつも手を繋ぐことすら僕からしないと何もしてこない。特に人前だと手を繋ぐことすら恥ずかしがって、ましてや彼女からべたべたしてくることは今まで一度もなかったのに。
今は僕の肩に頭を乗せているし、やっぱり身体の調子が悪いのではないだろうか。
「なあ、もし辛いのなら無理しなくても……」
「無理はしてないよ。えっと、今日は少し甘えたい気分なの」
「そ、そっか」
彼女からそんなセリフが出るのも初めてで、僕は顔が熱くなってしまう。
嬉しかったけど、やっぱりどこかおかしい。
いきなりこんなに甘えてくるなんて、どう考えてもおかしい。
もしかして僕に何か隠し事があるのか? 疚しい事があるから態度がおかしいのだろうか。
(まさか、浮気してるとか……?)
いや、彼女はそんなことをする人ではない。もし他に好きな人が出来たのなら、はっきりと僕に別れを告げるだろう。中途半端なことはしないはず。
そういう芯の強い優しさを持っている女の子であると、僕は知っている。
だから男関係ではないだろう。
それなら、一体何があったというんだ?
…
僕は彼女に何があったのか気になって、今日はどこへ行ったのか何を話したのかあまり覚えていない。
まあいつものように適当にぶらぶらしながらのウィンドウショッピングだったのだが。
今はコーヒーショップで、窓際の席に二人並んで座って休憩中。
いまだ斜め下に顔を向けたままの彼女は、飲みづらそうにカップへ口を付ける。
僕は勇気を出して、彼女の様子について追求してみることにした。
「ねえ、今日は来たくなかったの?」
「ううん、そうじゃないの」
「どうして、ずっと顔を背けてるの?」
「そうじゃないの。そういうわけじゃないの」
彼女は気まずそうにしている。僕から彼女の表情は全く見えないが、声の感じでなんとなくわかる。
「じゃあどうしたの? 今日はずっと様子が変だよ」
「あのね……寝違えて……」
「えっ?」
「だから……寝違えて、首を動かすと痛いの」
「あ、ああ」
だからずっと斜め下を向いていたのか。
そんなことで僕はいらない心配をしていたのか。
そう思うと、自然と笑えてきてしまった。
「ちょ、ちょっと、笑わないでよね」
「ごめんごめん。でもそれならそうと初めから言えばよかったのに」
「……だって、恥ずかしかったんだもん」
その拗ねた声が、今までで一番かわいかった。
小首を傾げる彼女