くまかめついのべ⑨

《①》
「あたらしいおかねをつくったの」
楽しそうな娘さん。
味のある猫の絵が描かれた新通貨。
今なら百億のんちゃん円と百円を交換出来るらしい。

あの日からたったの二週間。
給料の支払いが『のんちゃん円』に変わる事が決まった。
あの日の自分を全力で殴り飛ばしたい。

《②》
「翼を下さい」
死の淵で、死の瞬間、死の間際に。
「翼が欲しかった」
少女が、おじいさんが、山猫が。
皆がそう願いながら死に、そう祈りながら死んでいった。

「翼、ですね」
画面を見ながらお医者さんは苦笑い。
お尻にカメラを入れられたまま、僕も苦笑い。

《③》
大きく息を吸い込んで、ケーキの蝋燭を睨む。
やんわりと、誰かの気配が増えた。
「……」
とうとう現れたな。
薄暗い部屋の中で、仲間たちとアイコンタクト。
今この部屋に、祝い男が居る。
今日こそ奴を『他人の祝い事を勝手に盛大に祝う罪』で逮捕するんだ。

《④》
見事な芸術作品。
素晴らしい造形美。
この前訪ねてきたおじさん達がそう言っていたので、嫌な予感はしてたんだ。
「残念ながら」
ずきん、と痛む奥歯。
歯医者さんはドリルを止めて、僕に謝った。
重要文化財に指定されてしまっては、と。

《⑤》
「今度こそ汚名挽回を」
彼は必死に頑張るけれど、いつもいつも裏目裏目の空々回り。
「ありがとう」
「助かったわ」
「天使様のようだ」
小さな悪魔は必死に悪事を働くけれど、何故だかいつもいつも誰かを助けてしまって。

《⑥》
おじいさんは山へ柴刈りに。
おじいさんは山へ柴刈りに。
おじいさんは山へ柴刈りに。
おじいさんは山へ。
おばあさんは川へ洗濯に。
おばあさんは川へ洗濯に。
おばあさんは川へ洗濯に。
おばあさんは川へ。
空前の桃太郎ブーム。
川は汚れ、山は丸裸になりましたとさ。

《⑦》
「はは、パンを作るおじさんは狙われないのさ」
変人博士は戦闘中もすぐ隣、僕の様々なデータを事細かにチェックしている。
「……偶にあのおじさんも襲われます。十分気を付けてください」
自分の価値を知らないこんな人が、世界の最後の希望だなんて。
本当、人類も大変だ。

くまかめついのべ⑨

くまかめついのべ⑨

ついのべまとめでござい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-18

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted