東雲を数えながら
※1秒の大罪※
ミルフィーユの空に翻弄されながら
1つ1つ飲み込まれていく星の瞬き
もうすぐ朝が訪れる
1日が始まるのよ
静寂の街を支配してゆくの
躍動する音の波
身体突き刺す眩い光
新しい1日を待ちわびる人々
慌ただしく瞬間を刻んでいく
ありきたりな日常だと人は言う。
同じ瞬間に出会うことなど有り得ないのに?
何故何も感じないのだろう。
1日は1秒1秒の積み重ね
その1秒に戸惑い、もがき苦しみ、怯えている者達が
この地球に溢れている。
あなたが瞬きする1秒を
待てず旅立ち逝く人がいる。
これも又、日常の1つなのに。
遠き記憶の隅っこに、しがみついてる光景が浮かぶ。
「一瞬一瞬を大切に!
君たちには輝く未来が待っている!」
ぶくぶくカニの叫びの如く
黒板にドデカク書きなぐった文字を
白いチョークで何度も突き刺す。
【青春】と書かれた歪んだ文字は
理想という熱でユラユラ蠢く。
(今、輝いているのは、あなただけよ)
1人1人の頭から浮きでる吹き出しを
見えていない先生こそが、THE青春。
冷めた生徒が大人にみえた。
思春期の主観は生涯最も大人かもしれない。
1秒1秒を重き物とし積み重ねては生きていけない。
密度は上限なき塊となり
耐え切る生命力を奪うから。
器用に操れる柔軟さを持たない者は
秒針の脅迫に耳を塞ぎ
デジタルな数字のカウントダウンに震え
自己の存在意味を見失う。
無様なあたしの様に。
たった1秒で1日が動き
たった1秒が季節を変え
たった1秒は新たな1年を作り上げる。
人はそれを区切りにし、生き方を変え
夢と言う曖昧な幻想を抱かせ
狂喜乱舞と律する者とを混在させる
同化していく鼓動にあたしは戸惑う
ただ怯えることしかできない無力さ
時を刻む秒針が体内で鳴り響き続ける
=繰り返す日常なんてこんなもの=
脳内を覆い尽くす澱んだ思考が
今夜もあたしを苦しめる
この瞬間も時は止まることを知らず
あたしは翻弄され続けてる
愚かなことだとわかっているのに。
ふらふらと夜空をみあげているのは
浄化したい心の叫び
瞳に映るは、ほろ苦い月と
悪戯な灰雲
月を隠す雲は流れ
月光を掴みとるまで
1秒1秒を積み重ねる初夏の夜
どうか
東雲が訪れる前に
柔らかな月光で
今日という日を終えさせてください。
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※囁きの扉※
古いビルの小さなBarカウンターで
1人、あたしは憂いを興じる
マスターは黙々とグラスを磨き
カウンターの角には、パイプを燻らす細身紳士
頬杖ついてグラスを眺める私
誰も言葉を発しない
けれど
ゆらゆら流れる時間は心地良い
マスターは、ぐるっと店内を見回すと
頷くような眼差しで棚から抱くようにLPを取り出した。
優しく置かれた針はプツプツと静寂に穴を開け
異国のステージへ導いていく。
針が飛んでしまわぬよう、煙の流れを気にしながら
そっと空のグラスを差しだす紳士。
瞳がキラリと光って見えたのは
オレンジ色のライトが眩しかったのかもしれない。
まもなく星は姿を隠す。
心地よかった時の流れが茜空に溶け込んでいく。
夏近し風は、頬に、身体に絡みつき
今宵の記憶を消していく。
東雲はライトの輝きのように
時空の扉にたどり着けるのだろうか?
無言な者たちは、
見上げた空に問いかけるよう
共有した時間を1つ1つ空へ投げながら
小さな会釈と共に、新たな1秒を刻みはじめる。
東雲は月を隠し
星を飲み込み
急速な膨らみで鮮明に街を映していく。
動き始める時間に負けぬよう
甘い記憶の余韻を胸に
歩き出す、3つの背中は泣いている。
強さを増す光眩しくて
ふらつく足元,尚愛おしくて。
初夏の東雲…今日が始まる。
東雲を数えながら