殺し合いはゲームの中で
第1回、プロローグ
「ねぇ、あなた」
俺を呼ぶ声に振り向いた瞬間、ナイフが俺の腹を穿つ。
即死に至らなかったのは幸い。いや、不幸か。消えていく意識に抵抗するように鋭い痛みが体を駆ける。
赤い、紅い。真っ赤な水溜りが広がって俺の視界を染めていく。
ああ、俺は死ぬんだ。腹に残る痛みを受け入れて思う。
何故俺は殺されるのか。そして俺を殺したこの子は誰なのか。
霞む意識の中で今朝の記憶を呼び起こした。
俺────桂木春は高校生だ。真面目と言えば聞こえがいいが単に面倒事が嫌いなだけ。
問題を起こして怒られるより黙って言う事を聞いた方が楽なだけだ。
・・・・・・と、簡単な自己紹介はこれくらいにして学校へ行かないといけない。
簡単に身支度を済ませた俺は家を出る。
目が眩む程の晴天。照りつける日差しに焼かれながら歩く俺の視界に不思議な風景が映り込んだ。
バニーガールが広告を配っていた。これ自体はおかしいことはない。どこの町でも見る。
おかしいのは周りの人達。バニーガールの目の前を通る人が不自然に多い。
そして、その全員が広告を受け取っている。
これがバニーガールの魔力か。なんて馬鹿みたいなことを考えながらバニーガールの元へ向かう。
学校に行くには通らなきゃいけないんだ。決して広告を貰いたいわけじゃない。
「どうぞー」
「ありがとうございます」
広告を受け取って見る。招待状・・・・・・? 怪しい装飾と共に書いてある文字を読む。
なんというか、怪しいお店の広告みたいだ。
グシャグシャに丸めてポケットに突っ込む。ちょっと期待した俺が馬鹿だった。
何の変哲もない俺の人生は続いていく。この時はそう思ってたんだ。
学校の鐘が鳴って放課後を告げる。
荷物を持って帰ろうとする俺の耳に横の男子生徒の会話が入ってきた。
「そうそう。今朝な、面白いチラシ貰ったんだ。見ろよ、招待状だって」
「俺も貰ったぜ。これだろ?」
「おう。でも装飾違うな。俺の方が豪華だ」
ちらっと横を見ると確かに装飾が二種類ある。金と銀。ちなみに俺のは銀だ。
「どっちが当たりなんだろうな」
「当然金だろ。そんなもの火を見るより明らかってやつだぜ」
それから景品がどうの、と話が続く二人を放っておいて教室を出た。
外に出て広告を空にかざす。特に理由はないが、何となく・・・・・・だ。
だがそれは何かが合ってるらしい。
紙の裏に文字が透けて見える。当然裏には何も書いていなかった。
すべ・・・・・・始ま────そして・・・・・・りの音。告げ・・・・・・、
「ゲーム・・・・・・スタート・・・・・・?」
その瞬間、俺の世界は光に包まれた。
光が消えて視界が開ける。が、そこに俺の知る町はない。
俺の目の前を歩く獣の耳を持った人間達。見覚えのない店。
いや、前言撤回。店には見覚えないが、町並みは知っている。
この店の並び。店の名前。それは俺の町の商店街と同じものだった。
どういうことだ・・・・・・? 混乱する頭を抱える俺に声がかけられる。
「ねぇ、あなた」
そして今に至ったわけだ。
なるほど、分からん。全然分からない。
まあ、心残りは山ほどあるが死んでしまうのなら仕方ないだろう。
闇に飲まれる意識は止まることなく俺の視界まで飲み込んだ。
殺し合いはゲームの中で